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"子供の頃、トランスだと考えていた。しかし、もう今はそうではない" (翻訳記事)...ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙 〈全訳〉

"ジェンダー違和" を抱える子供たちは、もっとよいケアを受ける必要がある
2024年2月2日付
掲載紙:"The New York Times" (オンライン版)

by  パメラ・ポール Pamela Paul(同紙 オピニオン・コラムニスト)
"As Kids, They Thought They Were Trans. They No Longer Do."

グレース・パウエルは12歳か13歳のとき、自分が男の子であることに気づいた。

ミシガン州グランド・ラピッズの比較的保守的なコミュニティで育ったグレース・パウエルは、多くのティーンエイジャーと同様、自分のありのままの姿に馴染めなかった。彼女は人気がなく、よくいじめられていた。思春期がすべてを悪化させた。彼女はうつ病を患い、セラピーを受けたり休んだりしていた。

「私は自分の身体から切り離されているような気がしていて、体が発達していくのが自分自身に敵対的なものに感じていました」とグレース・パウエルは語った。それは典型的なジェンダー違和(Gender Dysphoria)の状態であり、自分の性別(sex)に対する不快感だった。

インターネットでトランスジェンダーの人々について読んだ彼女は、自分の体が心地よくないのは、自分が間違った体にいるからだと信じた。ジェンダー移行(トランジション)は明らかな解決策のように思えた。彼女が聞き、心を浸(ひた)した物語は、"移行" しなければ自殺するというものだった。

〈原注:(本記事に関連しては、"オピニオン・トゥデイ・ニューズレター" の中に、オピニオン編集者のキャスリーン・キングスベリーが説明文を書いています)〉

ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙 2024年2月4日付紙面

17歳のとき、ホルモン療法を始めたいと切望していたグレース・パウエルは、両親にそのことを打ち明けた。両親は彼女が真剣であることを確認するため、ジェンダー専門医のところに行かせた。高校3年生の秋、彼女は異性ホルモン投与を開始した。大学入学前の夏に両乳房切除手術を受け、その後グレイソンという名の "トランスジェンダー男性" としてサラ・ローレンス・カレッジに入学した。そこでは男子フロアで男性のルームメイトとペアになった。身長160センチの彼女は、自分が非常に弱々しい女性的なゲイ男子に見えると感じた。

グレース・パウエルによれば、医薬的または外科的移行を行っている間、ジェンダー違和(GD)やうつ病の理由について誰にも全く聞かれたことはなかったという。彼女の性的指向について尋ねられたことも一度もなかった。彼女は過去の心理的トラウマについて一度も尋ねられなかったため、セラピストも医師も彼女が子供の頃に性的虐待を受けていたことを知らなかった。

「もっとオープンな会話があればよかったのですが、ありませんでした」と、現在23歳でトランス解除(ディトランス)したグレース・パウエルは私に語った。

「でも、もしこれがあなたの問題であるならば、治療法はひとつ。やるべきことはひとつであり、これがあなたを救う、と言われたのです」

進歩派の人々は、小児期や10代のトランスジェンダーケアをめぐる激しい議論について、増え続ける子供たちが自分の信じる "ジェンダー" を表現することを支援しようとする人々と、子供が自分らしくあることを許さない保守的な政治家との間の衝突として描くことが多い。

しかし、この議論をあおったのは右翼の扇動者だけではない。トランスジェンダーの活動家たちは、特に近年批判が高まっている治療法(参照)の正統性を主張することで、自分たちのイデオロギー的で極端な急進主義を押し通してきた。その治療モデルでは、臨床医は若者のジェンダー・アイデンティティ(Gender Identity)の主張を肯定し、他の可能性のある苦痛の原因を探る前に、あるいは探すことなく医薬的治療を提供することさえ期待されている。

より慎重なアプローチが必要だと考えている多くの人々(善意あるリベラルな親、医師、ジェンダー移行を受けその後その過程を後悔している人々を含む)は、「反トランス」として攻撃され、その懸念の表明を黙らせるために脅迫されてきた。

ドナルド・トランプが「左翼のジェンダーの狂気」を糾弾し、多くのトランス活動家たちがあらゆる反対派をトランスフォビック(トランス差別的)と表現する一方で、米国の広大なイデオロギー的中間層にいる親たちは、推進派が "ジェンダーを肯定するケア" と呼ぶものに含まれる真のリスクや得失評価に関して、冷静な議論をほとんど見つけることができない。

グレース・パウエルの話は、このような雰囲気の中で、若者がイデオロギーの誘引にいかに簡単に巻き込まれ易いかを示している。

「医学的、心理学的な問題であるべきものが、政治的な問題に変質してしまっています」と、会話の中で彼女は嘆いた。

「完全に混乱状況なのです」

◯新しく、増えている患者群

トランスジェンダーの成人の多くは、移行(トランジション)に満足しており、大人になってから移行を始めたにせよ、10代の終わりから移行を始めたにせよ、それが人生を変え、命を救ったとさえ感じている。臨床医によれば、ジェンダー違和(GD)を示し、人生の早期に移行する子供の数は少数だが急速に増加しており、そしてそれは最近の現象であり、大きな議論の対象となっている。

米国初の小児ジェンダー・クリニックの創設者である臨床心理学者ローラ・エドワーズ=リーパー氏は、彼女が2007年に診療を開始したとき、患者のほとんどは長年にかかる根強いジェンダー違和(Gender Dysphoria)の症状を抱えていたと語った。移行は、ほとんどの患者にとって明らかに理にかなっており、彼らが抱えていた精神健康上の問題は、ジェンダー移行によって解決されるのが一般的だった。

「しかし、今ではそうではありません」と彼女は私に述べた。彼女は、以前の患者集団に関して、移行(トランジション)させたことを後悔しておらず、政府がトランスジェンダー医療を禁止することに反対しているが、「私が知る限り、現在起こっていることを規制するために介入する専門機関は存在していません」と語った。

ローラ・エドワーズ=リーパー氏(臨床心理学者)

現在、彼女の患者のほとんどは、幼少期のジェンダー違和(GD)の病歴を持っていないという。思春期の若者、特にティーンエイジャーの少女が、幼い頃には一度もなかったにもかかわらずジェンダー違和(GD)を表明するこの現象を「急速発症性のジェンダー違和(ROGD)」と呼ぶ人々もいる(これについてはいくつかの議論がある)。多くの場合、彼女たちはジェンダーとは関係のない精神健康上の問題を抱えている。

米国の専門家組織は、急速発症性のジェンダー違和(ROGD)に関する質の高い研究は不足していると述べているが、何人かの研究者参照この現象を文書化しており、多くの医療提供者が自らの診療でその証拠を目にしている。

「患者集団は劇的に変化しています」と、医療専門家向けのジェンダー移行ガイドラインを策定する責任を負う組織である世界トランスジェンダー医療専門家協会(WPATH = World Professional Association for Transgender Health)の児童・未成年委員会の元委員長であるエドワーズ=リーパー氏は述べる。

このような若者に対しては、「一人ひとりに合った治療計画を立てるためには、何が起こっているのかを実際に評価し、時系列で話を聞き、両親の見解を得るために時間を費やす必要があります。多くの医療提供者は、そのステップを完全に欠落させています」と、彼女は語った。

しかし、若者の自己診断に臨床医が自動的に同意すべきではないと考える医療専門家や研究者は、しばしば発言することを恐れている。英国のタヴィストック・ジェンダー診療所(閉鎖を命じられるまで、英国で唯一の性同一性〔ジェンダー・アイデンティティ〕 専門の医療センターだった)について、NHS(英国民保健サービス)が委託した報告書では、「初期診療と二次診療のスタッフは、疑う余地のない肯定的アプローチを採用するようプレッシャーを感じており、これは他のすべての臨床的な診察で行うよう訓練されてきた臨床評価と診断の標準的なプロセスに反するものである」と指摘している。

エドワーズ=リーパーによれば、彼女が臨床心理学者として養成した数十人の学生のうち、ジェンダー関連ケアを行っている者はまだほとんどいないようだ。彼女の教え子たちはさまざまな理由でこの分野を去っていったが、「何人かは、トランスフォビアであるという非難や、アセスメント賛成派であること、より徹底的な評価プロセスを望むことへの反発のために、続けられないと私に話しました」...そう彼女は語っている。

警戒するのには理由がある。オレゴン州で結婚・家族セラピストの資格を持つステファニー・ウィンは、"ジェンダー肯定ケア" の訓練を受け、複数のトランスジェンダー患者の診療に関わっていた。しかし2020年、インターネット上でディトランジション(トランス解除者)のビデオを見た彼女は、"ジェンダー肯定モデル" に疑問を抱くようになった。

2021年、彼女はジェンダー違和(Gender Dysphoria)にもっと慎重に配慮した方法でアプローチすることを支持し、医療や外科的介入を受けた後に自分自身をトランスジェンダーであると考えなくなった人々であるディトランジション(トランス解除者)に注意を払うようこの分野の人々に呼びかけた

それ以来、彼女はトランスジェンダー活動家たちから攻撃を受けている。彼女がコンバージョン・セラピー(転向療法)によってトランスジェンダーの子供たちの精神を変えさせようとしていると主張し、ライセンス委員会に苦情を送ると脅す者もいた。

2022年4月、オレゴン州ライセンス認証専門カウンセラー&セラピスト委員会は、現在その訴えを調査中であることをウィンに伝えた。最終的に訴えは却下されたが、ウィンは現在未成年者の治療は行っておらず、オンラインのみで診療を行っている。今は彼女の患者の多くは、トランスを自認する子供を持ち心配する親である。

「私を見つけることができる特定の場所があると、安全には感じられません」と彼女は述べる。

ステファニー・ウィン氏(結婚・家族セラピスト)のポッドキャスト

トランス解除者(ディトランス)の人たちは、保守的なメディアしか自分たちの現実を伝えようとしないため、右派の不運な道具としてトランス解除者が攻撃される可能性があると言う。それは、私がインタビューしたすべてのトランス解除者を苛立たせ、落胆させていた。彼・彼女たちはかつて、多くの団体が守りたいと主張しているトランスジェンダーだった子供たちであった。しかし、彼・彼女らの気が変わると、結局見捨てられた、とみな感じているのだ。

ほとんどの親や臨床医は、当事者である子供たちにとって最善だと思うことをしようとしているだけだ。しかし、現在のケアモデルに疑問を抱く親たちは、選択肢が少ないことに不満を抱いている。

親たちは、ジェンダー違和(GD)を持つ子供を思いやりをもってサポートしたいという気持ちと、最善の心理的・医療的ケアを求める気持ちのバランスをとるのに苦労している、と私に語った。多くの親は、自分の子供が同性愛者であるか、さまざまな複雑な問題を抱えていると信じていた。しかし全員が、たとえ深刻な疑問を抱いたとしても、ジェンダー臨床医、医師、学校、社会的圧力によって、子供が宣言した性自認(ジェンダー・アイデンティティ)に従わざるを得ないと感じたという。社会的移行や医薬的な治療を支持しなければ、家族が引き裂かれることを恐れていた。全員が匿名で話したいと要望し、子供たちとの関係を維持または修復することに必死で、中には現在疎遠になっている子供もいた。

子供の自己診断に疑問を抱いた親たちの何人かは、そのせいで関係が壊れてしまったという。何人かの親は "娘を失ったような気がする" と語った。

ある母親は、トランス自認の若者の親のための支援グループで他の12人の親たちと会ったときのことを話してくれた。参加者全員が自分の子供を自閉スペクトラム障害(ASD)かその他の神経発達障害であると説明していた。すべての質問に対して、会合運営者の女性は、"ただ、彼らを移行させてください" と答えていた。母親はショックを受けて立ち去った。
強迫性障害(OCD)やうつ病の子供たちに異性ホルモン剤がどのように役に立つのだろうか?

匿名のオンライン・サポート・グループに逃げ場を見つけた親もいる。そこでは、子供の自己診断に自動的に従うことなく、子供の苦悩の原因を探ったり、子供の全般的な感情や発達上の健康や福祉に配慮してくれるケア提供者を見つけるためのヒントを人々が共有している。

自分自身をトランスと自認する子供の親たちの多くは、子供たちが YouTube や TikTok でトランスジェンダーのインフルエンサーを知ったと話している。新型コロナウイルスの拡大による孤立とオンラインの引きこもりによって、一部の子供にとってはこの現象がさらに強まったという。

"ジェンダー・ユニコーン"

またジェンダー・ユニコーンジェンダーブレッド・パーソンなどの概念を含む、トランスジェンダー人権団体が提供するカリキュラムを通じて、子供に親しみやすい方法で、小学校の早い段階でこうした考え方を教室で学んだという人もいる。

◯「 亡くなった息子と生きている娘では、どちらがいいですか?」

キャスリーンの15歳の息子(強迫観念にとらわれやすい子供だったと語る)は、突然両親に自分はトランスであると告げた。その後、彼がADHDかどうかを診断する予定だった医師は、診断の代わりに、ADHDとジェンダーの両方を専門とする医師を紹介した。キャスリーン(息子のプライバシー保護のために下の名前のみで記述することを希望した)は、専門家が何らかの評価や査定をしてくれるだろうと思っていた。しかし、実際にはそうではなかった。

面談は短く、衝撃的な内容で始まった。
「セラピストは、子供の前で『亡くなった息子と生きている娘では、どちらがいいですか?』と言いました」

親たちは、子供の自己宣言した性自認(ジェンダー・アイデンティティ)に同意しない道を進むことは、ジェンダー違和(GD)の若者を自殺の危険にさらすことになるといつも決まって警告されており、多くの人にとってそれは感情的脅迫のように感じられる。

"ジェンダー肯定モデル" の支持者たちは、その標準的な治療と自殺リスク低下との関連を示す研究引用してきた。しかし、それらの研究には方法論的な欠陥があることが判明したり、完全な結論には至っていないと判断されている。ホルモン専門医の専門組織である内分泌学会誌に3年前に発表された、異性ホルモンの心理的影響に関する研究調査では、"自殺による死亡については、いかなる結論も導き出すことはできない" とされている。

昨年ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)への公開書簡の中で、9カ国21人の専門家は、この調査が "異性ホルモンによる移行(トランジション)が自殺予防に有効であることを示唆する信頼できるエビデンスはない" と考える理由の一つであると述べている。

さらに、ジェンダー違和(GD)の若者の自殺念慮や自殺未遂の発生率は、自閉スペクトラム障害(ASD)などの併存する疾患の高い罹患率によって複雑になっている。ある体系的医学研究レビューによれば、"ジェンダー違和(GD)を持つ子供たちは、様々な精神的併存疾患を経験することが多く、気分障害や不安障害、トラウマ、摂食障害、自閉スペクトラム障害(ASD)の有病率が高く、自殺傾向、自傷行為などの保有や経験も多い" と述べられている。

しかし、ジェンダー違和(GD)を抱える子供たちは、公平な専門家の助けを受けるに値する患者として扱われるのではなく、しばしば政治的な駒として扱われる対象になってしまう。

保守派の議員たちは、未成年者、場合によっては成人のジェンダーケアへのアクセスを禁止しようとする。しかし他方では、多くの医療従事者や精神保健関係者が、活動家の圧力や組織の捕捉によって自分たちの手が縛られていると感じている。こうした若者たちに対する責任あるメンタルヘルスケアや医療を実践することは困難になっている、と彼らは言う。

小児科医、臨床心理士その他の臨床家の中でこの正統的とされる方法が信頼できる証拠に基づいていないと考え、これに異を唱える者は、自分たちの専門組織に不満を感じている。米国心理学会米国精神医学会米国小児科学会(AAP)は、"ジェンダー肯定モデル" を現在まで全面的に支持している。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙 2024年2月4日付紙面


2021年、50歳の "トランス男性" で正看護師のアーロン・キンバリーは、ジェンダー違和のある若者の受け入れと評価を主な専門とするブリティッシュ・コロンビア州(カナダ)のクリニックを辞職した。キンバリーは、33歳で自身のジェンダー移行を成功裡に実行した際に包括的で総合的な選別検査を受け、幼少期から経験していたジェンダー違和(GD)を解消できたという。

しかし、彼のクリニックに "ジェンダー肯定モデル" が導入されたとき、患者が複雑な精神的問題やトラウマの経験、その他の「深刻な精神症状を抱えている」かどうかに関係なく、来院する患者のホルモン治療の開始をサポートするよう指示された、とキンバリーは語る。

すぐにホルモン治療を行うのではなく、さらなるメンタルヘルスケアを受けるよう患者を紹介したところ、"ゲートキーピング" と呼ばれて非難をあび、転職せざるを得なくなったという。

「何かが完全にレールから外れていることに気づきました」とキンバリーは私に語った。

彼は、当事者団体 "GDアライアンス" "LGBT Courage Coalition" を設立し、もっと良いジェンダーケアへの改善を提唱している。

◯「私が移行したのは、同性愛者になりたくなかったからです」

同性愛者の男性や女性たちは、同性に惹かれる子供たち、特にジェンダー不適合のフェミニンな少年やボーイッシュな少女たちが、性的成熟を迎える以前の幼少期の正常な時期に医薬的移行(トランジション)を行われることを恐れており、ジェンダーイデオロギーが同性愛嫌悪を覆い隠し、さらに助長していることさえある、と私に話してくれた。

現在はトランス解除者(ディトランス)となった同性愛者の男性は述べる。
「私は女性に見えるように夢中になっていたゲイで、男性のように見せようと夢中になっていたレズビアンと付き合っていた。これが転向療法でないとしたら、何がそうなのかわからない」

「私が移行したのは、同性愛者になりたくなかったからです」
ペンシルベニア州に住む23歳の女性ケイシー・エメリックは私に語った。保守的なキリスト教会で育った彼女は、「同性愛は罪だと信じていた」と言う。彼女もまたトランス解除者である。

15歳のとき、エメリックは母親に同性愛を告白した。母親は、エメリックの性的指向をトラウマのせいだとした。エメリックの父親は、彼女が4歳から7歳の間に何度も彼女を性的暴行した罪でその後有罪判決を受けた。エメリックの精神が破壊されたとき、母親は彼女を精神病院に入院させた。

そこでエメリックは自分に言い聞かせた。
「もし私が男の子だったら、こんなことにはならなかったのに」

2017年5月、エメリックはインターネットで "ジェンダー" を検索し始め、トランス活動家のウェブサイトに出会った。自分が "反対側の性を選べる" ことに気づいた後、彼女は母親にこう言った。

"ダイクと呼ばれ、本当の女の子とは違うと言われるのは、もううんざりだ"
もし自分が男だったら、女性との関係を追求する自由があっただろう。

その年の9月、彼女は母親と一緒に、2回の90分カウンセリングのうちの初回に専門カウンセラーと面談した。

彼女はカウンセラーに、ガールスカウトではなくボーイスカウトになりたいと願ったことを話した。同性愛者やブッチ・レズビアンになるのは嫌だと言った。彼女はまた、不安、うつ、希死念慮に悩まされていることもカウンセラーに話した。

クリニックはテストステロンを勧め、それは近くのLGBTQヘルスクリニックで処方された。まもなく、彼女はADHDとも診断され、パニック発作をも発症した。17歳のとき、両乳房切除手術の許可が下りた。

「"ああ、なんてことだ。私は胸を切除するなんて..."  自分では内心そう思っているんです」
「私は17歳。これには若すぎる…」と彼女は振り返った。しかし、彼女は手術に踏み切った。

「医療的な移行は、自分の人生で何もコントロールできないときに、何かをコントロールする方法のように、当時は感じていました」とエメリックは説明する。

しかし、"トランス男性" として5年間生活した後、エメリックは自分の精神的症状が悪化する一方であることに気がついた。2022年の秋、彼女は Twitterでトランス解除者であることをカミングアウトし、すぐに攻撃を受けた。トランスジェンダーのインフルエンサーたちは、彼女がはげ頭で醜いと言った。彼女は何度も脅迫を受けた。

「私の人生は終わった、と思いました。私は5年以上、嘘の人生を送っていたことに気がついたのです」

ケイシー・エメリックさんのNYT記事についてのポスト

今日、エメリックの声は、テストステロンによって永久に変化した男性の声である。彼女が自分がトランス解除者であることを話すと、いつになったら男性ホルモンをやめて女性として生きるつもりなのか、と尋ねられる。
「1年前からずっともうやめている」と答えている。

一度、彼女がセラピストに自分の話を詳しく話した後、セラピストは彼女を安心させようとして、もし慰めになるならとこう言った。
「あなたがかつて "トランス女性" だったとは想像もしていませんでした」

エメリックは答えた。「待って、私を男性、女性のどちらだと思っていますか?」

◯思春期の "ジェンダー" とアイデンティティの探求

"自分のジェンダーは子供が最もよく知っている" というトランス活動家の公式見解に、すべての親が経験から知っていることを付け加えることが重要である。

子供の考えは、常に変化する。ある母親は、10代の息子が、不可逆的な医療措置を受ける前にトランス自認であることを撤回した後、こう説明したという。

「僕はただ反抗していただけだ。それをサブカルチャーのように、ゴス・ファッションのようなものだったと今は思っている」

"When Kids Say They're Trans:A Guide for Thoughtful Parents" (Swift Press)
by Sasha Ayad, Lisa Marchiano, Stella O'Malley

「思春期の子供や10代の若者の仕事は、自分が世界のどこに当てはまる存在なのかを実験し、探求することですが、その探求の大部分は、特に思春期にはアイデンティティの感覚に深く関係します」と、アリゾナ州フェニックスに拠点を置く公認臨床心理士のサーシャ・アヤドは述べる。

「その年齢の子供たちは、自分がその時点で誰であると信じるか、そしてそのアイデンティティの感覚を確立するために自己が何をしたいかについて、大きな確信と切迫感を持って表現することがよくあります」

書籍 "When Kids Say They're Trans:A Guide for Thoughtful Parents"(『子供がトランスと言ったら:思慮深い親のためのガイド』)の共著者であるサーシャ・アヤドは、"ジェンダー肯定モデル" に対して慎重に注意するよう親たちにアドバイスしている。

「思春期の子供たちは、仲間や社会的状況との関係において特に影響されやすく順応性があり、そのような探求は思春期・未成年期の責任や複雑さとの折り合い、恋愛や性的指向の明確化など、その時期の様々な困難を乗り越えようとする試みであることが多い」

ジェンダー違和(GD)の若者に対する自身の診療で、このような探求的なアプローチを提供したため、アヤドは2度、患者ではない大人たちからライセンスの異議申し立てを受けた。しかしいずれの場合も、訴えは棄却された。

研究によれば、小児期のジェンダー違和(GD)の約10人に8人は思春期までに自然に解消し、ホルモン療法を受けている人の30%は4年以内にその使用を中止している不妊を含むその影響や副作用は、多くの場合に不可逆的である

ジェンダー違和(GD)の若者に対する早期の「社会的移行」と医療的介入の支持者らは、思春期ブロッカーと異性ホルモンの両方を投与した子供の約98%が、その後の短期間治療を継続したことを示した2022年の研究や、3歳から12歳の間に社会的移行をした317人の子供を追跡調査した別の研究では、約94%が5年後もまだ "自身をトランスジェンダーである" と認識していたことを挙げている。

しかし、そのような早期介入は、子供たちに考える時間や、性的に成熟する時間を与えず、子供たちの自己概念化を強固にしてしまう可能性がある。

◯「ジェンダー移行のプロセスは私の精神を改善しなかった」

大学1年生の終わりになって、グレース・パウエル(訳注:冒頭に登場)はひどいうつ状態に陥り、解離症状を起こし、自分の身体からも現実からも完全に切り離されたような感覚に陥った。それまで、彼女にはそのようなことはなかった。
「移行のプロセスは私のメンタルを良くすることはありませんでした。それは自分自身が間違っていることに気づいたことで、さらに拡大してしまいました」

「すべてが変わると期待していましたが、私はただの私であり、声が少し低くなっただけです」と彼女は付け加えた。
「移行を解除して再びグレースとして生き始めるまでに、約2年かかりました」

彼女は自分の根本的な問題を治療してくれるセラピストを見つけようとたが、セラピストは「あなたはどう見られたいのですか?」と尋ね続けるだけだった。
「ノンバイナリーになりたいですか?」

グレース・パウエルはトラウマ(心的外傷)について話したかったのであって、アイデンティティやジェンダー表現について話したかったわけではなかった。彼女は最終的に、英国のタヴィストック診療所の元臨床心理士からオンライン・セラピーを受けることになった。このセラピストは、"ジェンダー肯定モデル" から脱却した女性で、グレースが過去に起き上がることに失敗したと考えていることや、今はリセットしようと努力していることを主題に話した。

セラピストはこのような質問をした。
"グレースとは何者か?" "自分の人生に何を望んでいるのか?"

グレース・パウエルは初めて、誰かが彼女を "アイデンティティ" のカテゴリーに当てはめるのではなく、一人の人間として見て、助けてくれていると感じた。

トランス解除者の多くは,トランスジェンダー問題をめぐる有害な政治のせいで、排斥・追放されたり、沈黙に直面していると述べる。

「自分という存在が本質的に政治的であると感じることは、非常に苛立たしいことです」とグレース・パウエルは私に語った。

「私は、トランスジェンダーの信用を傷つけるために偽りの物語を作っている右翼だと何度も非難されてきましたが、それは全くクレイジーです」

彼女は、ジェンダー移行によって恩恵を受ける人が存在すると信じているが、「画一的で定型的な解決策はないということを、より多くの人が理解してほしいと願っています」と語った。
「そのような会話ができればいいのですが...」

性科学専門研究誌 "The Archives of Sexual Behavior"("性行動アーカイヴス" 誌)に掲載された最近の研究では、調査対象となった78人のうち約40人の若いトランス解除者が、急速発症性のジェンダー違和(ROGD)に苦しんだことがあると答えている。トランス活動家たちは、新しいタイプのジェンダー違和(ROGD)が現実に存在するという証拠があるにもかかわらず、その議論を封じ込めるために熱心に闘争してきた。

運動家団体GLAADは、ジャーナリスト向けの手引書の中で、この言葉は "正式な症状や診断" ではないため、メディアに使用しないよう警告している。ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)は、この言葉を "右翼の理論" と呼んでいる。専門家組織の集合団体は、この用語を使用しないよう臨床医に促す声明を発表した。

社会的、医薬的、外科的な移行の後、どれだけの若者が後悔に至っているかは、誰にも知られていないし、わからない。トランス活動家たちは、ジェンダー移行の後悔率が低いことや、移行解除・離脱の数値の低いことよく引き合いに出す。しかし、それらの研究は、ジェンダー・クリニックへの自己申告症例に依存することが多く、実際の数字を過小評価している可能性が高い。

例えば、私がインタビューした7人のトランス解除者のうち、今となっては間違いだったと考える薬剤を処方してくれたジェンダー・クリニックにそれを報告しようと考えた者は一人もいなかったまた、彼らは他に移行解除を行なった者を知らなかった。

米国人がトランスジェンダー・ケアの基礎について激しく議論している一方で、欧州では多くの理解進展が見られ、"ジェンダー肯定ケア" の基礎となった初期のオランダの研究参照が広く疑問を付されており批判されている。現在のジェンダー違和(GD)の若者の一部とは異なり、オランダの研究の参加者には併存する深刻な精神疾患がなかった。これらの研究は、方法論的な欠陥や弱点に満ちていた。何らの介入も、救命効果があったという証拠はなかった。研究参加者55名に対し、あるいは脱落者15名についての長期的な追跡(フォローアップ)調査は行われなかった。この研究を再現しようとする英国の研究は、「心理的機能の変化は確認されなかった」とし、さらなる研究が必要であると述べた。

スウェーデン、ノルウェー、フランスオランダ、英国といったジェンダー進歩の模範と考えられてきた国々では、小児期のジェンダー違和(GD)に対する医療介入について初期の研究には欠陥があるか不完全であったことを医療専門家たちが認識している。先月、世界保健機関(WHO)は、「トランスジェンダーおよびジェンダーの多様な人々の健康に関するガイドライン」を作成している理由を説明する中で、「小児および未成年に対する "ジェンダー肯定ケア" の長期的なアウトカム(転帰)に関する科学的エビデンスは限定的であり、一定でなく変化しやすい」ため、成人のみを対象とすると述べた。

しかし、米国やカナダでは、広く批判されているオランダの研究結果が、定着した科学であるかのように誤って公衆に提示されている。

他の国々では最近、ジェンダー違和(GD)の若者に対する医薬的・外科的治療を中止または制限している。さらなる研究結果は保留中である。英国のタヴィストック診療所は、NHS(英国民保健サービス)が委託した調査(参照)により、サービスの不備と "ジェンダー違和(GD)の本質と、適切な臨床的対応についての合意とオープンな議論の欠如" が判明したことを受け、次の月に閉鎖を命じられた。

一方、米国の医療機関は、時代遅れの "ジェンダー肯定モデル" から抜け出せず、今も傾倒している。米国小児科学会(AAP)は、自称 "強く同情的リベラル派" のジュリア・メイソン医師を含む反対派の専門家たちの長年にわたる努力に応え、つい最近、さらなる調査研究を行うことに合意した

トランスジェンダーに対するより大きな脅威は、トランスジェンダーの人々の権利や保護の否定を望む共和党からもたらされる。しかし、民主党進歩派の教義の硬直性は、とても失望させるものであり、苛立ちをよび、逆効果である。

「私はずっとリベラルな民主党支持者だった」
社会的移行とホルモン療法の後に離脱した息子を持つある女性は私に語った。
「今、私は政治的にホームレスだと感じている」

彼女は、バイデン政権が、「医学的に適切かつ必要」と判断した場合には "子供・未成年者のジェンダー肯定ケア" を "誤解の余地なく明確に" 支持してきたと指摘した。米国保健福祉省保健次官補レイチェル・レヴィーン氏は2022年にNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)に対し「小児科医、小児内分泌学者、思春期医学の医師、思春期精神科医、臨床心理学者など、医療専門家の間で "ジェンダー肯定ケア" の価値と重要性について、議論は存在していない」と語った。

もちろん、避妊や中絶の問題であれ、ジェンダー医療であれ、政治が医療行為に影響を及ぼすべきではないはずだ。しかし残念ながら、政治が物事の進歩の邪魔をしてきている。

昨年、英『エコノミスト』誌は、ジェンダー医療に対する米国のアプローチについて詳細な調査報告を発表した。編集者のザニー・ミントン・ベドーズ氏は、この問題を政治的な文脈に置いた。

「英国を含む欧州諸国を国際的に見ると、医療機関や専門家は(米国よりも)はるかに懸念している」とベドーズ氏は『ヴァニティ・フェア』誌に対して語った

「しかし、ここ米国では、共和党右派の狂った過激派がいる文化戦争に巻き込まれていることもあり、立派なリベラルでありたいならば、何も言えなくなってしまう環境にある」

◯文化戦争の政治から脱却し、対話と合理的理性に立ち返る

ジェンダー違和(Gender Dysphoria)に対するもっと治療的なアプローチを子供や家族に求めるため、少なくともそのような対話の場を開こうとしている人々がいる。

ポール・ガルシア=ライアンはニューヨークの心理療法士で、ジェンダー違和(GD)に対する総合的で探索的な治療を求める子供や家族たちの心理的ケアに取り組んでいる。彼はまた、15歳から30歳まで自分が "女性である" と信じていたトランス解除者(ディトランス)でもある。

ガルシア=ライアンは同性愛者だが、少年時代には、「自分は間違った身体に生まれたストレートの女の子で、治療が可能な病状なのだ、と考える方が精神的な脅威は少なかった」という。15歳でクリニックを受診したとき、医師はすぐに彼が "女性である" ことを肯定し、精神的苦痛の理由を探るどころか、自分は男性になるべきでないというガルシア=ライアンの信念をただ承認した。

大学に入ると、彼は医薬的移行を開始し、最終的には外性器の手術を受けた。手術とホルモン剤による深刻な合併症のため、彼は自分のしたことを考え直し、移行を断念しトランス解除者となった。彼はまた、ジェンダー・クリニックの臨床ソーシャルワーカーとして訓練を受け、それまでクライアントに提供してきた "ジェンダーを肯定する" 治療の基礎をもう一度考え直した。

「このようなスローガンを信じ込まされています。"それはエビデンスに基づいたもので、命を救うケアであり、安全で効果的かつ医学的に必要で、科学的な結論が出ている" と。それは、全てがエビデンスに基づいていません」

32歳のガルシア=ライアンは現在、"ジェンダー肯定モデル" に同意しないセラピストを支援する団体「セラピー・ファースト」の理事長を務めている。彼は、"移行" はある人々にとってはジェンダー違和(GD)の症状に対処するのに役立つと考えるが、25歳以下の誰もが、まず初めに探索的な心理療法を受けずに、社会的、医薬的、外科的に移行すべきだとは考えていない。

「専門家が若い人々のジェンダー・アイデンティティを肯定するとき、彼らがしていることは、その人の自己意識を狭め、その人にとって何が可能かを考える選択肢を閉ざしてしまう "心理的介入" を実施しているのです」と、ガルシア=ライアンは語る。

子供たちのための実績のない治療(多くの米国人が違和感を持ち心地悪く思っている事実は、調査が示している)を推進するのではなく、トランスジェンダーの活動家たちは、共有されているアジェンダに焦点を当てたほうが効果的だろう。トランスジェンダーの成人に対する法的保護の必要性については、政治的スペクトルを超えてほとんどの米国人が同意できる。同様に、ジェンダー違和(GD)を訴える若者のニーズに関するさらなる研究を支持し、子供たちが可能な限り最善の治療を受けられるようにもできるはずだ。

この方向へのシフトは、寛容と受容の模範となるだろう。悪魔化する扱いよりも思いやりを優先させるだろう。それは、文化戦争の政治から脱却し、まず合理的理性に立ち返ることを必要とするだろう。

それが最も人道的な道であり、そして、正しい行動なのだ。

パメラ・ポール(Pamela Paul)は、ニューヨーク・タイムズ紙のオピニオン・コラムニストであり、文化・政治・思想および私たちの時代の生活について各種記事を執筆している。

(翻訳はオンライン版より全訳)
原文:"The New York Times" (NYT) 2024年2月2日
"As Kids, They Thought They Were Trans. They No Longer Do."
 (OPINION)
https://www.nytimes.com/2024/02/02/opinion/transgender-children-gender-dysphoria.html
原文(アーカイブズ版):
https://archive.is/IRdFt

ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙 2024年2月4日付紙面


※ 翻訳… @streamkamala、&日文越境列車考究小機構*(2月11日,2024年)
(本記事は方針としてできる限り原文に忠実に翻訳しています.また、誤訳や翻訳改善に関連するご指摘をいただけましたらたいへん幸いです)


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