ー帰還ー①

「こ、このたわけ者があああああああ!!!」

ガッシャーンと大広間からいきなり大きな物音をした事に、びくっと肩を震わせた戦士達が何事かと門から、こっそりと顔を覗かせているのを、横目でチラッと見ていた私は、はあ…と盛大にため息をついてしまう。

(ええと、そんな大袈裟に騒がなくても…良かったんじゃないの?)

そう、痛々しげに包帯を巻かれている私としょんぼりと落ち込んでいる宗の目の前に、狼一族の長老はわなわなと体を震わせ、怒りに任せて物を投げながらくどくどと説教をしていた。

「この馬鹿息子!白百合様がこのような事をしでかすのを分かっていながら、おめおめと危険を晒すとは何事か!」
「ちょっ…まてって、親父!その物騒なもん投げんな!仕方なかったんだって、まさかこのような事になるとは、俺も…」

予測不可能だったんだよと頭を抱えながら、キッと恨めしげに私を見つめて

「お前が、こんな面倒起こさなけりゃ、俺だって怒られなかったのに…」

いつも通りの日課を平穏に過ごせたはずなのにとがっくり肩を落とす宗に、私は

「まー…よかったじゃないの、無事でさ?」

と、はははっと乾いた笑い声をだしながら、そっと宗の背中を触ろうとすると

「…触るな、この阿保娘!」

と嫌がられてしまった。

「ま、無事で良かったんだし、いいじゃない、ね?」

そう、あの後息を切らしながら境目の線を超えた安心感につられて、へなへなと座り込み暫く立ち上がれなかった私を、見回りに巡回していた宗に発見され、心配そうに怪我はないか?と手を差し伸べて、私を立ち上がらせようと近づいた宗は、首を絞められた痕と噛まれた私の首筋の傷をみるなり硬直し、次の瞬間お姫様だっこをされた。

「ちょっと、宗…!」
「大変だ!桜織が」

と、巡回していた戦士達に知らせ、さらに急いで駆け込んだ大広間に、ちょうど話し合いをしていた長老も首筋に怪我をしている私を見た瞬間、ぶくぶくと泡を立てて気絶した程の大騒ぎを起こした。

ーその結果が、今に至るというわけで…。

「で、この阿呆娘。なにか言うこと無いのかよ?」
「ご、ごめんなさい」

宗に睨まれて、しゅんと肩を落とした私を見て長老はようやくやっと怒りを収まったのか

「今度しでかしたら…いいですか、今度ですよ?本当に護衛つけさせていただきますからね。白百合様」

と、和やかに笑らったかといえば、次の瞬間、問答無用でやりますからね、いいですよね?ええ、それはもう文句は言わせませんよ?の意味を込めた長老の黒い微笑みを見てしまった私はうぐっと喉を詰まらせて、黙まってしまった。

(…やばい、今度しでかしたら、こっそり部屋から逃げ出せない。見つけたら、連れ戻されて監禁をやりかねない勢いの微笑みだこれは!)

心の中で冷や汗になりながらも、必死に頷いた私を満足そうに微笑んだ長老は

「まあ、いいでしょう。宗、白百合様を私室まで運びなさい」

と、退室を促した。

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