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七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

第312回 安禅必ずしも山水を須ひず (杜荀鶴)

安禅不必須山水 滅得心中火自涼
(安禅必ずしも山水を須(もち)ひず 心中を滅得せば火も自づと涼し)
 
 晩唐の詩人、杜荀鶴(と じゅんかく、846~907)の「夏日題悟空上人院(夏の日、悟空上人の院に題す)」の後半。
― その寺は酷暑のなかで門を閉ざし、僧はきちんと僧衣を身に着ける。寺の周りには日射を遮る松や竹もない。だが、心を集中して無念無想の境地に至れば火中にあっても涼しく感じる。―
 杜荀鶴は一説には杜牧の末子と言われる。進士に合格し官僚として栄達したが、傲岸な性格のため、恨む人も多く、殺されそうになったこともある。
 この詩句は戦国時代の日本で有名になる。山梨県塩山市にある恵林寺が織田信長軍に攻められ、住職の快川紹喜(かいせんじょうき)が焼死した。そのとき快川が<安禅不必須山水 滅却心頭火自涼>の辞世を残す。
 快川は美濃の出身で、土岐氏の一族だった。土岐が滅んだ後、臨済宗の僧となり、甲斐に逃れた。武田信玄に重用され、軍旗〝風林火山〟の字を書いたとも伝えられる。
         

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