ドラマ版『パリピ孔明』第5話を観たので、三国志を語りたい


今回も『パリピ孔明』第5話の中で三国志ネタを感じた部分を挙げていきたいと思います。
第4話までの元ネタ列挙で出てきた部分はそちらを参照していただければと思います。
年号に関しては該当項目のwikipediaなどで調べていますが、元ネタエピソードなどはわりと記憶とノリで書いていますので、詳細の齟齬はご容赦いただくか、コメントなどでご指摘ください。

第5話に出てきた三国志ネタ

「司馬懿の狼顧の相」

司馬懿は魏の軍師です。孔明率いる蜀軍が魏に攻め込んだ際、何度となく立ちはだかり跳ね返し続けた名軍師で、孔明にとってはライバルと言っていい人物です。
狼顧の相については劇中で説明されている通り、体は前を向いているのに顔だけ180度後ろを向くことができたことを指しています。
なお、三国志演義やそれを基にした書物において、司馬懿の狼顧の相を強調して題材としているものはあまり思い当たりません。
正史においては、劇中で孔明が触れた慎重な性格を表した比喩につながる表現も含めてのわりとしっかり記述があるようです。

「敵陣に単身乗り込む」

猛将揃いの三国志演義でも、さすがに敵陣に単身乗り込んで戦果を挙げる描写は思い当たりません。
むしろ、知力政治力で勝負する文官の方が、使者などの役割で敵の本拠に少数で乗り込むシーンが多い印象です。
『パリピ孔明』でもモチーフにされやすい、三国志最大のクライマックスである赤壁の戦い絡みでも、龐統や蒋幹が思い浮かびます。
龐統は第4話の元ネタ列挙でも触れたとおり鳳雛(鳳凰の雛)とも呼ばれる才能の持ち主で、後に劉備軍の軍師になりますが、赤壁の戦い時点では所属はなく周瑜の元で食客のような立場の人でした。その立場と名声を利用して単身曹操軍に出向き、兵士の船酔いに悩む曹操に軍船を鎖でつなげる対処法を授けました。これは周瑜たち孫権・劉備の同盟軍が目論む火攻めを最大限の効果にするための策だったのです。
蒋幹は、曹操軍に仕えていた文官です。赤壁の対岸同士にて曹操軍と孫権軍が睨み合う頃、周瑜と同郷で顔なじみということから、孫権軍の内情偵察や周瑜の引き抜きの命令を曹操から受けて、周瑜のもとに単身乗り込みます。しかし周瑜はすべてをお見通しで、曹操からの引き抜きを断るだけでなく、偽の内通手紙を掴ませて曹操軍の水軍のキーマンを処刑させたり、龐統を曹操軍に紹介する仲介をさせたり、火計のための偽装工作の裏付けをさせたり、と逆に大いに活用したのでした。

三顧の礼(3回目)

英子の歌を聞いた孔明がみた幻覚(?)のシーンです。
1回目は第1話冒頭で夢でみたように、孔明は自宅には不在でした。
2回目は第2話の薬を煎じるシーンでみたように、劉備たちは雪の中訪れますがまたしても孔明は不在でした。
今回の幻覚は3回目の訪問で、この時孔明は自宅にはいましたが昼寝中でした。
弟子は孔明を起こそうとしましたが、劉備は孔明が起きるまで待つと言ったといいます。
昼寝から目覚めた孔明は待っていた劉備に謁見し共に天下を語り、劉備に仕えることを決断しました。

「大夢誰か先ず覚む~」

三国志演義の三顧の礼において、昼寝中だった孔明が目覚めたときに歌たった歌が元になっています。

「人に致して人に致されず」「孫子の兵法か」

『孫子』は孔明の時代より700年ほど前に孫武が書いたとされる兵法書です。ここに書かれている兵法を総じて孫子の兵法と言ったりします。
『孫子』は孔明の時代においても有用な兵法書として認識されており、曹操は「魏武注孫子」という注釈書を残しているほどこの書を研究しています。
「人を致して人に致されず」は、劇中で孔明が解説するように、相手を自分の戦場に引き込み自分のペースで戦うという内容で、『孫子』の基本理念である「戦は敵味方ともに消耗が激しく、可能なら避けたい。どうしても戦うならいかに損害が出ないように戦うかしっかり考える」というものに即したものです。

「なければ借りればいいのです」

ここまで、10万イイネ、Xデーは締め切り3日前などのキーワードをスルーしてきましたが、ここで満を持して元ネタとして列挙します。
これは、三国志演義の赤壁の戦いにおいて孔明が仕掛けた草船借箭の計が元ネタです。
孫権・劉備同盟軍は曹操軍と赤壁において対峙しましたが、人員・物量の差による劣勢は否めませんでした。さらに周瑜は、自分の計略をことごとく読み切る孔明を、同盟相手の軍師ながら警戒していました。そこで、孔明に対して「曹操軍と戦うには矢が足りない。10日の間に10万本の矢を用意してくれ」と頼みます。今から作っても到底間に合わない無理難題です。失敗すれば同盟軍において孔明の立場が悪くなることを狙ったものでした。
これに対して孔明は、「10日どころか3日で用意しましょう」と返答しました。
ところが、孔明は1日目も2日目も何も動きを見せません。目付け役の魯粛(孫権軍の文官で周瑜の補佐をしていた。後に周瑜の跡を継いで孫権軍の軍部を取り仕切った)が心配するも、孔明は焦る様子を見せません。3日目の夜、霧が出る中藁を積んだ船団を曹操軍の近くに出航すると、曹操軍は無数の矢を船団に浴びせます。明け方、孫権軍のもとに戻った船団にはおびただしい矢が刺さっており、その数はゆうに10万を超えたといいます。
というのが、草船借箭の計の概要です。お察しの通り、10万の矢が10万イイネに置き換わり、締め切り3日前がXデーというのも矢を用意したのが3日後というのにリンクしています。

英子の両脇の2体のマネキン

10万イイネ狩りを始めた英子たちですが、英子の両脇には2体のマネキンを立たせています。これはもちろん3人組であるAZALEAを装うための偽装工作ですが、上述の草船借箭の計において、藁を積んだ船には兵士を偽装する藁人形を立てるのが草船借箭の計あるあるなので、それを想起してしまします。

今から『三国志』を知るには?

第5話本編の三国志ネタ列挙は以上ですが、ちょっとボリュームが物足りないので、『パリピ孔明』をきっかけに『三国志』を知りたくなった人向けに、何を手にすればいいのかをお伝えできればと思います。

入門編

目標:『三国志』の流れを知る
三国志を題材にした作品はたくさんありますが、そのほとんどがどうしても『三国志』を知ってるとすごく楽しめる内容になっています。『三国志』の流れを把握してからそのようなコンテンツに触れるのがより良いかと思うので、まずは流れを知るものをオススメしたいと思います。

・横山光輝『三国志』
言わずと知れた名作マンガで、ドラマ『パリピ孔明』でも何度か登場しています。
黄巾の乱から蜀の滅亡まで、主に劉備の視点(終盤は孔明視点)で描かれています。かなり昔の作品ですが、今でも『三国志』の流れを知るには最適のコンテンツの一つです。ただ、コミック版で全60巻、文庫版でも全30巻と大作なのが玉に瑕。

・吉川英治『三国志』
活字に抵抗がない方は、こちらの方が良いかもしれません。文庫本でたぶん全10巻くらい。
なんといっても、横山光輝『三国志』はこの小説『三国志』をベースに描いているので、吉川英治が創作したオリジナルシーンも漫画化されています。
ただ、現在普及している武将の読み方と違うルビが振られていたり、同じ武将が3回死んでたりと気になる部分もあるかもしれません。

『三国志 Three Kingdoms』
中国で制作された連続ドラマです。全95話の超大作ですが、小説や漫画を見るのはキツイという方にはこちらの方が良いかもしれません。制作年代も2008年ごろと、上記作品に比べると新しめというのも、馴染みやすいかもしれません。

子供向けの『三国志』
具体的にこれというわけではありませんが、実は子供向け書籍売り場にあるような『三国志』が、こと"三国志の流れを把握する"点においては最適だったりします。上に挙げたものをはじめとする三国志ものは、どうしても作家性や網羅性を気にしてしまい大作になりがちで、後から追いかける身としてはハイカロリーになりがちです。
一方、子供向けの『三国志』は網羅性をある程度確保しつつも、子供にもわかりやすい平易な表現で描くことが多く、総量も手ごろです。最近子供向け書籍売り場で見かけたものは、漫画で全3巻でした。横山三国志の全60巻と比べるとだいぶスッキリしています。子供向けと侮らず、まずはここから『三国志』を手に取るのもいいかもしれません。

中級編

目標:推し勢力、推し武将に出会う
『三国志』の流れをだいたい把握で来たら、入門クラスから中級へステップアップしましょう。
入門編で挙げたものはいずれも劉備や孔明から見た三国志、蜀視点のものでした。
ここでは、入門編で知った三国志の流れを踏まえたうえで、各勢力・各武将視点の作品に触れていきましょう。

『蒼天航路』
後に魏建国の礎となる曹操を主人公とした漫画です。曹操の少年時代から死去までをダイナミックかつ独自解釈で描いた、曹操視点『三国志』の名作です。この漫画が連載しはじめた当初、個人的に蜀視点の三国志ばかりに触れてきた自分にとって、革命的な漫画が出てきたと大興奮したものです。

『江南行』
入門編の蜀視点、『蒼天航路』の魏視点ときたら次は呉視点なのですが、不勉強にも呉視点の作品にはあまり出会えていません。そんな中でも至高の一作と思う漫画が、『江南行』です。
主人公は魯粛。三国志演義やそれに連なる作品では孔明と周瑜の板挟みに翻弄される人物として描かれがちな魯粛ですが、本作では正史『三国志』における魯粛の人物像に近い、大局観を持った優秀な人物として描かれています。『江南行』では孫策死後の、魯粛が周瑜と出会い孫権に仕えた後、呉の地域に孫権軍の地盤を固めるさまや、曹操が攻め込んできて赤壁の戦いに至るまでを、連作形式で描いています。

『真・三國無双』シリーズ
ちょっと変わり種でゲームをオススメ。
選択した武将を操作して戦場の敵兵を倒しまくる、ステージクリア型のアクションゲームです。
"無双系"というジャンルを確立した人気ゲームシリーズで、三国志好きの中には三国志の入り口がこのゲームだったという方もいらっしゃいます。
各武将の生涯をたどるようなステージ構成になっているため、武将と所属勢力の関係性にフォーカスしたシナリオを進めることで、愛着や興味がが沸く武将も出てくるのではないでしょうか。
なお、『真・三國無双』シリーズは、8が最新作ですが、ゲームとしての完成度や武将・勢力シナリオの充実度を勘案すると、『真・三國無双7with猛将伝』が一番オススメです。

『孔明のヨメ』
『パリピ孔明』で孔明が気になった人向けに、孔明が主人公格の漫画をご紹介。
正確に言うと主人公は孔明のヨメである黄月英なのですが。
孔明が劉備に仕える前、黄月英と結婚するところから孔明の生涯をたどる日常系4コマ漫画です。
作者がガチ三国志マニアなので、正史や三国志演義だけでなく、現地取材や周辺時代の出土品などの情報も漫画に練り込まれており、満足度が高い作品です。単行本の巻頭や巻末に作者がまとめた創作用のメモや取材レポや載っていて、本編同様に楽しめます。
最新の15巻では上述の草船借箭の計から龐統が曹操軍に乗り込むあたりが描かれており、今後も楽しみです。密かにアニメ化を待ち望んでいます。

上級編

目標:一生『三国志』を楽しもう
ここまで来るともう三国志好きは揺るがないでしょう。あとは、どう楽しむかです。

『三国志』とか知ってる武将の名前が出てくるコンテンツに触れる。
『パリピ孔明』もそうですが、三国志を知ると、世の中の色々なコンテンツに三国志の武将名が使われたものがあることに気付きます。あの武将が新たな切り口で見られるかもしれない、という期待でそういうコンテンツに触れるのもまた一興です。

『三国志演義』を読む。
色々な三国志エンタメのベースになっている『三国志演義』を読むというのも一つの楽しみ方です。"原典"を知ることで、上述の小説ではどこがアレンジされているのか、などがよくわかるようになります。

正史『三国志』を読む。
三国志に触れているとちょくちょく「『三国志演義』では〇〇だけど、正史では実は△△」みたいなことを言われる場面があります。どうしても気になる場合は、ハードルはだいぶ高いですが正史『三国志』を翻訳したものがあるので読むのも面白いかもしれません。翻訳されていてもだいぶ読みづらいですけど。

おわりに

今回は三国志ネタが少な目に感じたので、1つ1つのネタに長めの文章をつけたり、三国志の入り口に関する駄文をつけたりしてみました。
次回はおそらく草船借箭の計が発動すると思われます。その他にどんな三国志ネタが織り交ぜられるのか、楽しみに待ちたいと思います。

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