武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第7回 井登友一さん 6月29日

6月29日、造形構想研究科 CL特論Ⅱ授業でゲスト講師として、株式会社インフォバーンの取締役(京都支社長)を務めている井登友一さんを迎えました。
講義は、井登さんが携わった事例から時代の変化によるデザインに求められる意味の変化、向き合い方の変化について、経験のデザイン・母性愛のデザイン・父性愛のデザインと言った観点を論じました。

近年顧客からの依頼テーマが段々変化しています。従来潜在的なニーズ理解のためのデザインリサーチだけでは満足できなくなり、まだ意識されていない未来の姿と価値をデザインして提供することが求められます。つまり「今あるものを進化させる」から「まだないものを考える・つくる」に、「連続的な価値を創るデザイン」から「各欄的な価値を生み出し未来をつくるデザイン」に変化しました。

モノから経験へ、と言うが、コモディティ→(コストによる差別化)→製品(機能による差別化)→サービス(感情による差別化)→経験(意味による差別化)→変身(トランスフォーム→経験すらもコモディティ化する。自分を変えてくれるものが価値を持つ。自分や製品やサービスが相互作用を持つ。自分を上級な存在にしてくれるものに対価を払う)『経験経済』

井登さんが経験経済という本を用いてさらにこのような変化を解説しました。では、経験自体をデザインするとは何か?また核心となる「良い経験をデザインするとはどういうことか?」という問いを投げられました。
経験をデザインすることは、ユーザが本当はそうしたかったが、そうしたいと言えなかったこと、無意識のうちに諦めていたことの経験を目の前に差し出して上げることです。「良い経験デザイン」とは、状況や立場、文脈の変化によって変わるモノであるため、快適・簡単で便利にユーザーのしたかったことができるよう、デザインしてあげることだけでは足りないのです。そこで、井登さんが提示したのは「不便益」(不便の益)です。「便利の押しつけが、人から生活することや成長することを奪ってはいけない」とのことです。

闘争的サービス
不便益の概念に基づき、特定な環境で客を否定すると某高級寿司店を事例にご紹介されました。サービスにおいては、もちろん笑顔、快適などを客に感じさせることは重要です。しかし、高級寿司店のように、あえて居心地の悪さを感じさせ、店主に認められるために店に通い自分自身を上昇させる。このように、極めて上質なサービスを見せることで、客を否定するような環境を作り上げたが、客はその上質に近づくプロセスと自身に価値を感じます。

母性愛的デザインと父性愛的デザイン
母性愛的デザインは、困難や挑戦を避けて快適・心地よいモノに対して、父性愛的デザインはあえて厳しいこといったり嫌われてもいいから何年後に伝わればいいと覚悟を持って快適ではないモノです。
前述の某高級寿司店の例は父性愛的デザインです。

父性愛的デザインは確かに今までの価値提供と違い、未来の価値或いは価値の意味を新たにして提供しましたが、それは厳しい条件と特定な環境の中で成立するのではないかとどうしても思っています。また高級寿司店の例で言うと、日本特有の職人文化があるこそ価値に変化できるのではないかと思います。どちらというとこれから父性愛的デザインに変化するのではなく、母性愛的デザインだけが正解という観点を変えて、状況によって共存することでしょう。

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