理想郷は閉鎖した
記憶が残っている頃から、パソコンやテレビゲームに触れていた私は、それらを美しい世界として認識してきた。三色から成る、光り輝く理想郷。
その中で、当時、何よりも大切にしていた世界がある。
PlayStation Homeだ。
家に帰れば、プレステ3を起動し、テレビの前に座り、この家の形をしたベクターが白に変化する様子を眺めていた。その先には、私のもう一つの世界が待っていた。
私は小学生から一人のユーザーに変身し、その世界を練り歩いた。他ユーザーと会話をすることなど無かったが、それでも十分に楽しんだ。街も作った。現実世界では体験できないことも、そこで全て味わった。海辺の崖で採掘をしたり、トロの住む町へ訪れたり。そんなこと、あそこでしかできなかっただろう。
2015年3月31日。またあの世界に入った。
当時私は何も知らずに遊んでいたため、いつも通りに街を作るゲームをプレイして、また明日もやろうと思っていた。
次の日、いつも通り段々と白くなるロゴを眺めた後、そこに現れた画面は昨日とは違った。サービス終了の文章だ。
私の楽しみが、生きる場所が、理想郷が、閉鎖したのだ。
苦しい
大泣きしたのを覚えている。何度再起動しても、状況は変わらなかった。作り上げた街も、装飾を施したマンションの一室も、全て、記憶となってしまった。
朝起きても、学校から帰ってきても、それは夢にはならなかった。サービス終了して数日間、入れもしないPlayStation Homeを起動し、あの画面を眺めていた。
なぜもっとやらなかったのだろう。なぜもっと早くにこのゲームに出会っていなかったのだろう。後悔の日々だった。
これは、私の人生において非常に大きな出来事だった。それでも、いちゲームのサービス終了など、現実の社会には関係ない。小学校は続き、友人はいつも通り私に接してきて、先生はいつも通りの口調で授業を進めていた。
現実を見始めたのはだいぶ後だった。それまでは夢に出たし、きっと家に帰ればそこにはある筈、などと、現実逃避を繰り返す日々だった。
そして、ついに、それを受け入れた。
心の拠り所としてきた自分だけの世界が死んでしまったのだ。それからは、今まで耐えられた嫌いなことがより凶暴になった気がした。
無いのならば、それがあった事実を消し去って仕舞えばいい。私は現実に集中した。外にいるときは常に外のことを考えた。しかし、玄関を開けて廊下の先に見えるのは、真っ暗なテレビだった。
代わりとなってほしい
2017年の1月だっただろうか。Microsoftのストアを何となく開いたら、興味深いイラストが映った。
それを見た時、なぜかPlayStation Homeのことを思い出した。私は迷わずダウンロードし、アカウントを登録した。
Robloxでは、The Plazaというワールドを一番遊んだ。私の望んだ理想郷とは程遠いが、僅かな共通点を見出し、そこにどっぷり浸かっていった。気が付けば、私はRoblox自体に夢中になっていた。
このゲーム、いやこのプラットフォームでは、さまざまなユーザー制作のゲームが存在する。中には、PSHomeのようなメタバース的なものもあった。過去に執着し、それを何としてでも取り戻そうとしていた私は、MeepcityやWelcome to Bloxburgなど、少しでも似通っていたら、すぐにのめり込んだ。
完全体は出てこない。あの景色を完璧に再現したゲームは無い。それでも、私は探し続ける。私の心に空いた穴を、どうにか埋めて欲しい。
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