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薄曇の空 第三話

    3.なんとなく雨降り

「…それは、妻ともセックスはありますが他の女の人とも〜と思って。」
「あらら〜正直なんですね。」
「だって嘘ついても仕方ないですから。」
 ミルちゃんとはそういう会話から始まった。今時ありがちな方法で知り合い、先ずは彼の車の中で話しているところだ。
「でも私貴方より十歳年上ですよ?」
「いや、それは全然大丈夫です、妻も僕の七つ上なので。…それで貴女の方はなぜ出会いを求めているのですか?」
 ああ年上女房さんか、なるほど。

 今日はどんよりとして小雨が降っており、時々車のワイパーが動いて雨水をどかしている。
「私は以前十年近く付き合っていたひとがいたのです。でも脳出血で急死したんです。死別して。」
「そうでしたか…あ、でもどうして亡くなった事を知ったのですか、不倫なのに?」
「…夫とそのひとはひょんなことから後々友達となったのです。なんか気が合って、夫の従兄弟とそのひととオトコだけで旅行行ったりとかしてました。」
「まじですか‼︎ひぇ〜っ。」
「ええ、夫の携帯に彼のお子さまから連絡がありまして…知りました。」
「そうなんですね。僕もニ人、娘と息子がいます。」
「私が外に男の人を求める理由は…結婚してニ年目に夫ががんの治療を受けたんです。初期だったので今も元気ですが、抗がん剤治療を受けたら…その、男性機能を失ってしまって。」
「それは……ご主人辛いですね。」
「夫自身は悪くないです、必要な治療だったから仕方がないのです。…でも私も生身の人間なので。」
「そうですね…そうか、貴女も辛いですよね。」
 引き続き雨がしとしと降っている。

 ミルちゃんは亡くなったハジメと比べ、ルックスも性格も違っていたが自然と惹かれあい逢瀬を重ね月日が流れていった。

「俺の思った通り、やっぱりお前には男がいるじゃないか…悔しいなぁ。」
 ハジメはその様子を覗きながら草葉の陰で唇を噛んでいた。一度七回忌の頃現世に化けて女をあの世へ誘おうと試みたが、ミルちゃんの存在に阻まれて失敗した。

「若い男よ、そりゃあデコは俺の女だからな…魅力的だろう?だが、そのうち返してもらう。」

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