0422

4時に一回目が覚めて、数字の並ぶ液晶を見る。こんな時間にふと起きるなんていつぶりだろうと思ってから数秒、また意識の外に放り出された。
5時に合わせていたアラームが鳴り、寝ぼけた視界の端に慌てて手を伸ばす。起きても、ぼーっとするしかなくて、液晶を見てはぼーっとし、泣いて、またぼーっとして。順番にあなたたちの歌を聞いていったら、また泣けてきて。Alone大好きなのに、ね。眠れない夜に聴いて泣いていたDream Catcherが、あまりにも今の心情にあっていて、泣くことしか出来なくて。
その時間は迫っていって、時間が来ても、過ぎても祈ることしかできなかった。
あなたを送らなくちゃと思って、あなたへの想いを文字にしても、まだ理解できなかった。わからない。
大丈夫になったと思ったら、また涙が込み上げてくるの繰り返し。
こういう時でも、お腹は空くもので。インスタントそばを茹でた。日本にいる時ですら茹でなかったのに、3日連続でお昼にそばを食べている。実家にいたら祖母に心配されているところだった。最初は、この地にいて、周りにはあなたのおかげで知った景色が広がっていて、このお店は広告してたなとか、このアイス食べてたなあとか、あなたの形跡を見ることになるのが少し憎かった。けれど、日本にいたらやるせなさと気持ちのやり場がなさに苦しんでいたと思う。あなたを思う人が集まる場所に行って、呆然として、また泣いて、そうやって少しだけ心が楽になったのは事実で。きっと、こういう小さなことを積み重ねていくしか救われる方法はないのだろう。もちろん、日本にいたらよかったと思う瞬間もあった。一人では抱えきれなくて、祖母に抱きしめてほしいと思った。わたしにほしい言葉をくれるあなた以外の唯一の人に。
そばを食べ終わって、また時をやり過ごしていたら12時になった。
わたしはこの日音楽を聞きに行く予定だった。10万ウォンをふいにできないから行かなければと思いつつも、気が向かないでいた。落ち着いた音楽をするひとだし、わたしがわたしのことでつらい時に聞いてた音楽だから、今の心でも聞けるのだけど、感情が動かない。3組を見る予定だったけれど、無理だと思ったら一番好きな最初の1組だけ聴いて帰ろうと決めた。準備しようと鏡を見たら、なんだかくまがあるように見えた。なんだか顔色が悪そう。わたしの顔に疲労とかそういう類のものが出ることはないと思ってた。無心で顔に色を塗り続けた。同居人が出かけて、一人になれて、ひとりごとをぶつぶつ言っていたら、またぽろぽろと涙が出た。泣くのはその時間までと決めていたのに、全然だめで。
外に出て、電車に乗る。目の前に座り込んでいる若い人がいて、体調が悪いのかなと思って、大丈夫かと声をかけようか迷う。あなたならきっと声をかけるだろうから行動したいのだけど、声が出ない。結局おじさまがその人に席を譲っているのを見ることしかできなかった。だめだめだねえ。
乗り換える。漢江が見える。見つめていたら、あなたが数時間までいたであろう場所が見えて、胸がぎゅっとなった。
会場に着いた。いつもなら戸惑い不安がる行ったことのない場所なのに、無心でチケットを受け取り、リストバンドを巻いてもらう。いい1日になりますように、といういつもならちょっと心が温まるテンプレートの挨拶が、今日だけは心地悪かった。日が暖かくて、送る日がこんなに暖かいのなら、よかったなと思った。
会場にはたんぽぽの綿毛が舞っていて、それを目で追っていた。
好きな歌手の1組前が登場して、歌って踊っている。あまりにも大きな音が耳と心臓に響いて、耐えられなくてヘッドフォンをつける。それでも響いて仕方なかった。逃げるように舞台から目を背けて、目に入った寄付図書館に立ち寄った。本を持っていく代わりに思いの分だけ寄付をするという趣旨らしい。小説を読む気にはなれなくて、エッセイを探していた。詩集が一つだけあって、詩をよく載せてくれたなあと思って、それを選んだ。子供を救う団体、動物団体、ガン患者支援団体、もう一つは名前から判断できなかった。伴侶動物のことが思い浮かんで、動物団体に1万ウォンを入れた。
歌って踊ってる人たちの番は終わり、人々が入れ替わる。その隙間に芝生にシートを敷いて、またぼーっとしていた。
音楽に集中したいのに周りの話し声がうるさくて、ああ嫌だなあと思った。
出番が終わって、こんな時でもお腹は空くから一丁前に長いポテトを買って、階段状になっている座席で食べた。コンソメ味でおいしかった。そのあとの2組はその場所で見ていた。楽しそうに歌っていて、つられて笑みを浮かべてしまった。
家で音楽を聴く元気はなかったけれど、ここでなら許される気がして、心が落ち着く時間だった。夕暮れに染まる屋根のない空が見えた。いつものように写真を撮ったら、雲がクジラみたいに見えた。カメラロールを見返していて見つけたツイートが、頭に浮かんだ。そのあと暗くなってからまた空を見ると、一つだけ輝く星と月が見えた。
電車に乗って帰った。スマホを見ると、親からラインが来ていた。大丈夫?という質問にどう答えるか考えていた。大丈夫だと思ってもダメな瞬間は来るだろうし、ダメだと思っても大丈夫になる瞬間は来るだろうし、と思い、考えを巡らせていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?