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8月12日

7月某日
昔から好きなアーティストのオートモアイ氏の展示が、六本木のアートスペースであると聞き、向かう。同行に漫画家のかわかつとくしげ先生。かわかつ先生は『電話・睡眠・音楽』『アントロポセンの犬泥棒』などの単行本を出している。毎回、漫画の「構造」というものを手を変え品を変えクールに描き出して見せる、とんでもない作品を描き続けている才能の持ち主。漫画以外の、文学や音楽にも造詣が深く(自分も水木しげるや昔の漫画の話などそこそこ詳しいつもりだったが、かわかつ先生と出会って世の中の広さを思い知りました)、それでいて小ざっぱりと品が良のいい人柄の、キュートな好青年なのである。展示を観に行く前に六本木の地下のピザ屋(カリッカリかつ塩っ辛いクリスピータイプのピザでビールが進む)で「あの、ペペロンチーノ大盛りってできます?」と頼む所作もシティボーイッシュ。オートモアイさんの展示は20号くらいのキャンバスに描かれたものと、ぬいぐるみをコラージュしたようなタワー型の造形物、絵と工芸品のようなマテリアルを合わせた作品など。キャンバスの絵は珍しく作品には大きく人の顔が描いてあるものの、いつも出てくる顔の無い妖精?がどれも二人対になって遮っていたり、キャンバスから見切れていたり、顔の全容はわからない。血が流れていそうな生々しい植物のタッチはちょっとフリーダカーロのような迫力もある。一貫した作風がありつつそれを拡張していてぐっとくる内容だった。その後、何となく夜の東京タワーの周りを周遊、クラシックや現代音楽にも精通しているかわかつ先生と坂本龍一の話などしながら歩き回り、NewJeansがどことなく聴こえてきたと思ったらプリンスホテルのナイトプールからだったり、何気なく通った公園が「芝公園」という名で「芝公園ってつげ義春の『やなぎ屋主人』に出てくるヌードモデル?の女の『ここが芝公園』ってセリフのあの芝公園じゃないですか?」と興奮するなどし、帰宅。

夜の井の頭公園


7月某日
レクサスさんのスタジオへ。今回で二回目なので、前回より幾分慣れた調子で作業。自分が作ったトラックをもとに、ふわっとテーマを決め、リリックを書く。一個はっきりと分かるメロディのあるフロウを作って、それをずっと使いまわしていく、というラップの仕方に関心があり、それを試そうとするが、レクサスさんから「あんまりメロディが無い方がいい」ということで、割といつもと同じようにする。確固たるものがなければ私は人の言うことに従う。ひとりっ子だった時期の長かった性格がこういう所に出てると思う。確固たるものがあればネチネチと食い下がって噛みつく。ひとりっ子だった時期の長かった性格がこういう所に出てると思う。レクサスさんはこの日はラップまとまらず後日収録の段取りで解散。

7月某日
ゲーム関係の打ち合わせを近所のおしゃれな定食屋で。「日本人っぽい音楽」とゲーム音楽の話(というか唐木元さんがローリングストーンズの連載で書いてた話の受け売り)など話す。


8月某日
香川住んでいた時に昔から何かとお世話になっていたipppenさん(かなり初期の?菊地成孔のペン大にも通っていたという過去を持ち、ギターやシンセサイザーを使った即興演奏も行う快活な1児のパパ)からKORGのワークステーションシンセサイザーKARMAを郵送で譲ってもらう。鮮やかな小豆色のボディがカッコいい。KARMAは菊地成孔がかつて愛用したシンセとしても知られていて、SPANK HAPPY「Computer House of Mode」ではかなりこのKARMAが活躍しているらしい。
一時に比べると音楽機材への熱も後退した(コロナで暇な時間が長かった時期は、日がな一日サウンドハウスとヤフオクを眺めていた)けど、実際にこうして目前にブツがあるとワクワクする。
梱包のダンボールにipppenさんのお子さんが描いてくれた、タヌキ(水木しげる『カッパの三平』に出てくる)の絵があって感動。


8月某日
二郎系ののれん分けで有名な昔からあるラーメン屋まで行った。昼2時過ぎだしそんなに混んでないだろうと思ったが、近所の大学がオープンキャンパスか何かで若者がズラッと並んでいた。しょうがないので炎天下の中並んだが、30分以上、外に立ちっぱなしで、クラクラ。スマホも異常に熱を放って危ないので電源を落とし、やることもないのでうつむいていると、サンダルからはみ出ている足の甲の部分、肌が目の前で焼けていく様子をリアルタイムで眺めることになった。で、並んだ末にようやくありついたラーメンがあまり好みでなかった……若者ならうまいんだろうな、というような濃厚な味付け。いや二郎系ってそういうもんでしょって話ですが、自分は二郎系の中でもあっさりしているものが好きなんだなと再確認した。「聴きやすいノイズ」みたいな話ですが。しかし「聴きやすい」という形容詞はよく音楽メディアでも登場するが、かなり謎の概念ではある。ラーメンとかビールについて説明する文章は毎回なんとなく音楽ライターの書く文章のことを思い出させる。結局、文章で説明のつかない感覚の話を何となく情報と感想を織り交ぜて何とか区別化していく感じというか。


8月某日
入江さんと諸々打ち合わせ。吉祥寺のハモニカ横丁の居酒屋に適当に入店、メニューに「カンガルー唐揚げ」とあり、カンガルー唐揚げってなんですかと聞くと、本当にあのカンガルーの太ももを唐揚げにしているらしい。退店時に店の名前を見たら『美船』という名前で、頭の中でOdyssey - Battened Shipsが鳴り始めた。その後更に喫茶店、シーシャ屋など回って打ち合わせ&作業。帰宅時、Original Love『ムーンストーン』やプリンスの2000年代のアルバムなど、有名なミュージシャンのあまり取り上げられないアルバムの中の名曲について語りながら、ひたすら徒歩。青春っぽかった。青春っぽいことをする時は「これ青春っぽいですねえ」と、背格好衣装バラバラの集団で歩いてる時は「今、幻影旅団っぽいですね」とわざわざ声に出して言うことで、実人生の豊かさを確認することができる。


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