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雑多な怪談の話

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2024年1月の記事一覧

SS ツノがある東館 【一行目で惹きつける】#毎週ショートショートnoteの応募用

 大腿骨が白く透き通るように美しい。彼女は口の端を曲げて笑う。 「ありがとうな」  xxx  東館にはツノがある、物理的に出ているツノだ。 「このツノを外したいんですね?」 「隣が高層マンションになるので……」  その建物は江戸時代から残っていた蔵だ。もう白くもない漆喰は傷みが激しく、ひび割れている。 『鬼蔵』  近所では有名なツノが生えている蔵だ。鬼瓦でびっしりと装飾されている奇怪な蔵は、遺言で取り壊すな、と厳命されていた。 「費用は?」 「こちらで払うので

SS 橋の上 【#青ブラ文学部参加作品】

「君も死ぬの?」 「そうね……」  夕闇の薄暗い橋で少女が立っている。たまに車が通るくらいで通行人はいない。橋の欄干に足をかけた少女を見つけて僕は驚いた。 「僕も死ぬんだ」 「そうなんだ……」  表情が乏しい彼女は、コミュニケーションが苦手そうに見える。 「先でいいよ」 「うん……」  そこにすっと車がライトを光らせて通り過ぎる。彼女は固まったまま動かない。 「ならぼくが先に行くよ」 「じゃあ、後から行くね……」  彼女の表情がやわらぐと普通にかわいい。もっと会

SS アメリカ製保健室 #毎週ショートショートnoteの応募用

「これがアメリカ製保健室なのか?」 「そのようですね」  陸軍の大将が敵から鹵獲した不思議な筒を見ている。それは魚雷にも見えるが、推進器は無く、ハッチがあるだけの筒でしかない。 「どうやら、安眠できるだけではなく各種ガスや薬品で治療もできるようです」 「つまりこの中で寝てると体が治るのか?」 「最新技術ですね」  内部を見ると固定する器具や回転するクランクのような装置もある。 「さすがアメリカだな、自動的に体が治るなら真似して作れ」 「はぁ……解析するまで時間がかかり

メガネ朝帰り【カバー小説参加作品】

 まだ朝日が昇りきらない薄闇を歩く、メガネを無くしたのは痛手だ。近視の私は裸眼で0.3くらいしかない。だからメガネがないと物の輪郭がぼやける。  ふと足下を何かが横切る。「野良猫」か「ドラ猫」か分からない。猫だったのかすら判らない。 「ホテルで忘れたのかな……」  飲み屋で意気投合して、その男と安ホテルに入った所までは覚えている。目が覚めた時、横で寝てる男の容姿や体型への拒絶感で逃げ出した。 「もう深酒はしない……」  何度目の誓いか忘れた。二日酔いの頭痛で意識がは

SS 恋敵 【雪化粧】 #シロクマ文芸部

 雪化粧された町は恐ろしい。 「おはよ」 「ねむい」 「聞いた?」 「聞いたよ、転校生が消えたって」 「家出かな」 「冬に?」  雪国の冬は誰もが知っている冬とは異なる。通学するだけで死にそうになる。すべてが雪でおおわれて川さえも氷結する。薄い氷の下は水が流れているが、表面はカチカチだ。 「早く都会にいきたい」 「雪ないもんね」  体に染みるような寒さは経験した事が無い人には、わからない。気分が落ち込み外に出たくない。ほっぺを真っ赤にして中学校に通う。 「やっぱり寒

月夜の晩に【カバー小説参加作品】

 リンゴ箱の板は、もう黒ずんでいる。私はそのリンゴ箱に助けられた。箱の中の赤いリンゴは供物だ。  幼い頃の夢は、現実と同じように感じていた。だから夢と現実の境目が、あいまいでもある。その夢はこんな風だった。  私が寝ていると夜なのに妙に明るい。縁側の雨戸が開いている。月明かりが、まぶしく部屋の中を照らしている。夜に雨戸を開けるわけもない。誰かが開けたのだ。 「今年のリンゴも、うまい」 「毎年リンゴばかりだと飽きるな」 「たまには人を喰うのもいいな」 「でも喰えばうるさい

SS トロンボーンの口調 #毎週ショートショートnoteの応募用

 トロンボーンの音色が、夕方の音楽教室から聞こえる。  タンタカタンタカタンタカタン  足踏みしながら行進曲を奏でる。テンポの良い曲は、演奏していて楽しい。 xxx 「まゆみ、一人で演奏しちゃだめよ」 「なんで?」 「音楽教室には出るのよ」 「お化け?」 「真夜中に音楽室のピアノが鳴るとか」 「真夜中までいないわよ」 「ベートーヴェンの肖像画が見たりするのよ」 「見られるだけなら怖くないわ」  友達の冗談だ、他愛もない話だ。そう思っていた。 xxx 「暗くなった

SS 会員制の粉雪 #毎週ショートショートnoteの応募用

「会員制の粉雪よ」 「何の会員?」 「君と僕……」  深夜の初詣に、粉雪がひらひらと舞い落ちる。自分の事を僕という口癖は昔から変わらない。シュートヘアの少女は、見る角度で男の子に女の子にも見える。 「ひさしぶりね」 「仕事がいそがしくてね」 「約束を覚えている?」  子供の頃に雪山で迷った事がある。膝の深さまである新雪は、粉雪で真っ白だった。その新雪を踏み分けて歩くのが楽しかった、いつしか風が強くなると視界が無くなる。 「ここどこ……」 「どこの子?」 「神社の近くに