忍殺TRPGリプレイ【フライ・ミー・トゥ・ザ・ネオサイタマ】03
前回のあらすじ:ネオサイタマで緊急事態が発生した。キョート城が突如市街地中心部の上空に現れ、殺人光線を乱射し始めた。すなわち、ロード・オブ・ザイバツがナラクを介してギンカクを動力源とし、地上にマッポーカリプスをもたらしたのだ。止めねばならない!カラダニキヲツケテネ!
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「俺たちがジツを抑える。その隙に物理でカチコミかけてくれ」エーリアスの指示を受け、ハウスバーナーとポイズンバタフライは頷く。「アタイは」「俺たちの物理肉体を守ってくれ。俺とライトウォッチャー=サンはニンジャだが非力だ」「わかった」ヤモトは頷く。『ハッキングなら任せて』
ナンシーの論理肉体は磁気嵐と罪罰の網目を躱しながら、ネオサイタマを飛翔して支援を呼びかけ、キョート城のセキュリティに穴を空けていく。城を攻め落とせば宝物が、機密情報が手に入ると噂を流す。電脳の魔都ネオサイタマに潜む有象無象が、邪悪な格差社会のシステムに牙を剥くのだ!
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カスミガセキ・ジグラット最上層。ネオサイタマ知事代行シバタ・ソウジロウは、窓の外に映る異常な光景に対して怒りをあらわにしつつ、全力で対抗していた。彼に宿るゼウス・ニンジャの力が、ジグラットに張り巡らされたテックの力で増幅され、強固な物理・論理防御壁を形成しているのだ。
キョート城と思しき共和国の浮遊兵器は、ジグラットのキモン(北東)方向……マルノウチ・スゴイタカイビルのやや北、ツチノコ・ストリート上空に出現し、その真下に殺人光線を重点的に発射している。幸いにも治安レベル最悪の猥雑な暗黒街だ。焼き払ってもらった方が治安改善にはよい。
しかし、すでにマルノウチ地区などカチグミ居住区にも市民の犠牲者が出ている。あれをなんとかしなければ、ネオサイタマは破滅する。ならば、やらねばならない。「アマクダリ・アクシス精鋭部隊、潜入調査開始」彼は部下に命令を下した。ジグラットの守りも必要だが、攻撃は最大の防御だ。
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ネオサイタマ東部、オムラ・インダストリ本社要塞。
「システム総じ緑な」「谷」「弾薬」「殴り薬」「沈痛」……HUD表示が次々に浮かんでは消え、目の前の光景が徐々に解像度を増してゆく。ネブカドネザルは適切に注入される人工ニンジャアドレナリンが血管を巡る感覚を捉える。カタパルトデッキの地面には雷神の意匠が白く描かれている。
『やっつけろ。いっぱいやっつけて殺せ』モーティマー社長のIRC通信をネブカドネザルは粛々と聴いた。『わかっていると思うが、プレゼンテーションが必要だ。たくさん壊して殺せばオムラの凄さが伝わりV字回復する。簡単なんだ、経営なんてものは!』『イエスボス』ネブカドネザルは答えた。
『前回の戦闘時のデータ解析精度は高く、白兵戦時に遅れを取る可能性は極めて低いです』『絶対やっつけろ。パパは間違っていた。僕が正しい。そうだな?』『イエスボス』『オムラは大丈夫だ。だろ?』『イエスボス』会長のアルベルト・オムラはもういない。先日心臓発作で逝去したためだ。
彼の死は秘匿されていたが、内部の裏切り者に密告され、オムラの株価は危険水域まで下落していた。ネブカドネザルもオナタカミ勢力との戦闘で不覚をとり、逃げ戻る始末となった。起死回生の一策はキョート共和国首都への総攻撃だったが、その前に向こうからキョート城がやってきた。好機だ。
ここはネオサイタマ中心部から遠く、キョート城の殺人光線も、キョジツテンカンホーも、キンカクからの凝視も届かない。だが、異常事態は伝わっている。社長はモーター理念によって、社員は鋼の忠誠心によって、オムラは歯車の群れの如く一致団結し、一つの目標に向かって動くのだ!
「モーターツヨシ、デバイス接続シーケンス。MAAA(モーター・アブナイ・アットー・アグリゲイト)システム、連結成功な」合成マイコ音声が告げた。ネブカドネザルに背部脊髄接続したモーターツヨシに、さらに連結されたのは、神話モンスターめいたロケットエンジンの集合物である。
『そのMAAAが、お前を一気に運ぶぞ。あっという間だ。くだらない安全保障上の物議を醸すから、当然、実地テストは行っていない。今回、ぶっつけ本番だ。データ上は100%問題ない。お前はニンジャだしな』『イエスボス』『こっちは社運がかかっているんだ。旅客機以外の障害物は撃墜して進め』
『イエスボス』ルルルルルル、多種多様なシステム起動音がテクノ・トラックめいて次々に重なり、カタパルト前方に設置された巨大めくりショドー台の「五」の文字をスタッフがめくった。「四」「三」「二」陽炎が前方の夜景を歪める。「一」「炎」ドウ!カタパルト射出!MAAA点火!
『モ……モーターヤッター!飛んだァ!』モーティマーの通信音声をロケット音とノイズがかき消す。ネブカドネザルは飛んだ。西へ。キョート城へ!
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「ムッハハハハ!」オムラ本社要塞と物理的に癒着した、黄金鬼瓦ツェッペリン上に聳える天守閣。ソウカイ・シンジケート仮本部最上層で、総理大臣ラオモト・カンは哄笑した。ネオサイタマ中心部の状況を扇形モニタで悠々と観賞し、オイランたちをはべらせ、酒を呑み、スシを食べながら。
彼は弱者が虫けらのように苦しんで死ぬのを見るのが大好きなのだ。たとえそれが敵の侵略によるものであり、職責として守らねばならないネオサイタマの市民であろうとも。「あれの解析は済んだか、ゲイトキーパー=サン、ダイダロス=サン!」「ハイ」ゲイトキーパーは深々とオジギした。
キョート城から送られてきた匿名のメッセージは、ダイダロスのもとにも届いていた。彼はそれをソウカイヤ上層部に報告し、ネオサイタマ全土に欺瞞プロパガンダ工作を行いつつ、キョート城電算室に電子攻撃を開始した!『電脳の魔都を統べる者、ダイダロスの力を見せてやりましょう!』
「ニンジャ戦力を向かわせますか?」「否。捨て置け。防衛に専念せよ。混乱に乗じてネズミどもに足を噛まれてもつまらん!」ラオモトは状況判断した。「仰せのとおりに」ソウカイヤにもオムラにも敵は多い。オナタカミとの戦争においてイッキ・ウチコワシが仕掛けた武装蜂起は記憶に新しい。
ネオサイタマ各地に存在するソウカイヤのシマにおいても、前と同じくウチコワシやザイバツ、オナタカミが襲撃を仕掛けて来る可能性は高い。外敵に対して一致団結するなど、ソウカイヤだけで十分だ。「しかし、プロパガンダは必要だな。武田信玄の鎧を着て市民にアピールしてやろう!」
ラオモトはカタナめいた目を光らせた。株価下落を続けるオムラとの提携関係も、そろそろ潮時かも知れぬ。あるいはオムラを見限り、オナタカミやヨロシサンと手を組むか。
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「なんじゃ、これは……」ネオサイタマ北東部、ヨロシサン製薬本社要塞。ヨロシ・バイオサイバネティカCEO、ヤイミ・コナギバは慄然とした。ネオサイタマ中心部の監視モニタに映るのは、目を疑うようなマッポーカリプスの光景だ。ヨロシIRC-SNSには匿名のSOSコールや情報が舞い込んでくる。
オムラ本社要塞と同じく、ネオサイタマ中心部から離れたここまでは、殺人光線もキョジツテンカンホーも届かない。だが、異常さは伝わる。彼女のニンジャソウルそのものが怯え、悲鳴をあげている。『防衛に専念し給え』ヨロシサン取締役会と、その姿見えぬ代行者からの連絡が届く。「ハイ」
彼女は歯噛みをしながら防衛の指揮をとる。代行者の告げるところによれば、敵の重点目標はネオサイタマの暗黒メガコーポ、特にヨロシサン製薬だという。理由は不明だが、ザイバツ・シャドーギルドがあれに関与しているのなら、何か不興を買うことをしでかしたのだろうか。なんたる迷惑!
……その時。ヨロシサン本社要塞の地下冷凍チャンバーで、冷凍睡眠状態にあったニンジャが何かに呼応した。彼の名は、ケジメニンジャ。
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罪罰罪罰罪罰……キョジツテンカンホーの網目は傘のようにキョート城を覆い、キンカク・テンプルからの「凝視」をガードする。ヌンジャの骨から作られし三神器と地上の霊脈が、ロードのジツを増幅しているのだ。「ハァーッ!ハァーッ!ヤンナルネ」パーガトリーは頭を抑え、頭痛をこらえた。
スローハンドは……いない。見回せば、夜だというのに真昼のように明るい。上空から黄金の光が降り注いでいる。中庭の石垣の彼方には、貪婪なブッダデーモンの宝石箱の如くに輝くネオンサインの洪水が地平線の彼方まで続いている。見慣れたガイオンの夜景ではない。だとすれば、ここは。
パーガトリーは頭を振り、混乱した状況を整理する。やるべきことは変わらない。ホウリュウ・テンプルを攻め落とし、ムーホン者を滅ぼすことだ。防御は堅牢な上、貴重な古文書が無数に収蔵されており、火をかけることもジツで破壊することもまかりならない。ロードの怒りを買うであろう。
無理に攻め込めば被害も増える。となれば有毒ガスか。パーガトリーはそのたぐいのジツに長けた者を呼ぼうとした。……その時!ゴオオオオオ……!何か巨大な物体が、超高速で接近してくる!それは、ニンジャだ!背中に巨大なジェットパックを背負った、ニンジャである!「なんじゃ!?」
ヒュルルルルル……KABOOOM!KABOOOM!KABOOOM!飛来ニンジャは背負ったジェットパックから多数のミサイルを射出!射出!射出!キョート城底部から突き出したクリスタル数本を破壊し、本丸中庭上空に突入!空中高くにホバリングしながら威圧的なアイサツを繰り出した!
『ドーモ、キョート共和国のテロリスト諸君。私はオムラ・インダストリの所有するニンジャ戦闘兵器、ネブカドネザルです。あなた方からのアイサツは省略し、全滅させます。降伏受付期間は終了しました』ナムサン!「ドーモ、ザイバツ・シャドーギルド、グランドマスター、パーガトリーです!」
パーガトリーは代表アイサツを返した。スローハンドは……どこか別方向からテンプルを攻めようとしているのだろう。忌々しいが、ここは自分たちがこのニンジャを相手どるほかなし!「あの無礼なオムラのカトンボを撃ち落とせい!」「「「ヨロコンデー!」」」一触即発アトモスフィア!
「思いもよらぬ援軍じゃな!」ムーホン者の指揮者ニーズヘグは、外の様子を伺いながらほくそ笑んだ。しかし、このままではホウリュウ・テンプルやキョート城もろとも叩き潰されかねない。キョジツテンカンホー・ジツがなおも残り、強まっているということは、ダークニンジャは返り討ちか。
「裏手から別働隊が来ます!」「スローハンド=サンの派閥のようです!」ニーズヘグの部下、フェイスフルとディミヌエンドが報告した。「厄介じゃな。本丸に突入してやりたいが……」ニーズヘグは腕をさすった。傷はまだ完全には治癒していない。「毒に気をつけい!迎撃じゃ!」「「ハイ!」」
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ネオサイタマ各地の勢力は、一致団結とはいかず、牽制し合いながらも、侵略者に対処し始めた。キョート城でのイクサも激化する!
【続く】
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