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エンタメと芸術が融合したとんでもないコントライブを観た(男性ブランコ『てんどん記』感想)

男性ブランコの『てんどん記』というコントライブを配信で見たんですが、あまりに良かったのでその感想を書きます。

キングオブコントで男性ブランコを知り、面白さと構成の巧みさに衝撃を受け、M-1の予選と敗者復活戦の面白さに再び衝撃を受け、ちょっと単独買ってみようかなと思い軽い気持ちで配信を見たところ、言葉遊びとあたたかい関係性あふれる好みドストライクの上質なコントだったので3度目の衝撃を受け、感想を呟こうと思ったら愛が止まらなくなってしまったのでnoteを記してみました。

いや、ほんと何かしらの賞を授与されるべきだし文化庁で保護してもらった方が良いし世の中はもっとてんどん記を褒めたたえるべきだしソフト化してほしいしほんとめちゃくちゃ最高だったんですよ…!

ということでつらつらと感想を書いていきます。
ネタバレしまくっているので、見たくないよーという人はここでストップしてください…!
また、ただのお笑い好きな素人の感想なので温かい目で見守ってくだされば幸いです。

①「旅」

腹筋ローラーで腹筋をする男(平井)とそれを応援する男(浦井)の話。後半でこの日は「てんどんさん」の祝祭の日であることが明らかになる。

ファーストボケの「応援が...足りないんじゃないのか?」が秀逸。この一言で「変な平井さんに突き合わされる浦井さん」という構図が説明せずとも伝わります。

なぜ腹筋を鍛えているのか、2人はどういう関係なのかは一切明かされないけど、ツッコミながらも平井さんを応援したり腹筋回収を手伝ってあげたりする様子や、「祝祭」というあまり耳慣れない言葉が当たり前に交わされていることから、この光景が2人にとっては日常であり、私たちはその日常を少し覗き見させてもらっているんだな、という認識が無意識的に生まれるのがたまらないですね。

…なんて難しいことを考えなくても、走馬灯に出てきても良いと思えるくらい腹筋ローラーを楽しんでいる平井さんと動揺しながらも協力してあげる浦井さんの差が可笑しかったし、「腹筋回収頓挫!」などのパワーワードも飛び出してすごく面白かったです。最高のコントですね!

OP

アニメーションが超お洒落。創世記のディズニーのようなレトロなタッチに「浦井のりひろ」「平井まさあき」の名前が映えることこの上なし。ステッカーにしてほしいくらい可愛らしかった。

②「ひよこ」

祭の準備を眺める弟(平井)と兄(浦井)の話。てんどんさんは「えび天でしばかれる」と畏れられている存在らしい。

サスペンダー可愛すぎ...仲良し兄弟かよ...と思ったら仲良し兄弟の話でした。M-1の敗者復活で着ていたアウターといい今回の衣装といい、男性ブランコはボーイッシュな可愛い衣装がびっくりするほど似合いますね。

これも平井さんが少し抜けているというか、愛すべきポンコツ的なキャラを演じています。
ただ、「人間の赤ちゃんを正面からみたら『きょむっ』って感じがする」など、バカというより感性や物事の切り口が一般的な人の斜め上、という感じなので、バカバカしさを笑うというより「微笑ましいなあ」と思ってクスクスする笑いに近い気がします。

「あれはなに?」と何でもお兄ちゃんに聞く素直さ、お兄ちゃんのことを「兄者」と呼ぶ感性(それにツッコミを入れないところが日常性を醸し出している)、準備が大変そうだから手伝ってあげようとする優しさ、お互いのことを「精神清潔」とたたえ合う優しさ、そのすべてが相まって愛しい兄弟になっていて、絵本を読んでいるようなほっこりした気持ちになりました。最高のコントでした。

③「水族記」

水族館の飼育員(浦井)と館内に一匹しかいないシャチを見に来た友人(平井)の話。途中で、友人がシャチに恋するまでの経緯を飼育員が本にまとめ、トークイベントで回想しているのだということが分かる。

これはコント史に残るべき名作。名作中の名作
てんどん記を知らない人でもこのコントだけは見てほしい。
この公演を観た人しか知らないコントで終わらせるのはもったいなさすぎます。なんとかソフト化して手元に残るようにしてほしいです。名作すぎる…

笑いと感動と切なさが絶妙なバランスで成り立っていて、本当にすごい。一つ一つのボケの力も話の展開も二段構えの構成もすべてが超一級で本当にすごい。すごい以上の語彙力が欲しい。すごい。

まず、キャラクターの性格を表す描写がすごかったです。今回も平井さんが独特な友人を演じているわけですが、特別奇妙なことをしているわけではなくて、何気ない会話の中で「あ、ちょっと変な人だ」と分かるような描き方をしているんですよね。それがすごい。

コントの導入として定番の「最初にキャラクターにその場の状況や相手の性格などを言わせる」という手法を使わないという特徴は、本公演、ひいては男性ブランコの特徴であるとも言えるのかもしれませんが(男ブラのほかの作品にあまり詳しくないので間違っていたらごめんなさい)、特にこのコントにその特徴が如実に表れているような気がします。

中でも「シャチは群れで生活するんだよ」「じゃあ逃がしてあげないとね」の会話の後、客席にざわざわと笑いが広がっていくシーンはその最たるものだと思います。
あまりにも自然な会話すぎて一瞬スルーしてしまうけど、「逃がす」のが当然だと思っているところ、それを飼育員である友人の目の前で言えるところ、そこになんの躊躇いも抱いていないところ、そういったズレが積み重なり男に対して「…え?笑」と笑いが起きるわけですが、それを日常的な会話で示しているところがすごいんですよね。

観客の理解力や想像力を信頼したうえで、ギリギリまで説明を省く姿勢は、男性ブランコが好きだと公言しているラーメンズにも通じるものだと思います。

何より、途中から2人のやり取りが飼育員の回想だったと分かるのがすごいんですよね…!
三人称的な目線で見ていたつもりが、ある瞬間から飼育員の一人称になる切り替えには「そうだったの!?」と驚かされました。飼育員と友人のやり取りという過去(Aパート)と、飼育員のトークショーという現在(Bパート)を行き来しながら、どちらでも笑わせるという高度なテクニックを無理なく行っていて、時空を超えて笑わせてるとか天才なのでは??と思います。

Aパートでは友人を窘めしっかりした一面を見せる飼育員さんが、Bパートではトークショーがイマイチ盛り上がらず試行錯誤していて、平井さんだけじゃなくて飼育員の人間味まで描いているところもとても丁寧です。
(Bパートで浦井さんを変な風に描きすぎると、Aパートでのツッコミに説得力がなくなり「おま言う」状態が生まれてしまいますが、そのバランスも絶妙にコントロールされていて本当に上手です。)

平井さんが少しズレている人を演じるという点は前の2本のコントと同じですが、それを受け入れている浦井さんだって、別に聖人君子というわけじゃないんだよ、ダサいところもあるんだよ、というのに言及しているところが前の2本と大きく異なるところで、私がこのコントに惹かれた最大の理由なんじゃないかなと思います。

変人を受け入れている側だって完璧人間じゃないし、コントのオチになるくらいダサいし、でもそんな完璧じゃない2人が友達同士というところに、他にはないリアリティと暖かい希望が詰まっているような気がして、ものすごくグッと来ます。

そして、シャチに恋した友人の結末がとても愛しく、暖かいところも大好きです。人間がシャチになるなんてあり得ない、と一蹴してしまえばそれまでですが、この町ならあり得るかもなあ、この友人ならシャチにぐらいなるよなあ、と思わせてくれるのは、前の2本含め、それまで丁寧に男性ブランコの世界を描き続けてきた結果なのではないでしょうか。

リアリティとファンタジーが混ざり合うおとぎ話を読んでいるような、切なくあたたかいコントに浸ることができて、本当に幸せでした。

④「家族記」

貧乏学者(平井)と大家さん(浦井)の話。学者は食事を忘れて「この世の端っこにたどり着いたとしても、世界は無限に広がっているのではないか」という説の証明に夢中。

大家さん優しい~~~優しいよ~~~~涙出そうになるくらい優しい……優しさが身に染みる……染身……
家賃払えない貧乏学者先生に「家賃はいいからご飯を食べて」って奥さんが作ったおにぎり渡して「どんなこと研究してるの?」って優しく尋ねて尋ねっぱなしにしないで「考えたこともないよ、面白い」って伝えて「それちゃんと伝えた方が良いよ」ってアドバイスして一緒に学者先生の奥さんが待ってる家に向かって……優しすぎませんか……大家さんの奥さんも優しい……優しい夫婦……

文字読めない学者先生はほんとこれまで生きづらかっただろうし、今も貧乏だし奥さんに出ていかれるしで散々だけど、それでも必死に生きてるんですよね…。

男性ブランコはそんな隅っこで生きている人というか、どちらかといえばマイノリティ側の人間にスポットを当てるのが上手だなと思いました。
派手な事件は起きないし世界が変わるわけではないけど、どこかの誰かは勇気を振り絞って絞って無くなるくらいまで振り絞って擦り切れそうになりながらも一歩を踏み出していたりして、そういう世界にとっては些細な、でも本人にとっては大きな物語でこの世はできているんじゃないかしら、なんて思わずにはいられません。

何より最後まで見ると、てんどんさんを祀るこの世界の秘密に誰よりも近づいているのは、ほかでもない学者先生だということが分かって胸が熱くなりました。
「こんな研究何の役に立つんだ」って言われ続けてきたと思うけど、今に分かるから、端っこにたどり着いたらまた別の端っこが広がっているから、この世は本当に広いから、だから諦めないで研究を続けてほしいな、大家さん共々ずっと幸せに過ごしてほしいな、とフィクションであることを忘れて真剣に願ってしまいました。とんでもないコントですね!

⑤「サラリーマン」

サラリーマンのさあさん(平井)と上司のミスの尻ぬぐいで相手先に謝罪に行くのりおくん(浦井)の話。

もう~~~~!!!!あたたかいよ~~~!!!!涙腺破壊させる気ですか……

『てんどん記』内で色んな変人を演じてきた平井さんだけど、一番クセの強いキャラがこのさあさんだと思います。
喋り方はのっぺりゆったりしていて、お気に入りの石や腐ったジンジャエールを持ち歩くなどお世辞にも「普通」とは言えないさあさん。でものりおくんは一切ツッコまないし、対等に話をしているし、さあさんもそれに負い目を感じているわけではないし、ほんとお互いがお互いを大切に思っていて、普通の友達なんだと伝わってきました。

「変人」というのは周りの環境がその人と一致していないから生まれるものであって、環境が変われば「普通」にも「特別」にもなるんだなあ、と2人の微笑ましいやり取りを見て思いました。24時間テレビの代わりにこのコント流してほしい。

何よりさあさんの「言っても仕方がないことを聞けるのが友達の特権だよねえ」というセリフにやられました。サラッとかっこよすぎること言わないで…心臓が持たない…。毎年書き初めしてるんですが2022年はこれを標語にします。何かしらのキャッチコピー大賞を差し上げたい。1年目で殿堂入りしてほしい。

⑥「夜ふかし」

眠りにつけない息子(浦井)と寝かせようと(?)頑張る母(平井)の話。母の扇子使いと声色の変化がテクニシャン過ぎた。

母が扇子で舞うシーンにやられました。まさかそんなことしてくるとは思わんやん……!不意打ちすぎる……!

キャラクターも面白いんですが「寝ずに動いて…!」とか「何かあったらすぐ舞うのやめてーな」とか言葉選びがいちいち秀逸でクスクス笑ってしまいました。M-1でも思いましたが男性ブランコはワードセンスが抜群ですね。

私もラーメンズが大好きで特に「透明人間」や「50 on 5」がお気に入りなんですが、言葉遊びが好きな人は男性ブランコめちゃくちゃツボだろうなと思います。ラーメンズのYouTubeの関連動画に男性ブランコの動画をデフォルトで出すようにシステム組んでほしいですね、全国のラークラが救われます。

⑦「曇った関心」

「みかさん」を待つ男(浦井)と占い師(平井)の話。

普通にコントとして面白いし「銭授(ぜにじゅ)」が再登場するなど他のコントとの繋がりも見えてきますが、だんだん単なるコントの枠を超えだしていく不穏な雰囲気がたまりません。

⑧「ふと思った」

祭の日に「みかさん」を待つ男たち(浦井・平井)の話。

浦井さんもボケるんですがそれはそれでとても良い。
途中ものすごく走るシーンがあったんですが、その中にも展開をつけて「次はどんな感じで来るのかな……?」という期待を毎回上回ってきて、面白かったです。

後半は一転して平井さんがふとこの世界の秘密について思い、シリアスな雰囲気が一気に漂います。どんどん違和感が加速するスリルがたまりません……!

そしてスモークの中登場したてんどんさんのビジュアルたるや……!
このコントのオチでもあり公演全体のオチでもある大事なシーンでしたが、絵面の強さと浦井さんのとぼけた雰囲気と平井さんの焦り具合がマッチして最高に面白かったです!

ED

OP、幕間に出てきたアニメーションからのエンドロール。
「てんどん記」で描かれた世界は一体なんだったのかが明かされる。

エピローグ

「みかさん」の正体が明らかに。

まとめ

男性ブランコの単独を見たのは初めてでしたが、中と外が交わるような、おとぎ話と現実が交錯するような不可思議な世界観でありながら、一つ一つのコントやその中での会話は言葉遊びのオンパレードで2人の関係性があたたかいものが多く、とても中身の詰まった満足感の高い上質な公演でした。

ラスト2本のコントとED~エピローグでこの世界の秘密というか、公演全体を貫く一本の軸のようなものが明らかになるわけですが、そのヒントの出し方にめちゃくちゃセンスを感じます。

最初の2本のコントを見て「てんどんさんを信仰する町の群像劇なんだろうなあ」というのは何となく予想がついていましたが、全部は説明しきらないし観客に委ねる部分が多いため、見た人によって解釈が異なりそうなのも面白いです。
考察が滾りますね、できることならお酒を片手に深夜まで語り続けたいです…!

一方でそんな世界観とか軸とか難しいこと考えなくても、自然に笑っちゃうくらい単純にコント一つ一つが面白くて最高なのもほんと最高でした。

エンタメと芸術を両立させてるとかお笑い能力カンストしてますよ、ほんと早急にしかるべきところから表彰されて未来永劫保護されて後世に伝え続けたいです。

また、「水族記」で「コラッ!」と怒るシーンでのピンスポットの当て方や「ふと思った」の出し方など、随所で演出が光っていたのもコントならではの良さを感じました。(蛇足ですがどことなく小林賢太郎みを感じて一介のオタクはものすごく湧きました。)

これだけお洒落なことしているのに、12/24と25に公演して随所で「祝祭」の言葉を入れているのに、中心にいるのはキリストでも七面鳥でもなく「天丼」なのが男性ブランコらしさなのかもしれないな、と勝手に想像しちゃいました。スタイリッシュだけど気取ってなくて安心しますね。どことなくホーム感があるのが一層魅力的です。

コンビニに強盗が入ったとか宇宙人がやってきたとか、日常の中で起こった非日常を描くのではなく、現実世界から見ると異質だけど登場人物にとっては当たり前の光景という、非日常の中の日常を淡々と描いているところが本当に素敵で、こんな作品をつくる芸人さんを知れて心の底から幸せだし、出会わせてくれたキングオブコントには感謝しかないです。

長くなりましたがここまで読んでくださりありがとうございました。
一生一緒にコントライブ続けてくれますように。


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