SS 双子の日 【閏年】 #シロクマ文芸部
閏年には弟が帰ってくる。それは嬉しい事なのに怖く感じる。
「ねえさん、また親父に殴られたの?」
「好き嫌いしたからね……」
卵の黄身が嫌いで弟にあげようと皿のすみっこによけとくと、父親から偏食するなと怒鳴られた。私が言いわけすると頬を殴られる。
「そんな事で殴るなんて」
「いいのよ、お父さんはいつもあんな感じ」
弟の手が私の頬をやさしくなでる。冷えた手のひらは気持ちがいい。双子で産まれた私と弟は顔が似ている。鏡で見ても見分けがむずかしいくらいに似ている。
「いつか僕が殴ってやるよ」
「暴力は駄目よ」
左手で弟の右手をつかんで制する。弟は私と違って怒りが強い、父親に似ていると思う。そんな弟が本当に父親を殴り倒してしまうと、どこかの施設に送られた。私も一緒に施設に入ったのは父親からの暴力から逃げるためだ。
「姉さん、ここは静かでいいね」
「本当に落ち着くわ」
隔離されている弟とは、あまり出会えないが、たまに顔を会わせると嬉しそうに笑ってくれる。父親も冷静になり、私を引き取りたいと願い出ていた。
「退院できますね」
「本当ですか?」
「荷物をまとめてください」
「弟はいつ退院できますか」
お医者様は言いよどむように四年後ならと言ってくれた。弟の病気がよくなれば退院できると私も希望を持つ。その年は閏年だった……
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「お父さん、そろそろ弟が帰ってくるわ」
「……弟なんて居ない……」
「ひどい、いくら殴られたからって息子でしょ」
「本当に居ないんだよ」
父親の顔は青ざめている。
ドンドンドン、玄関のドアが叩かれる。
ドンドンドン、私は急いで玄関に走った。
弟が戻ってきた、懐かしいけどなにか怖い予感がする。またお父さんと喧嘩をしたら……、ドアをひらくと警察官が立っていた。
「逮捕令状が出ています、一緒に来て下さい」
「弟がなにかしたんですか? 弟はどこですか?」
父親が悲しそうに私の肩に手を置く。
「弟は死んだんだ」
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父親が医者に深刻な顔をしながら娘の説明をしている。
「娘が双子の弟を殺したのは八歳の時でした、それまでは怒りの発作はあっても普通の子供でしたが、四年間隔で凶暴になる事がありました。ちょっとした事で過剰な暴力をふるいます」
医者もうなずく。
「彼女は死んだ弟が生きていると信じてます。暴力行為は弟がしたと認識してますね」
「なぜ見知らぬ人を殴ったのか……」
「いつか治療できる薬が作られますよ……」
個室の病棟は、鉄格子がはめられている。窓ガラスにうつる自分をみながら、彼女はいつまでも楽しそうに笑っている。
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