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忍殺TRPGリプレイ【コール・オブ・ザ・ナイト】03

 前回のあらすじ:ネオサイタマのナカニ・ストリートは、ヤクザクランとテクノギャングが抗争するマッポーの渦中にあった。そこへ現れたのは、油断ならぬ三人のフリーランスニンジャ。彼らをスカウトに来たヤクザとギャングを秤にかけて、危険な雇用交渉が始まった。カラダニキヲツケテネ!

 早朝。酒場のシャッターの前ではヤクザクランの使者が寝ている。裏口から酒場に戻った四人は息を吐き、タキと店主に状況を報告した。ホリイは人質から得られた情報を開示する。「かなりヤバいわ。ギャングたちは採掘場に爆発物を仕掛けていて、攻め込んでくれば人質ごと爆破するつもりよ」

「セキュリティも結構厳重だったね。どうする」「なんとかする。LAN直結で、人質が抜いたセキュリティシステムのデータを貰ってきた。これをもとにして、私が電子ウイルスを作る」「作る?」一同は眉根を寄せた。電子ウイルスを作る技術は、Y2Kとともに失われたはずだ。「そう、作るの」

 ホリイ・ムラカミは声を潜めた。「私には作れる。少し時間はかかるけど可能よ。あの地下採掘場で師匠から教わった、秘密のプログラミング技術」「あんた……ウィッチか」タキが恐れた。UNIXを汚染する疫病を作り出す、ハッカーではないタイプの電脳魔術師。「コードロジスト、と呼んで」

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民宿サルーン「MASUDA」

 コードロジスト、蔑称はウィッチ(魔女)。旧世紀のプログラミング文法に精通した者たちだ。「私はカラテもないし、ハッカーには近いけどIRC戦闘力もそれほどない。でも、電子ウイルスを作れる。それが私の戦う手段」ホリイはタフに微笑む。「このことは秘密にしてね。迫害されるから」

「勿論」「あ、ああ」一同は頷く。「それができるまで、どれだけかかる」パートリッジが問う。「三日……いえ、二日で作るわ」「よし。ヤクザクランとも交渉したあと、引き延ばしながら待つ。ウイルスができたらテクノギャングにつくことにして、UNIXに仕込む」「裏切りか。それしかないが」

 UNIXや採掘場にアクセスするには、ギャングにつかねばならない。少々卑劣だが、妥当な作戦だ。「契約書にハンコついたらダメじゃねえか?」「偽のハンコを使う。あるいは電子契約書にして、消去ウイルスを仕込むとか」「悪党ねェ」「契約書が燃えるか、相手が死ねば無効さ」「しゃあねえな」

「ヤクザ側に裏切ることを伝えるか?」「相手がソンケイを重んじるなら、知らせない方がいいかもね。ヤクザがそれをギャングに知らせて両方が敵に回るのが最悪だ」……ともあれ、計画の大筋は定まった。ヤクザクランにも行かねばならない。「今回はスティギモロク=サンがリーダーだ」「おう」

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 ローグハッカーのパートリッジがヤクザとの交渉に立てばナメられるし、テクノギャングの仲間とみなされやすい。一同は裏口から出て、シャッターの前に向かう。「おい、起きろ!」「アイエッ!?」ヤクザの使者は跳ね起きた。「待たせたな。今度はテメエのとこの事務所に行くぜ」

「ハイヨロコンデー!」赤い髪を逆立てたレッサーヤクザ・ハクイは、涙を流して喜んだ。このまま手ぶらで事務所に帰れば、彼はオヤブンに殺されるところだった。「ヨロシクオネガイシマス!」「まだテメエらにつくと決めたわけじゃねえ。条件次第だ。いいな」「ハイ!アリガトゴザイマス!」

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 Stable Diffusion Demoに「a red spiky hair gang man」と呪文を唱えたらこんな感じのやつが生成されました。いかにも冴えないレッサーヤクザというアトモスフィアがあります。名前はハクイですが白衣は着ていません。

ヤクザの事務所

 ゴロゴロゴロゴロ……遠雷が響き、小雨が降り出す。重金属酸性雲が空を覆っており、夜は明けてもストリートは薄暗い。ハクイの運転するヤクザリムジンは飛ぶように通りを駆け抜け、禍々しいカニの電飾大型看板を掲げたビルへ向かう。カットスロート・カニ・ヤクザクランの本部事務所だ。

 入口には「悪」「嫌」「鋏」などの漢字が書かれた暴力的チョウチンが掲げられている。レッサーヤクザたちが急いで出迎え、漆塗りの上等な傘を差し掛ける。一同はすぐに奥の宴会場へ通された。奥には隻眼の剣呑なニンジャが座っており、左右に数名のグレーターヤクザがいかめしく居並ぶ。

「ドーモ、ブラックハンドです」

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 イメジはネオ電の「AoSニンジャアイコン集」から借りました。せっかくなので使っていきましょう。ちょうど右眼が隠れています。暴力的で油断ならぬ危険なヤクザニンジャというアトモスフィアが出ていますね。

「ドーモ、代表のスティギモロクです」代表アイサツを返す。隻眼のニンジャ、ブラックハンドは間違いなく手練れだ。ヤクザたちも直結型ヤクザガンで武装しており、こちらが束でかかっても難しかろう。両者はタタミ八枚の距離を隔てて座る。ブラックハンドの前にはよく冷えたニョタイモリ器。

「よく来てくれた」「待たせて悪かったな。テクノギャングの方へ先に行ってたもんでよ」「ほう。何故」「様子見だ。このモヤシはハッカーだしよ」「どうだったかな」「俺は苦手だな。だから情報を伝えてやるぜ。採掘場には爆発物が仕掛けてあって、あんたらが攻め込んだらBOMB!だとさ」

 ブラックハンドは冷たいニョタイモリ器からマグロ・スシをつまみ、口に運んだ。「ブラフか」「どうもブラフじゃあねェらしい。モヤシが調べたんだが、マジだ。全部吹っ飛びゃしないまでも、鑑定士や採掘者が大勢死ぬ」「腰抜けらしい女々しい手よ」ブラックハンドの目に侮蔑の怒りが浮かぶ。

「そうなりゃ、あんたらが勝っても儲けは減る。なんかが欲しいところだよなァ」「ふむ。なにかあるのか」「まだこっちにつくと決めたわけじゃあねェぜ。条件次第だ。やるとなりゃ卑劣な手も使わざるを得ないかもだが、そっちが嫌なら無理にとは言わねえ。こっちのソンケイにも関わるしな」

SMは交渉判定、難易度H。「交渉:共感」で+2。[22245265]成功。

「むむむ」ブラックハンドは唸った。彼は愚直ではあるが、愚かではない。おそらくスティギモロクたちはテクノギャング側と契約を結んでおいて裏切り、採掘場の爆発物をどうにかするつもりだ。実際卑劣だが、現実的ではある。テクノギャングらはヤクザ文化を重んじぬ外道。ならば、どうか。

 スティギモロクは慎重に言葉を選び、言外に意図を伝えようとする。彼は粗暴ではあるが、愚かではない。「それと、あっちの……ドレッドノート=サンだっけか。ブラックハンド=サンとサシで決着をつけたがってたぜ。なんか恨みがありそうだったが」ぴくり。ブラックハンドの右頬が動く。

「……ヤツとは因縁がある。俺がこの手で殺す」彼は右眼窩の傷跡に触れ、怒りで身を震わせてマグロ・スシを握り砕く。手を組む心配はなさそうだ。「そうかい。……それと、確認しときたいが、ここはソウカイヤとは関係あンのかな」「今のところ、中立だ。ギャングどももな」「ならいいや」

「そちらは、ソウカイヤと何か?」「構成員じゃないが、ないでもないな。こないだ些細なビズを請け負ったし、ソウカイ・ネットも利用してるしよ。けど俺らは駆け出しのフリーランスだし、どこからでも依頼があれば雇われるってだけだぜ」「ふむ……」始末しようとすれば厄介、というわけだ。

 請負の下っ端とはいえ、ソウカイヤの関係者に手を出せば報復される可能性はある。ソウカイ・ネットで連絡されれば、ソウカイヤが介入してくる。それはヤクザもギャングも望まないだろう。「さて、これがあっちの示した契約条件だ」スティギモロクはギャングのマキモノをタタミに置く。

「これを参考にして値をつけてくれや」「承知した」ブラックハンドは頷き、スティギモロクと視線を合わせ頷く。互いの意図はおおむね伝わったようだ。「よかろう。では、酒とスシを」「……いただくぜ」スティギモロクは酒とスシに手をつけた。他の者も彼にならう。「ごゆるりとなされい」

民宿サルーン「MASUDA」

 昼。ハクイに送られて「MASUDA」に戻った一行は作戦会議に移る。「しばらく店は閉店休業だ。どのみち抗争で、客も少なかったしな」「ご迷惑をおかけします」ホリイがオジギ。「いいって」「オレ、そろそろ帰っていいかな。ピザ屋に泥棒が入るかも知れねえ」タキがおずおずと挙手する。

 パートリッジは冷たく一瞥し、タキの肩を叩く。「一蓮托生。ホリイ=サンにはこれから電子ウイルスを作って貰うけど、僕らも手伝えることがあればするよ。なるべく急ぎたい」「助かるわ」「お、おう」タキは震えながら頷いた。ニンジャチームを呼び寄せたのは彼なのだ。責任はある。

「ヤクザ側にも意図は伝わったと思うぜ。ストリートを守りたきゃあ、ヤクザクランの後ろ盾が要る。でなけりゃソウカイヤが来る」「テクノギャングが潰れれば、抗争はおさまる。あとは交渉次第だ」「これでしばらく平和になるわね。退屈だわ」パイアはあくびをし、カウンターにうつ伏せた。

PRはハッキング判定、難易度UH。「知識:電子ウイルス」で+2。11D6[15635221232]成功。タキも同じく判定、重箱によれば電脳8、「知識:電子ウイルス」で+2。10D6[4532126461]成功。電子ウイルス作成期間を短縮できる。

 ……翌日。ホリイ、タキ、パートリッジは民宿の二階において徹夜で作業を行い、恐るべき電子ウイルスを完成させた。「ありがとう。助かったわ」「オレもこう見えて電子ウイルスにはうるせえからな」タキは寝ぼけ眼をこすりながら答える。「しばらく寝てなよ。明日には決着をつける」「ああ」

 スティギモロクはその間もテクノギャングやヤクザクランと交渉し、条件を吊り上げつつ引き延ばし工作を行っていた。最終的にヤクザクランを率いるブラックハンドと暗黙の合意が成立し、共通の敵であるテクノギャングを騙し討ちすると決定した。あとは、やるだけだ。

 夕刻、一同は両者の交渉人を「MASUDA」の前に呼び出し、「テクノギャングにつく」と宣言した。ヤクザの交渉人は泣き崩れ、その場を後にする。勝ち誇ったギャングの交渉人は嬉し涙を流し、彼らをアジトに迎え入れた。

決闘

 翌日、正午近く。ナカニ・ストリートでも特に寂れた一帯。不穏な乾いた風がピュウピュウと吹き、重金属粉塵を巻き上げる。空はターコイズ原石のごとく、濁った水色と茶色と黒のマーブル模様を呈していた。その下を、屋根にアンテナを生やした十台ほどの武装ギャングカーが進んでいく。

 数十名からなるテクノギャングの軍団だ。全員がスーツを着込み、サイバーサングラスとトミーガンで武装している。彼らはマッポセルと同様の無線LANリンクを行い、組織的行動を取れるのだ。それを率いるのは四人のニンジャである。彼らは幹部のDシズムIVとともに同じ車に乗っている。

 採掘場やアジトの警備を減らすには、彼らを外へ引き出さねばならない。ヨージンボとなったパートリッジらは籠城戦よりも正面決戦すべきだと提案し、DシズムIVがこれに賛同した。三人ものニンジャがヨージンボとして加わったことで、パワーバランスは明らかにギャングが優勢となった。

 テクノギャングから果たし状が送られ、ヤクザクランからも受けて立つとの返事が送られる。全面戦争だ。ホリイは人質を兼ねて、安全なシェルターである採掘場に匿われた。客人のネンゴロゆえ鄭重に扱われ、身体検査や拘束はされない。「ブラックハンド=サンは俺が殺る。手出し無用だ」

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 ドレッドノートは低くつぶやく。「アイアイ」パイアがリラックスした様子で笑う。「こっちが圧倒的に有利。ラクさせてもらうよ」「契約したぶんは働け」「アイアイ」ギャング側は、このイクサが終わればヨージンボたちをヤクザの仕業に見せかけて始末する腹積もりだ。分け前は多い方が良い。

 ヒュウウウウウーッ……ヒュウウウウウウウウウーッ……ひときわサツバツとした風が、ナカニ・ストリートを吹き抜ける。病んだ太陽は間もなく、ハイヌーンに達するだろう。正午まであと数分。「アスホールどもが来ましたぜ!」誰かが叫んだ。砂煙の向こうから多数のヤクザリムジンが接近!

「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」テクノギャングに対し、ヤクザ側の外見はまさに愚連隊か、江戸時代のヨタモノを思わせた。ある者は上半身裸でタトゥーを露にし、抜き身のカタナを肩に乗せる。ある者は黒光りするスーツを着込み、殺戮銃器オートマチック・ヤクザガンを握っている。

「ゴートゥー・アノヨ!」「キルナイン・ユー!」「ケツ・ノ・アナ!」テクノギャングも凶暴な罵声を浴びせる。まるで獣だ。敵意と殺意が増幅されてゆく。だが両陣営が50メートルほどの間合で睨み合う頃、モータル同士の罵り合いは、もはや鳴りを潜めていた。ニンジャ存在感が場を圧している。

 車を降り、最初にアイサツしたのは両軍の宿敵ニンジャ同士であった。「ドーモ、ブラックハンドです。女々しい腰抜けのギャングども、今日こそ貴様らに引導を渡してくれる」「ドーモ、ドレッドノートです。こちらは、ヨージンボの方々です」彼は敵の挑発を嘲笑うように無視した。

「ドーモ、パートリッジです」「スティギモロクです」「パイアです」改めてアイサツを交わし、視線をあわせる。双方合わせて200人。ヤクザの方が数は多い。ホリイがうまく電子ウイルスを仕込んで発動できれば、テクノギャングらは混乱するはずだ。それがダメなら……仕方あるまい。

「まさか、この俺に四対一で挑もうと?ドレッドノート=サン」ブラックハンドは低く笑った。「随分恐れられているな。片腕ではイクサもままならんのか」ぴくり。ドレッドノートから剣呑なオーラが沸き起こった。「彼らは露払いだ。当然、貴様とはこの俺が一対一で戦う。邪魔はさせんさ」

「ほう。まあ、我がカットスロート・カニ・ヤクザクランの方が優勢だからな。ハンデは必要か。ニンジャといえど、大量の銃弾を浴び続ければ死ぬことを忘れるなよ」「そちらこそ。今度は貴様の左眼もくり抜いて、右眼と一緒にホルマリン漬けにして飾ってやる。残りは爆発四散させて犬の餌だ」

 二人の間の空気が歪む。「盛り上がってンなァ」スティギモロクは冷や汗をかく。オヤブンのブラックハンドが敗れれば、ヤクザクランは総崩れになりかねない。テクノギャング側にウイルスが流されて敗れても、統率者がいなくなればヤクザクランはまた分裂し、元の木阿弥だ。そうなれば……。

 正午!カーン!カーン!カーン!ストリート右手中央にある廃チャペルの高い鐘つき台で、立会人のツルギ老人が鐘を鳴らした!

戦闘開始

【続く】

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