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雑多なSF設定

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SF設定の小説を集めます ・ケモナーワールド ・ジェリービーンズ ・猫探偵
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#シロクマ文芸部

SS 人の居ない街【#風薫る】 #シロクマ文芸部

 風薫る だれもおらぬ 道を吹く  Λは、無機質な通路をぶらぶらと進みながら、人間に習った俳句を口ずさむ。 (今日は、きゅうりとトマトを植えるかな……)  空気が人間の体感で最適の温度と湿度を保っている。花の香りがするのはΛが花を育てているせいだ。  紫陽花、花菖蒲、薔薇、薫衣草、色とりどりの花は人工で作られた種を利用している。 (人間は何をしたかったのかな……) 「やぁΛ」 「γ、今日は動けそうかい」 「無理だね」 「部品を作ろうか?」 「このままでいいよ」

私を見て【#花吹雪】 #シロクマ文芸部

 花吹雪が地面に落ちるまで舞い続ける。美しい桃色の花びらは晴天の青い空を、赤く染め上げた。 「帰ってくるの……」 「立派な侍大将になる」  若い雑兵は、ろくに鎧もなく刀もサビだらけだ。それでも功名心が高いのか明るい笑顔で、若い娘はさみしげに彼を見送る。桜が散る頃の話。  女は待ち続けたが、ついに帰らずに桜の樹の下で眠る。気がつくと自分は桜に生まれ変わる。 (私も生まれ変わるなら、いつかきっと彼も……)  何年も何十年も何百年も待ち続ける。春になれば、豊かな桜の花びら

SS 帰還 【青写真】 #シロクマ文芸部

 青写真が、机に置かれている。 「間取り図ですか」 「かなり古いね」  図面に描かれた線は、輪郭もわからないくらいに古くかすれている。半世紀前の図面から、奇妙な隠し部屋があるとわかる。 「きっとおじいさんの遺産があるんですよ」 「隠し部屋か、ロマンだね」  親戚は興奮で騒いでいるが、弁護士の私は懐疑的だ。 (わざわざ隠す理由がない……)  遺産があるなら私に真っ先に知らされている筈だ。資産家の故人の男性は、何かの特許で財をなした。あり余るほど金はある。 「さっそ

SS 終わりの日1 台にアニバーサリー #毎週ショートショートnoteの応募用

「ありがとうみんな、さようなら」  演舞台で彼女は、ほほえんでいた。幸せそうな彼女は不幸だった。 「なんなんだ、不公平だよ」  彼女は俺の推しだ。二周年記念のステージで、難病を告白する。  演舞台にアニバーサリーステージの垂れ幕も華やかだ。みなが祝福する最高のステージになるはずだった。 「なんでだよ……」  彼女は闘病のために引退をするが、長く生きられないと判っていた。推しが死ぬ。それだけで俺は絶望する。 「どこかに神様いねえのかよ……」 「いるよ」  ふと顔をあげ

SS 明日のために【月めくり】 #シロクマ文芸部

 月めくりにそっとふれる。白い壁にかかってる月めくりは手作りだ。月めくりはもう売られていないから自分で作る。 「そろそろね」  月めくりに大きく×を書く。サインペンも尽きてきた。あと一枚めくれば世界が変わる。  昔の事を思いだしながら部屋の中をゆっくりと歩む。足が萎えて早く歩けない、学生の頃は駅の階段を駆け上がれた。 「春菜」  駅の階段を昇ると後ろから声がした、白く細い手が左右にふられる、友達の美野里の長い髪が流れるように肩にかかる。ブラシで整えられた黒くつややかな髪