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薄曇の空 第六話

     6.花冷え前の一時的に清々しい空と完全なる闇

 
  もし私に未来の見える能力があったならば絶対にがんの治療をしない決断をしてる。絶対に。
  こんなつまらない世の中に生きて…この先どうすれば良いのか分からないのに。あの時くだらない金をかけ、無駄な治療をしなければ良かった。









  世界中が闇に包まれる。


  天照大神が天岩戸に隠れた時も世界はこんな感じだったのだろうか。











  新型コロナのデルタ株の頃、知人達も次々発症した。ミルちゃんとご家族も発症した。
「…まあ娘が熱高いけど大丈夫そう、デコさんの所も感染にはくれぐれも気を付けて。…また逢えるよ。」


  オミクロン株の頃に夫と私も感染した。3回目のワクチンを接種した1週間後であった為、副反応なのか感染した症状なのか分かりづらい変な状態だった。熱は上がらず、噂に聞いた味覚障害が出たくらいだった。
 しかし、しんどいのはそこからだ。

 今まで経験した事の無い、全身を縛り付けられた状態でいきなり海に放り込まれ、光の届かない深い底に沈む様な重い疲労と憂鬱に苛まれる。そんな状態に半年程度苦しめられた。
「ああ…あれが噂のダイオウイカ、長さが十メートルもあるクラゲに大ヒトデ。深海の生物ってやたらにでっかいんだなあ…あの岩肌についてる管みたいなのは何を食してるのだろう?」
 私が生きられない世界にも生き物が住んでいる。深い深い闇の中にも尊いいのちが在る。しかし、私は。

  私の様な意味のない存在はがんを放置してさっさと死んだ方がマシだったのじゃないか?こんな…こんな真っ暗な世界で生きたかった訳じゃない。

 …ハジメは良いなぁ、これを知らずに死ねて。お前幸せだな。


「…だからあの時俺の手をとればまた一緒になれたじゃあないか?…それよりなあ、あの男のファックは俺よりイイか?俺より十五くらい若いからな。デコ、若い男の身体はそんなにイイか?教えてくれよ。」
 ハジメからそう問われている気がした。

 気付けばミルちゃんと出会ってからもう六年、逢瀬を重ねている。

 私の心身は何ともうらはらな事だ。


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