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SS 桃太郎 【#ボケ学会参加作品】(767文字くらい)

 鬼はどこにいるのか……

「旦那、あらかた殺しましたよ」
「うむ」

 殺戮さつりくの場は血まみれで恐ろしいくらいに鉄臭い。猿田彦さるたひこが太郎の前でにやりと笑っている。

「敵ではありませんね」

 雉ノ助きじのすけが長い刀を振り回しながら鬼達にとどめを刺す。彼らは道中で雇った浪人だ。

「あとはおぬしだけだ……」

 足の傷で彼女は動けない。鬼の娘は泣いてるようにも笑っているようにも見える。

「さっさと殺しな」
「あっしにやらせてくださいよ」
「まて」

 残忍な顔で猿田彦さるたひこが前に出るのを手で制すると太郎は、刀を突きつけた。

「言い残す事はあるか」
「ないよ、鬼と人は敵同士さ」
「なぜ人を殺した……」

 太郎は鬼の蛮行を止めるために島にきた。だが島は平和だった、そう彼らは太郎に虐殺された。

「あんたたちも鬼を殺すだろう」
「ボケた事を言うな! 鬼が人を襲っただろうが」

 雉ノ助きじのすけは怒鳴る、妹を殺された彼は鬼を殺すのが生きがいだ。

「そうだね、力があるやつは他人を傷つけるさ」
「旦那、もういいでしょ。あっしにやらせてくださいよ、まず手足を落としてから……」

 ズバッっと首を落とす。猿田彦さるたひこの首が地面に落ちる。

「血迷ったか!」

 雉ノ助きじのすけは、長い刀で太郎を切ろうとしたが、太郎の方が早く腕を飛ばして、喉を突く。犬吉が驚いたように駆け寄る。

「旦那様!」
「犬吉……お前は忠実な家来だ、この島の宝をもって家に帰れ」
「しかし……」
「鬼は……ここにいる、鬼は人の心の中にある」

 泣く桃太郎は、鬼の娘に手を貸すとどこかへ消えた。行方は誰も知らない。
 
 人の村に戻った、犬吉は年をとりボケながらも桃太郎の話をする。彼は話が終わるたびに涙を流しながら笑う

「鬼退治をした桃太郎は、みなを幸せにしましたとさ……」

#桃太郎
#ボケ学会
#募集小説

一応、ボケと笑いは入れましたが…… 主旨と若干あわない事をお許し下さい。ちなみに、このお題は相当難易度が高く、お笑いでもよくある昔話を題材にしながら笑いをとらなければいけないという、きついパターンです。

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