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birch『光をまたいで』全曲解説

自分、松野寛広のソロプロジェクト “birch”(バーチ)の2ndアルバム『光をまたいで』が7/31にリリースとなりました。

1stアルバムの時はレコーディングメンバーも含めた座談会で全曲解説をしたので、今回は文章で綴ってみようと思います。良かったらアルバムを聴く時のお供にどうぞ。

1.物の怪
体制側の人たちに毒付く内容の歌詞になったので、音の方はスネア四つ打ちのモータウンビートを取り入れ、トランペットを上物にして渋みがありながらも華やかなサウンドになるようにアレンジして行きました。と言っても曲を書いた段階で管のフレーズが頭の中で既に鳴っていたので、後からこねくり回すことはなく、すんなり完成した曲です。ドラムの牛山さんがこういうリズムパターンが得意なのは知っていたのでうまくはまったと思います。

2.さざめき
自分なりの教会音楽を作ろうとして取り組んだ曲。コロナ禍以降、経済も含めて色々な不安が表出して来た時にバッハのコラールをよく聴いていて、「祈り」と言う概念を初めて理解した気がしました。言葉遊びの羅列でイメージを想起させるサビの歌詞が特に気に入っています。アウトロのコーラスアレンジはボーカルの竹川くんにお願いして、教会的な音像がより強調されました。良いアレンジだなあ。

3.エメラルド・ギル
この曲のみ古い曲で、10年ぐらい前に書いたと思います。ブルーギルという外来の淡水魚が子供の時から好きで、沼の主のような巨大なブルーギルを釣り上げた実体験から出来た曲です。とにかくポップなので他の曲と比べて浮くかなと心配でしたが、最終的にアルバム全体の夏っぽいトーンに馴染んで良かったです。クラビネットにワウをかけているのですが、自分のペダルワウが下手すぎてエンジニアの中村さんに指摘されオートワウでの収録となりました。(笑)

4.小さな誓い
自分は循環コードを使って曲を作ることがあまり無いので、たまにはやってみようという着想から生まれた曲です。まずピアノがハウスみたいな跳ねたリズムのフレーズになったので、ドラムはディスコにして自分なりのダンスミュージックを作りました。ハウスのピアノや、生ドラムに打ち込みのドラムが絡んで行くアレンジは自分が育った90年代に多く見られた手法ですが、音楽、映像、ファッションにおける90's、Y2Kがトレンド化している現在なら有りなんじゃないかと思い取り組んでみました。ヴァイオリンは1stに引き続き横山さんにお願いして、抑揚のあるとても良い演奏をして頂きました。

5.溶けた世界へ
まずピアノのリフが元々あったので、それを展開させる形で、A、Bと流れで作ったのですが、サビだけ別にボサノヴァのリズムで出来てしまい、それをくっ付ける形になりました。(サビのメロディがA、Bより低くなるのはそのため。)アフロキューバンのリズムにギル・エヴァンスの様な少し濁った管アレンジを乗せているのですが、ギルのアレンジにおける管の積み方を自分ではよく聴き取れなかったので、トランペットの千明さんに参考音源を聴いてもらい、アドバイスを元にアレンジして行きました。上から①フルート・②クラリネット・③トランペットの順に重ねています。(フルート・クラリネットは今回初参加の綾音さん。)

6.trickster
行き過ぎたグローバリズムに対する不安から生まれた曲で、ポエトリーリーディングを意識しつつ、サビでの「いみじくも地に血を注いだな」という言葉遊びが上手く行ったと思います。トライバルなリズムに乗って、チェロの成澤さんのストラヴィンスキーみたいな攻めた音像も格好良くて、とても満足行く仕上がりになりました。間奏のソロをお願いしたヴィブラフォンの影山さんは、何と1テイクで録音が終わり後光が差していました。スピリチュアル。

7.水の波紋
鍵盤で作曲すると使うコードが多くなり、展開させがちなので、前曲のtricksterと同じく1コードでなるべくステイする様に意識した作品です。クラシックのバルカローレ(舟唄)という形式を元にした6/8のゆったりとしたリズムが特徴で、浮遊感のある和声も使用しています。竹川くんのうたはこの曲が一番はまった気がしていて、ピアノとうたは同時に録音したのですが、これも1テイクで録れたのが嬉しかったです。

8.cloudy
1stアルバムも8曲目にインストを入れたので、対になる作品としてこの曲順に配置しました。ウーリッツァーとチェレスタの演奏に、武蔵小山の林試の森公園でフィールドレコーディングした自分の足音とアンビエンスをミックスしたのですが、夜の録音だったので不審者と思われない様に、芸大大学院生の音響研究(多分公園内の誰にも伝わってなかった、、)という体裁を取って無駄に険しい面持ちで録音をしました。。

9.光をまたいで
郊外に電車で出掛けた時のことを素直に書いたアルバムタイトル曲。自分も少しそういう所がありますが、心がナイーヴな人へ向けた詩になった気がしています。チェロ三本を重ねた弦アレンジも気に入っていて、成澤さんがベンドを使ってくれたおかげでゆったりとした曲調の中にもダイナミズムが生まれました。竹川くんが弾いてくれたアコギはエンジニアの中村さん所有のもの。これも良い音で録れて良かった!

10.Hello,Hello
トッドラングレンやバカラックの様なスロウシャッフルでメロディの強い曲を作りたいという着想から生まれた作品。詩は自分の実体験がベースになっていて、大人になった「私」が子供の時の「私」に語りかけるという内容。千明さんにフリューゲルホルン二本でアレンジをお願いしたのですが、シンプルだけど効果的で凄く気に入っています。(自分が好きな二度のハーモニーが出て来るのも嬉しい。)サビの志門くんのベースのアルペジオも素晴らしいですね。アルバムの中で一番好きな曲。

以上全曲解説いかがだったでしょうか?この解説を読みながら更にアルバムを聴き込んでくれると嬉しいです。

9/22にはリリースイベントも行いますので、是非お越し下さい!

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birch『光をまたいで』CD

birch『光をまたいで』配信(3曲)

【INTERVIEW】birch 松野寛広インタビュー『光をまたいで』 - indiegrab

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