2024年凱旋門賞シンエンペラーの考察
◆1.シンエンペラーの戦績と騎手
2024年凱旋門賞に出走する日本調教馬シンエンペラー(牡3、坂井瑠星騎手、矢作厩舎)。
ここ3戦は坂井瑠星騎手とのコンビで戦って、国内外G1を3連戦し善戦(5着→3着→3着)しています。次戦凱旋門賞が4戦目でG1も4戦目。ただ、坂井瑠星騎手とのコンビの印象が強い割に、実は皐月賞が初騎乗。
レースレベルやメンバーレベルの違いもあるものの、坂井瑠星騎手が乗るまでは4人の異なる騎手で1着→1着→2着(G1)→2着(G2)と完全連対(横山武史→モレイラ→ムルザバエフ→川田将雅)。
シンエンペラーは完全な欧州血統馬とはいえホープフルS(G1)を2着ということもあり十分にクラシック有力馬で、何故こんなに頻繁に乗り替わっていたのか不思議ではあります。
当初は欧州血統馬ということもあり日本のクラシック戦線より英国ダービー中心の欧州のクラシック戦線に出走する可能性も予想されていた馬で、その時には現地の騎手を乗せる想定で主戦を作らず騎手をコロコロ変えてるのかもと当時は思ってました。
しかし現状は海外遠征の際も最後に乗り始め主戦となった矢作厩舎所属でトップジョッキーでもある坂井瑠星騎手が騎乗。個人的にはむしろそれでいいと思いますが、坂井瑠星騎手を乗せたいのであれば、坂井瑠星騎手を最初から乗せていても良かったはずで、少し違和感があります。
シンエンペラーが2着となったホープフルSでは坂井瑠星騎手は同厩のミスタージーティーに騎乗。シンエンペラーには坂井騎手と仲も良いムルザバエフ騎手が乗っていました。
シンエンペラーが先着しましたがミスタージーティーも直線進路が詰まりながらも追い込んで5着に好走し、矢作先生もミスタージーティーは坂井騎手が上手く乗れば勝てたのにと評していたほどで、当時はミスタージーティーの能力に同等以上に手応えを感じていてミスタージーティーに愛弟子の坂井騎手を乗せたのかもしれません。
または、ホープフルSを勝てていたら日本でもG1勝利ということを置き土産に、3歳頭から海外遠征をしていたんでしょうか。
◆2.シンエンペラーのレース内容と適性
シンエンペラーは坂井瑠星騎手が騎乗後、5着皐月賞(G1)は仕方ないですが、日本ダービー(G1)、アイリッシュチャンピオンS(G1)と騎乗や展開次第で勝ち負けもあったかもと思えるような伸び脚を見せつつの3着となり、凱旋門賞制覇の期待も高まる中で、坂井瑠星騎手と手が合ってないという評価も散見します。
しかし、好騎乗だったとは言いませんが、シンエンペラーのレース内容には直線途中伸び脚を欠いたのは騎乗の問題だけではないように思える部分があります。
1戦目新馬戦(東京芝1800m) 横山武史騎手=1着 途中で伸び脚鈍りながら最後突き放す
2戦目京都2歳S(G3、京都芝2000m) モレイラ騎手=1着 馬群の中追い込んで差し切る
3戦目ホープフルS(G1、中山芝2000m) ムルザバエフ騎手=2着 直線先に抜け出すが途中脚色鈍り外から差し切られる
4戦目弥生賞(G2、中山芝2000m) 川田将雅騎手=2着 直線5番手から追い込むが途中まで3~5着馬と同じ脚色で最後伸びて2着
この4人の騎手が乗った4戦を見ると、2戦目のモレイラ騎手が乗った京都2歳Sのみしっかり直線で脚を伸ばしています、まあ伸ばしていなければ勝てていなかった接戦でしたが。
新馬戦は問題ないと思うのですが新馬戦というメンバーレベルを考えるとソラを使った可能性もありますが直線で抜け出した後、少し脚色が鈍り、最後に伸びて突き放した走りにも見えます。
3戦目のホープフルSでは圧勝するかというような見事な抜け出しを見せますがムルザバエフ騎手の豪腕を持ってしても、脚色が鈍り、最後はレガレイラに差し切られてしまいました。
当時は抜け出したことでソラを使ってしまったと言われており、私もそう思っていたのですが。
4戦目、ホープフルSと同じ条件の弥生賞では4角~直線で先頭に抜け出す勢いだったホープフルSとは違い4馬身差前後の5番手から追い込む形で、ソラを使うことはないはずで、直線途中は3~5着の馬と似たような脚色で、4着以下に沈む可能性すら脳裏をよぎる展開で、坂が終わってから伸びてきて2着に入りました。川田将雅騎手も豪腕タイプの日本トップジョッキーですが、進路があってソラを使わずとも直線で脚が鈍りました。
5戦目皐月賞(G1、中山芝2000m) 坂井瑠星騎手=5着 ハイペースを直線5番手から追い込むが脚色悪く伸びない中5着に粘る
6戦目日本ダービー(G1、東京芝2400m) 坂井瑠星騎手=3着 スローペースを直線中団から鋭い脚で追い込んで3着
5戦目の皐月賞は現在の主戦坂井瑠星騎手と初コンビ。ペースや展開こそ違いますが位置的には弥生賞の再現のような内容で追い込むものの脚を伸ばせず、かといって失速するわけでもなく5着。
6戦目の日本ダービーでは中団から追い込む形となりましたが最後に脚を伸ばして3着。
これも進路が完全にスムーズというわけではなく、ペース含めて位置取りや騎乗面次第で勝ち負けは無理にしてももっと好走できたという説を唱える人が散見しましたが、これまでの走りを見てくると東京競馬場も直線に坂があり、坂が終わってから伸びてきたようにも見えます。
7戦目アイリッシュチャンピオンS (G1、レパーズタウン芝1990m) 坂井瑠星騎手=3着 直線進路が塞がるように見えるも最後に脚を伸ばして競り勝ち3着
問題の7戦目アイリッシュチャンピオンS。初の海外レース出走。
直線で進路を失ったものの最後には脚を伸ばし外から追い込んできた馬にも競り勝ち、1~2着とも差のない3着に好走し、スムーズに走れたならば勝ち負けもあったのでは?と思えるように見えます。
しかし、このレパーズタウン競馬場も直線に坂があるコースであり、これまでのレース内容と照らし合わせると、そもそもの進路を失った要因の一つに直線の加速で遅れを取ったことがあるわけで、そう考えると進路がスムーズだった所で元々途中の伸び脚を欠いていた可能性が高く勝ち負けは難しかったとも思えます。
シンエンペラーは欧州独特の芝や路盤、欧州ほどではありませんが京都競馬場含む起伏あるコースの追走に関しては特に問題ないように見えますが、比較的欧州血統馬が好走しやすい中山コースの急坂で脚色が鈍るなど、坂での加速が苦手なのかもしれません。
とはいえそこで失速するわけではなく、最後に脚は伸ばしてくれるので、勝負所、直線が平坦なコースならば途中の起伏が激しくてもパフォーマンス上げて対応できる馬なのではないかと思われます。
◆3.直線平坦の凱旋門賞ならパフォ上昇で好走可能性高い
凱旋門賞が開催されるロンシャン競馬場は道中の起伏が激しいコースで、道中は高低差10mのコースをゆっくり上り、途中から下っていき、平坦な直線へと向かいます。
道中に坂はありますが、最終直線は東京並に長い上に平坦なので、東京の坂でも少し加速が鈍るように見えるシンエンペラーにとっては東京以上にパフォーマンス上昇が見込めるコースに思えます。
シンエンペラーはロンシャンほどではないですが日本の中では起伏が激しい京都競馬場の坂でも道中の追走には問題がなかった上、アイリッシュチャンピオンSでも欧州の芝と路盤に対応し好走してきたので、おそらく坂や芝を理由にパフォーマンスを下げることはないと思われます。
全兄の凱旋門賞馬ソットサスは不良馬場の凱旋門賞を勝っているので、道悪でも対応できる可能性は十分あると思います。
ただ、【血を育むのは人】(by亀谷敬正)ということでいくら欧州血統馬でも、日本調教馬であり、日本でもG1好走をしてる日本に適応できてしまった馬という意味では、兄ほどには欧州道悪適性を引き出せていないかもしれず、道悪歓迎というほどではないと思います。
メンバーレベル的にも今年はスーパーホースレベルの怪物が現状ではいないようです。
シンエンペラーが勝てばG1未勝利馬による凱旋門賞制覇となりますが、そうなると2012年オルフェーヴルが2着だった年のソレミア以来。
G1未勝利の牡馬の制覇となるとシンエンペラーと同じく3歳牡馬の1998年サガミクス(当時無敗)以来。
2012年も1998年も凱旋門賞の歴史の中でも比較的メンバーレベルが低い年でしたから、そう考えるとメンバーレベルが比較的微妙といわれている今年も、G1未勝利馬のシンエンペラーが凱旋門賞制覇となる可能性が十分あるように思えます。
馬自体の調子もアイリッシュチャンピオンSよりもかなり上昇して絶好調と矢作調教師が絶賛していたので状態面も期待が持てそうです。
余談
シンエンペラーも全兄ソットサスも本質的にはスピード要素が血統に多く、それが戦績にも表れているので道悪では怪しいという血統評価も散見します。
確かにそもそも父シユーニは短距離~マイラーで産駒もマイラーが多く、父父ポーラーファルコン(短距離~マイラー)、父父ヌレイエフ(産駒マイラー多く中距離馬も凱旋門賞レコード勝ち高速馬場適性のパントレセレブルなど)なども素人目にもスピードのイメージが強い馬で、納得なのですが、ただ、だからといってソットサスは道悪での敗戦も多いですがそれを含め基本は戦績が安定していて、勝った2020年凱旋門賞(不良馬場)だけでなく2019年凱旋門賞でも重馬場でヴァルトガイスト、エネイブルらの3着と健闘しているので、道悪適性も十分あった(下げ幅そこまで大きくない)と思うので、個人的にはソットサスがもし道悪でダメだったとしたら血統よりは単純な能力問題と調教国の影響かなと思います。
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