SS 笑う娘【ヒマワリへ】 #シロクマ文芸部
ヒマワリへ手をかざす。
「大きいねぇ」
「もう坊ちゃんと同じくらいね」
女中の幸子が嬉しそうに笑う。尋常小学校も来年で卒業する。田舎に疎開してからは、幸子と一緒に暮らしていた。
「お父さん、戻ってこれますか? 」
「戦争が終わったら、戻ってこれるよ」
銀行頭取の父は内地で働いていた。空襲が激しくなると僕を疎開させる。女中の幸子の実家で暮らす事になる。
「やーい、もやし」
「木登りもできないのか」
疎開先ではよくいじめられた、だから友達は作れなかった。自然と幸子と遊ぶことになる。彼女は十六だったと思う。幸子は僕を弟のようにかわいがってくれた。
「大きくなったら兵隊さん? 銀行員? 」
笑う幸子は、ヒマワリのように明るい。風呂で僕の体を洗ってくれる、彼女の肌はまぶしく美しい。
そんな毎日も終わる。
「敵の機銃掃射か……」
「いきなりだったそうよ」
彼女は死んだ。大口径の機関銃の弾で跡形もなくなっていた。そばにヒマワリ畑がある。油を取るために大きなヒマワリが育っていた。
「大きいね」
ヒマワリは幸子の背よりも大きく育っている。花が重いのか僕を見ているようだ。ヒマワリへ手を伸ばす、きっとヒマワリは笑っている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?