ユートピア ~ジロー編~

たとえば
両耳ピアスだらけの金髪のソフトモヒカンの男がいたとする。
こいつは25(男)で仕事はコピー機の営業。

そうだね~名前はジローとかにしとこう。

月曜日
ジローは出社してから新規顧客獲得のため営業に出る。
事前にアポをとっといた会社にむかう。
ジローは「Copy Cat!!」とデカいフロントプリントがあるTシャツを着ている。
なぜなら会社の制服だから。

ジローは名刺交換のときにヘコヘコしない。し、ヘコヘコしないのがユートピアでの常識、なぜなら自分の会社に誇りを持っているからだ。

訪問先は中小企業だったので対応してくれたのは運よく社長だった。
とりあえず社長は「Copy Cat!!」のプリントにツボった。
ジローと社長はバス釣りの話で盛り上がり、社長はコピー機を買うことに決めた。

この会社にはすでにリースのイカしたコピー機があったが、2つあったって問題ないし、経営はノリでコピー機を買うくらいの余裕がある。

火曜日
この日ジローは朝から、地区の公園の清掃活動に参加した。
ジローには嫁がいるが妊娠しているので、この日はジローだけの参加。

夫婦そろってや子供連れて清掃活動に参加する家族も少なくない。昼はみんなで噴水で弁当を食べる。
昼食が終わると清掃活動は再開するが、参加率が高いので14時には終わる。

終わったあとは、任意参加で、公園の緑地でバードウォッチングがある。ジローはこの季節の鳥が大好きなので積極的に参加した。

17時ごろ帰ると、嫁はせかせかと巾着を縫っていた。これは嫁の趣味で、定期的にインターネットオークションに出品する。
グロテスクなデザインがひそかに若者の間で人気を呼んで、それなりの値段で落札される。

20時に嫁の手作りの料理を食べる。ジローが非番の日は料理をすることもあるが、この日は清掃活動があったので嫁が作ってくれた。

嫁は食器にこだわりが強く、わざわざ海外から取り寄せた奇妙なデザインの食器を使う。
ジローはこれを快く思っていないが、彼もまた海外から取り寄せた本場のアイリッシュウィスキーを頻繁に飲む。この取り寄せを嫁がやってくれているので文句は言わない。

水曜日
この日ジローは非番で、ちょっと遅く起きたらひたすらパソコンに向かい、大学時代の旧友たちにテレビ電話をつなぎ談笑した。

その間黙々と嫁は巾着を作り続ける。彼女は比較的一つのことに打ち込むタイプだ。それゆえに高値で落札されるクオリティを実現できるほど上達したのだ。

少し遅めにランチをすませたあと、ジローはスーパーレジ打ちのアルバイトに向かった。

コピー機の営業職だけでも生活には困らないが、嫁が妊娠したのをきっかけに、子供の将来のためにコツコツと貯金をはじめたのだ。
こうして彼は週に2日半日ずつスーパーでアルバイトをしている。

木曜日
会社に出勤し、この日は先輩営業マンについて得意先をまわる。彼の会社はリースもやっているので、不具合がないかなどを見て回ることは多い。

ついでにこの先輩の提案で新たに取り扱うことになった大型の複合機の案内もしてまわる。この日回った顧客が契約しているコピー機の多くは、この先輩がデザインにかかわっている。
このように彼らの会社では営業マンも商品開発への発言権が強い。

現場の声をよく反映させようという社風なのだ。

しかし、二人で「Copy Cat!!」のTシャツを着ていると訪問先でよく笑われる。

この日のディナーは嫁と二人で外食にした。繁華街のはずれにある「テキサスバーガー専門店」だ。
びっくりするくらいいつも客がいないが、味はそこそこうまい。

確実にもうかっていないが、ここの店主は「テキサス愛」だけで店を続けている。ジローはこの店主の意気に惚れ込んでいるのでよくここに食べにくる。

金曜日
この日は仕事が昼過ぎまでなので、午後からは例の社長とバス釣りに出かける約束をしていた。

仕事からいったん家に帰ると、嫁が油絵を描いていた。
嫁は油絵を最近始めたが、結局裁縫のほうが好きなので、あまり頻繁には描かない。画風はやはりグロテスクだ。

画材はあまり高価なものは使っていないが、わりと形から入るタイプなので
ジローは毎月の給料で少しずつ買い揃えてやろうと思っている。

釣りの最中に社長と音楽について語り合い、二人とも80年代のパンクが好きだとわかり、さらに意気投合した。

バス釣りから帰り、この日、嫁は友人とディナーに出かける予定にしていたので、ジローも会社の同僚と飲みにでかけた。

本当はジローはアイリッシュパブが好きだが、数人で飲むときは好みがわかれるので、無難に駅前のはやりの居酒屋に行く。

土曜日
前日に遅くまで飲んだのでジローは少し遅く起きた。嫁も前日、遅くまで映画のDVDを見ていたのでジローよりも起きるのが遅かった。

嫁は映画が好きでよくDVDを見る。
ジローも映画は好きだが、彼はどちらかというとインディーズのヒューマンドラマを好むので、スプラッターやアクションばかり見る嫁とはあまり好みが合わない。

ジローは先に起きたので、昼食を料理した。去年料理教室に通ったので料理の腕前はそれなりだ。

昼食をとったあと、彼はスーパーのレジ打ちのアルバイトへ向かった。アルバイト仲間たちも気のいい連中ばかりで、よくみんなでバイト上がりにホッケーをする。

日曜日
普段は日曜日は非番が多いが、ジローの勤める会社ではシフト制で日曜日にも出勤がある。
ユートピアでは社会的な固定の休みが、あまり日曜に集中していないからだ。

また昼過ぎで勤務を終え帰宅したジローを嫁が待っていた。

日曜日はだいたい二人で出かける習慣で、この日は二人の共通の趣味であるハンドボールの観戦に行く。
彼らの住んでいる地区のチームは全国的にもファンが多く、毎年首位争いに食い込む。
地元の有力企業が出資して作ったプロ育成のユースチームがあるからだ。

それゆえこの地域ではハンドボールの観戦はスタンダードな遊びのひとつといえる。

ハンドボールの試合を見終わったあと、二人は駅近くのライブハウスに立ち寄ってみることにした。駅周辺のライブハウスはブッキングが良質で、チケット代は少々高いが、下調べ無しで行ってもクオリティの高いバンドや斬新なパフォーマンスをみることができる。

残念ながらこの日、パンクバンドの出演はなかったが、嫁がいくつか気に入ったバンドがあったようでCDを買って帰った。

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