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八つ墓村

(movie)
満足度 5点
1977 松竹・富士映画 共同配給
監督:野村芳太郎
脚本:橋本忍
原作:横溝正史
撮影:川又昂
音楽:芥川也寸志
今年(2005)4月8日に85歳で亡くなった野村芳太郎監督追悼特集上映にて再見。野村作品は『事件』『影の車』など見ている作品は少ないがどれもインパクト大。
初見はゴールデン洋画劇場(特別企画)だったと思う。 その後ドルビーサラウンドリミックスされたLDやら ロケ地再訪のミニ番組も収録されたDVDを見ていて やはり大画面でないと味わえないところが出てくる。
尼子の侍たちが激流の滝をのぼり切立った山河を越え、落ち延びるトップシーン。 かねてから大スクリーンで見たいと思っていた。
そこに今回の上映。当初このイベントを知らないでいたのだが 築地を歩いていると… 目の前に監督の写真を配した看板 心にぬっと山崎努の幻影 上映スケジュールをみると今まさに『八つ墓村』が始まろうとしている! 中から何者でもない誰かが呼ぶ 体がひとりでに映画館の中に…
見るたびにひとの気持ちが折り重なっていく映画だと感じられた。 連綿と続く恨みの系譜から子の幸せを願う愛情まで感情の針のふり幅が大きい作品。
萩原健一の妙に淡々としたモノローグが周りの彼に対するさまざまな眼差しを逆説的に表現しているようだ。愛情の部分で盛り上がり、青年萩原のキャラクターがふくらむのは、母中野良子が幼少の主人公に出生の場所 “リュウノアギト(龍の顎)”を口伝えするシーン。
そして井川比佐志演ずる母の弟が 萩原に、その祖父加藤嘉から伝え聞いた出生の事実を語るシーン。子を抱え社に参る中野良子を見守る加藤嘉と下條正巳。 凄惨なこの映画に、松竹レギュラーキャスト陣が人間の良心の風を一瞬、吹き込む。
『寺田辰弥は多治見要蔵の子ではない』
大阪の法律事務所で萩原と再会を果たした加藤嘉のえもいわれない表情は? 加藤嘉の死の直後、萩原を八つ墓村に連れ戻しにきていた時、小川の威圧的な態度に対する井川の押し殺した表情は? すべて校長下條正巳の告白で知りえたこの事実によるものだとハッとさせられた。
事件の発端である落武者殺しのシーン。 その企み自体が狂気の始まりでもありそれ以降の事件が起こっても至極当然と思わせるほど丁寧にそしてショッキングに描写している。
尼子の大将夏八木勲の恨みあまっての開眼。
首謀者橋本功の狂気の上の自己斬首。
山崎努の32人殺しの残忍非道ぶり。
桜吹雪のなかをひた走る美しさ!!
いずれのシーンでもその感情を否定するような表現をせず、 どれもあくまで人間の所作であると感じさせる音楽を奏でた芥川也寸志にも脱帽。
それらの激しさも吹き飛ばしてしまうような愛情もここにはある。母の温かい思い出、愛する人に愛される喜び どれも確かな表情を持った映像と音楽で表現されている。
(山崎努を拒み続ける中野良子の表情が最強なのは秘密!)
凛とした母 中野良子。
気遣う女 山本陽子。
血に揺り動かされる鬼 小川真由美。
その妹として1シーンのみ出演の夏純子。
祟りと騒ぎ立てる村の若者は岡本茉莉。
女優が美しい映画というのはそれだけで楽しめる。それだけでも何度も見てしまう理由になるものだ。
※2005.8.21mixiレビュー掲示

2020 追記:このあと、2002に発売されていたDVDをAVアンプから再生してみると、ドルビーサラウンドとジャケットに表示されていたのが、DOLBY DIGITAL 4chディスクリート収録であることが判明。唸った。2014には正式に4chサウンド(リニアPCM 96kHz/24bit)収録のBDが発売されたのは嬉しかった。レーベルのデザインは、金属のプリント配給缶を模したデザインだったのも秀逸。ここまでよくわかった人がパッケージを担当しているのは松竹だけなんだ、ということも思い知った次第。BD発売時に上映会があったというが、DCPでの4ch上映を行うべきなんだよ。

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