「夜明け前」in犀の角
「木曽路はすべて山の中である」という一文で始まる、島崎藤村の「夜明け前」
9月19日、犀の角(上田市)にて「Before the Dawn 夜明け前 第一部」を観劇しました。
なかなかに見応えのある舞台でした。
「夜明け前」を読んだ若者たち数名が、実際に木曽路を歩いてみようとするところから物語が始まります。
小説の概要や歴史的背景が若者たちの会話を借りて綴られ、馬籠宿から妻籠宿へと辿る道行きに並行するように「夜明け前」の場面が立ち現れます。そのパラレルワールドで現在の自身と過去の人物を行きつ戻りつする若者たち。
ステージに組まれた階段状のセットは時には山道であり宿場の街道であり、また時には住居であったりします。
「夜明け前」の長大な物語を駆け足で辿りつつも、言動の端々に当時の人々の思いや苦悩が現れています。
全般に渡って計算し尽くされた秀逸な演出が続きますが特に(個人的に)印象深いのは、老婆が囲炉裏の火の世話をしながら主人公青山半蔵について語る場面から「ええじゃないか」の狂騒を経て、半蔵自身が若い理想を燃え立たせるクライマックスでした。
半蔵が悩みながらも新たな決意を固めようとするころ、世の中に「ええじゃないか」が燻り始めるころ、琵琶法師のごとく人物がギターを奏で、それはやがて地を這うような弾き語りとなり、さらに民衆の思いがうねる怒濤へと昇華して半蔵の思いに重なります。
現在の社会情勢の中で見るに価する作品に出会えたと思います。
今作は第一部で、後に第二部が控えているのだとか。楽しみです。
演出の志賀亮史氏をはじめ演者のみなさん、スタッフのみなさん、お疲れ様でした。
ちなみにギターの弾き語りは、「犀の角」のオーナーでありこの作品のプロデューサーである荒井洋文氏でした。
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