GT7でポルシェを乗りこなそう
ポルシェは怖くない
リアエンジンで重量配分が特徴的なポルシェはその他のクルマとそのハンドリングが一線を画することで有名で、とりわけ初心者には敬遠されがちな唐突な挙動を示すことがあり”怖い”と感じてしまう人も多いことで有名です。
ところが今作のキャンペーンであるカフェにおいてポルシェカップの攻略を命じられ、しかも指定コースは”あの”ニュルブルクリンクかつ雨まで降ってくる始末。”難しいクルマ×難しいサーキット×難しいコンディション”ということで涙目になりながらポルシェ嫌いになって二度とポルシェに触らなくなる初心者さんを多く拝見します。
ですが本来ポルシェはその特徴的なドライビングこそが面白く、また速いことを皆さん聞いたことはあるはずなのです。なぜこのような悲劇的なすれ違いを起こしてしまうのか、またポルシェと仲良くするために何を知りどう考えればいいのかをご提案したいと思います。
911の基本知識
そもそも、カフェメニューにてポルシェカップの直前、アメリカ選手権の達成報酬でランダム入手し乗ることになる911は993,996,997型のいずれか。一方でポルシェカップで収集することになる911は930,964,993型。
いやいや、ポルシェ”911”だろ!?って思ったあなたは正常です。ポルシェは車名と型式が両方とも9から始まる三桁の数字なのでめんどいんです。 で、GT7にはこの歴代911が初代901型から最新の992型まで全部1モデルずつ収録されてるわけです。今回の上手にポルシェを乗りこなすために必要な知識をまとめてみましょう。
901 空冷 Rセミトレーリングアーム
930 空冷 Rセミトレーリングアーム
964 空冷 Rセミトレーリングアーム
993 空冷 Rマルチリンク
996 水冷 Rマルチリンク
997 水冷 Rマルチリンク
991 水冷 Rマルチリンク 4WS
992 水冷 Rマルチリンク 4WS Fダブルウィッシュボーン
まあGT7にはオーバーヒートなんてないのでよく語られるエンジンの部分はサウンド上の問題ですかね。今回問題になるのはリアサスペンションの形式、それに伴うアライメント変化の個性の部分になります。”アライメント変化”が何者かは皆さんよくご存知と思いますので割愛します。
ポルシェ特有のセッティング
では上記の知識を踏まえて具体的にポルシェに必要なセッティングとはなんでしょうか?キーワードは”前後重量配分”、”重量物の揺動”、”アライメント変化の個性”、”逆2wayLSD”です。まずは具体的に私がカフェメニューのポルシェカップ用にセッティングした911をご覧ください。
前後重量配分
ポルシェはRRという駆動方式であるがために極端にリア寄りの前後重量配分を有しています。これはハンドリングでいうとまず強いアンダーステアを示します。これを消すためにポルシェは必ず”前下がり”にセットされます。
GT7における車高セッティングは1G状態(クルマを地面に置いた静止状態)の車高を調整していますので、実際のコーナリングではコーナー中央の姿勢と前後荷重を決定しています。加減速のない水平な姿勢のステアリング特性をニュートラルにするためのセッティングです。
重量物の揺動
ブレーキングからコーナー前半、コーナー中央までのアンダーステアを”前下がり”で消しました。ではRRのもうひとつの特性、コーナー後半から脱出にかけて重量物が遠心力によって外へ振りだされて出る唐突で強いオーバーステアについてはどうするのかというと、”リアを硬くする”方向でセッティングしていきます。スプリングもダンパーもアンチロールバーも基本的にフロントより強くセッティングします。つまり重たいエンジンさんには同じ位置でジッとしていてもらうことでクルマを安定させるわけです。
よく初歩的な資料をあたると”グリップを高めるにはサスペンションを柔らかくする”と書いてあるためにポルシェでもオーバーステアを嫌った初心者がリアを柔らかく柔らかくセッティングしてしまい、重量物がもっと大きく動くようにしてしまって大暴れするクルマにしてしまうのを散見します。お気をつけて!
ただしとにかく硬ければいいというわけではありません。最大の重量物であるエンジンを支えているリアをあまり動かさない、つまりリアの動きを小さくすることが目的なのでグリップのために最小限は動いてもらわないと困ります。そこで利用するのは”フロントを柔らかくする”というアプローチです。クルマは必ず前後のバランスでハンドリングが決定するので、フロントがより動くとリアは必然的に動きが小さくなるというわけです。
アライメント変化の個性
さて上記画像3台のセッティングを比較して見ると、より重量のある後年式になるほどキャンバーは強く、スプリングは柔らかくセッティングされていることにお気づきかと思います。普通車重が重たいほどスプリングは硬くセッティングされるはずですがこれが逆転しているのはポルシェは古いほどアライメント変化が大きいからです。
996以降の水冷化したポルシェのサスペンションは非常によく出来ていて、車高変化に対してアライメントが非常に変化しにくい特徴があります。これがGT7においては実際のジオメトリのシミュレートというよりはアライメント変化を量的に再現されているように思われます。そのため新しいポルシェほどサスペンションを柔らかく使っても唐突な挙動が起きにくくなっていて縁石などに強いです。
キャンバー角は変化量が大きい古いポルシェでは数値上は小さくセッティングすることで実際に沈み込んだ状態で適性な接地面積を得られるように調整します。リプレイでコーナリング中最もロールするポイントで一時停止し、レースフォトの自由移動でタイヤに注目すると簡単に接地のチェックが出来てオススメです。この手法マジで僕しかやってないらしい。みんなやったほうがいいって。マジ簡単だから。
逆2wayLSD
そしてサスペンションとセットでポルシェに特有なセッティングが”減速側が加速側より強いLSD”になります。逆2wayってのは適当にいま名付けました。そんな言葉無いです。普通に2wayと呼ばれるタイプになります。カム角が減速側の方が大きいのが特徴なだけです。
先程は前下がりセットでアンダーを消してターンインして~なんて言いましたが、そのままだとノーズダイブによって高い位置に持ち上がったエンジンを思い切り振り出すことになって大大大オーバーステアが出ること必至なわけです。これをLSDの減速側の拘束によって安定させることがポルシェ特有のセッティングというわけです。矛盾する内容のようにも思えますがドライビングのうえではターンインしてからほんの少しスロットルを開けることでLSDの拘束を緩めつつリアに荷重を移して安定させるという動作になるので、(荷重不安定+LSD安定)から(荷重安定+LSD不安定)という状態にスムーズに遷移する”ポルシェらしい”乗り味を生み出している重要なパーツです。
なおポルシェはノーマルでも機械式LSDが入っており、かつセッティングもこういう状態のものになっているのでわからなければノーマルLSDのままという手もアリだと思います。お金も節約できますしw
クラシックポルシェのセッティング
正直いって993以降のポルシェというのはクセも少なく乗りやすいといってもいいくらいです。”ポルシェはクセがあるよね~”という言葉は本来この901~964までのリアにポルシェ特有のセミトレーリングアームを備えるクラシックポルシェたちに対する言葉といっていいでしょう。では何がクセなのかというと、先述した要素に加えてより強いリアヘビーな重量配分と強烈なトー変化を有する点にあります。
クラシックポルシェのリアサスペンションは沈み込んだ時に強くトーイン方向へ変化する特徴があります。これは加速時にクルマをより安定方向へ導いてくれるものですが、スポーツ走行では変化すること自体がハンドリングの不安定さにつながってしまうためにサスペンションを硬くして変化量自体を小さくするとともに変化後のトーを逆算して1G状態のトーをセッティングする必要があります。
そして上記のセッティングを見てお気づきのことと思いますが、フロント寄りにバラストを搭載して前後重量配分を少しだけ補正しています。これはPP調整上の都合がメインの理由ではありますが、クラシックポルシェではバラストを積極的に積むことで格段にクルマの操縦性を向上させることが出来ます。ただし、前にめちゃくちゃ大量のバラストを載せて50:50とかまでもっていってしまうと逆に全く曲がらないし加速も鈍いクルマになってしまいます。ある程度はRRらしい動きをさせてやることが大事です。
また901と930の最も古い2車種については、車高を下げていった時にタイヤがフェンダーに干渉してしまう現象が発生しやすいという特徴があります。車高の限界点が他より高いことはもちろん、車高変化にも弱いのでスプリングとアンチロールバーがより強めに、ホイールのセッティングではインチアップをある程度までに留めた方が干渉しづらくなります。
ポルシェのブレーキ
”ポルシェのブレーキは国産スポーツカーの2倍以上効く”なんて言葉を聞いたことがあるかと思います。某漫画でもリアエンジンの前後配分から四輪でブレーキが効いて制動力が高いなんて言われています。
これは事実ですがそもそもポルシェはブレーキ自体の性能もすごいのがついてるんでよく止まるという側面も強いです。GT7でも当然そこは再現されていてポルシェのノーマルブレーキは他車種と比べて非常に大きく制動力も高いです。そのためブレーキチューンはパッドだけという節約ができます。
これはPP調整に対しても有効なのでポルシェをチューニングする場合あまり軽率にレーシングブレーキキット(ディスク+キャリパーの方)を買うと損することがあるので気をつけましょう。
また前後重量配分のおかげで”四輪で止まる”という部分にも注目すると、ポルシェは他車種よりもリアブレーキを有効に使うことができるクルマです。そのためブレーキバランスコントローラーのセッティングもポルシェでは有効に活用できるのでオススメです。
各911の個性
最後に歴代911個々の特性をまとめておきます。あなたのお好きな世代はどの911ですか?
901型
初代といいつつGT7に収録されているのは伝説の73カレラRSなので結構熟成が進んだクルマだったりします。
フェンダー干渉が非常に強く、車高をあまり下げられないです。そのうえカスタムリアウイングの設定がなく、ノーマルのスポイラーにもダウンフォースが設定されていないので最もセッティングがシビアに出るクルマです。それでも旧車レースではかなりの戦闘力まで持っていけると思います。
930型
これまた伝説の930ターボ。901よりは車高を下げられますがこれも干渉しやすいので限界点をしっかりチェックしましょう。
ターボのためにパワーが簡単に上がり、前後ウイングにディフューザーも設定があるのでダウンフォースもバッチリですがサスペンションのシビアさは901と同等なのでかなり”硬く”セッティングすることがポイントです。ターボラグによって荷重変化が大きくなりやすいこともあってより姿勢変化を嫌う傾向があります。
964型
最も市民権のあるクラシックポルシェではないでしょうか。そのせいかエアロ設定がかなり大人しめでGTウイングがありませんがダウンフォースの設定自体はしっかり出来ます。
この型からコイルスプリングとなったおかげかゲーム的にはフェンダー干渉がほとんど起きず930までより低くセッティングすることでアライメント変化を抑えることができ、サスペンションのシビアさは緩和されています。それでいて動作自体はクラシックポルシェそのものを維持しているので大人しい見た目で乗りたい人には特にオススメ。
993型
最後の空冷モデル。唯一RSとRSクラブスポーツの2モデル収録ですが基本的な個性は一緒なのでまとめて書いちゃいます。
先述の通りここからリアがマルチリンク式サスペンションとなりトー変化はほとんどしなくなりました。ただし993型はキャンバー変化がとても強いです。沈み込むとかなりキャンバーがついてしまいますので逆算してキャンバーセッティングをしましょう。
996型
はじめての水冷モデル。ここから最強モデル”GT3”が設定されます。ボテッとしたデザインに野暮ったい目のブサ可愛いやつ。
正直言ってデザイン面を除けば最も初心者にオススメできる乗り味のポルシェです。良い意味でポルシェのクセがなく乗りやすいです。ランダム3台の中でポルシェに興味のない人にとっては一番当たりではないでしょうか。
……ということはつまりポルシェじゃなくても良くねーか感が強いってことです。いい車なんだけどポルシェ好きを生み出すとは思いにくい一台。いい車なのに。
ピッチ方向もロール方向も柔らかいセッティングに耐えますがフロントがバタつく傾向があるので減衰バランスに注意。
997型
996がデザイン的に評判悪かったので早めにデビューしたクルマ。何割か996と共通パーツがあるとか。
あんなにクセがなく乗りやすかった996はどこへ行ったのか、全体的にダラダラとゆっくりだけど収まらないオーバーステアを出すという個性を持ったクルマ。新しいから当たりだ!と思った初心者の心を一番折った犯人と思われます。
対処法は例によって全体的に硬くすること。特にダンパーを強めにしてストロークスピードを抑えるのがこのクルマは効きます。
あとがき
どっかでまとめて言語化しておいた方がいいかなと思ってたものを書きました。字ばっかりになっちゃったんで読みたい人だけ読んでいただければと思います。
ポルシェはいずれもセッティングの感度が高いです。ほんの少しの調整がハンドリングに反映されるのでセッティングの勉強をするのには良い題材ではないでしょうか。またポルシェはその特有のディメンションからセッティングに特定の方針をもっています。目指すべき方向が見えるセッティングはある種迷いにくいとも言えるので僕はFFやRRといった特徴的な駆動方式からセッティングを勉強するのはアリだと思ってます。あなたもこのセッティング沼にぜひ浸かろう!
ちょっとまってよ
991型と992型はどうしたんだよ。
……。
いやあいつら素でクッソ速いんだもん、セッティングとかいらんし……。タイヤとブレーキ変えるだけでもうレーシングカーだよ。
オマケ
クラシックポルシェを語っといて356を無視してはいけないのです。ガチで好きな人だけよかったら使ってください。アルザス耐久レギュです。
901型でアライメント変化が強くてシビアで……とか言ってましたが356に比べたら屁みたいなもんです。シート上はキャンバーちょっとしかついてないしトーなんかゼロでしょ?これ走行時はキャンバーは3度以上つくしトーもめっちゃイン向きます。722kgのCSタイヤでこのスプリングも普通じゃありません。でもメチャクチャ面白い走りをします。ポイントはホイールオフセットを必ずワイドにすること。フロントトレッドが猛烈に拡大するのでステアリング特性が別物になります。