SS 彼女の思い出……【誘惑銀杏】#毎週ショートショートnoteの応募用
暗い商店街を抜けて裏道に入ると、安食堂や薬屋の電気がまだついている。そんな路地裏に、ネオンの立て看板に「誘惑銀杏」と書かれいる。
新しいスナックかな……そんな風に感じてアクリルドアを押した。
「いらっしゃい」
無表情で四十前後の女性が赤いドレスを着てバーカウンターに座っている。
「ジャックダニエルで……」
「ええ……」
他に客は居ない、彼女がカウンターで酒をつくりグラスを置く。一口、飲んでセメダインのくささを味わう。
「おいしい?」
「苦手じゃないよ……」
軽やかな味よりも臭みが好きだ。苦みの強い酒を飲んだ時に感じる『人生は嫌な事が多い』を実感できる。過去を確認するかのように、ウィスキーを飲み干す。
彼女も特有の匂いがする、安酒場のすえた匂い。酒に酔いおぼれて、いつしか閉店まで飲むと、二階につれていかれた。
服を脱ぐとあの特有の匂いがする。銀杏だ。彼女の体臭なのかもしれない、でも嫌じゃない。匂いに惹かれるように彼女を抱いた。
もう何十年も前の話だ。公園の銀杏を踏むとあの匂いで思いだす。もう一度会いたい……銀杏臭い彼女を……!
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