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ついに始まったのかな

ついに始まったのかな

私は痛む左脇腹を抱えながら体を丸めて、そう思った。

私の父はすい臓がんサバイバーだ。
そして、私の母はすい臓がんで亡くなった
すい臓がんはいい人がなる
とか母の知り合いからは言われたけれど私が覚えている
30代40代の母はヒステリーババアだった。
いつも怒っていた気もするし、怖かった気がする。3人目だし、ほとんど遊んでもらった記憶がない。
だから父が一緒に遊んでくれた。

でも今考えると
母はフルタイムで自分の弟の会社で働き、
三人の子供がいた
その時代はほとんどの家庭がそうだっただろうように、大体の家事を母がこなしていた。
母は19時に帰宅するので、我が家の夕飯は21時だった。
伯父の社長は母のことをあまり大切にしていなかったためストレスはすごかったと思う。
(30年位働いて退職金は100万くらいだったと思う。その上親族ということで雑務は多く、お金の管理も母がしていたんじゃないだろうか。)

そりゃヒステリーババアで当然だし、それでも日々を投げ出さずにやり遂げたことが本当にすごい。

母は母親がするだろうと思われることは全てきちんとやってくれた。
平日休みの日にはりんごのケーキも作ってくれた。
母のいる平日、玄関を開けた時の匂いはりんごのケーキの香りだ。

そんな母は私が30歳、息子が生まれて8ヶ月の時に亡くなった。
ガンと診断され母が亡くなるまでの期間はどうにもならない、どうしていいかわからない時間として過ぎていった。

母が亡くなってから、私もいつかすい臓がんになるかもしれないな
という思いから逃れられなくなった。
ちょっと痛い場所があったり、体力が低下したり、かぜっぽい症状が出たら
ついに始まったか 
と思うようになってしまった。
すい臓がんは症状が出た時にはもう状態は悪くなっている。見つかり難く沈黙の臓器と呼ばれている。

健康診断でオプションでつけるガン検査もついつい1万とか2万とか追加で払ってやってしまう。
もし検査で陽性疑い有りと出たって、そこからはその部分を切除するかとか 
切除したって今と同じ体には絶対に戻れないのだからガンでもガンじゃなくても知らない方が良いのにと本当は思っている。

今回のついに来たか・・・
は昨日午前10時半に始まった。
左脇腹が痛く、内側から棒でぐいぐい突かれるような痛みが10秒間隔でやってくる。
午後に保護者会があり、トラブって二度と会いたくない人と同じ教室に存在しなくてはならない
ということに体が反応して胃が痛くなったのだろうかと思っていた。

まあ痛いけど、何とかなるか位だったので保護者会に出席したら
耐えられる程度の吐き気が出てきた。
ここで吐いたら立ち直れないな 
帰ろう 帰ろう あと五分だけ我慢しよう を繰り返すうち何とか終了し帰宅。

とにかく調子が悪い
と夫にラインを打ちながら娘と公園
家に帰ってからは子供を放置し寝ていた。

夫が帰ってから夜間診療に行ったら
尿管結石の疑い
と言われた。
しかし検査はしたが、該当の証拠はなく
今日はとりあえず痛み止め飲んで、続くようなら日中病院へとのことだった。

帰ってからも痛み止めは全く効かず、気が遠のく痛さでこれはもう入院したいと思っていた。
調べたら膵炎とかがんとか、やっぱり出てくるので
あぁ今のうちに遺言ビデオ撮るか?と思ったりした。
がん治療が始まったら容姿は変わるだろうから、今のうちに元気なお母さんを残さねば…
などなど思っているうちに
いきなり痛みが無くなった。
さっきまで夜間診療に行った病院に電話して
めちゃくちゃ痛いんですけど放置して本当に大丈夫?とか聞いていたのに。

うーん、大丈夫そう。
とぐっすり眠った。

翌日起きても痛みはなく、やっぱり尿管結石の石が動いたってことかな?
もう元気かも。
と朝食を食べた。
夫は午前中テレワークにしてくれ、子どもの面倒を見てくれた。

迷ったけれど、やはり気になるため
朝8時から近所の総合病院へ行った。

内容を説明したら、尿管結石にしては場所が違う。
肋間神経痛じゃないかと言われた。
もうほとんど痛みがないなら、大丈夫だと思いますけど両親の件ですい臓に不安があるなら造影CT撮りましょうか。
色々分かりますよ。
と言われた。

お、よく分からない いらない検査でお金払いたくない。もうほぼ痛くないし。
けど、安心は買いたい。
私そもそも気が弱くて それいりませんって言えない。

こんな風にして初の造影CTというものを撮ることになった。

何やら血管に薬剤を入れてCTを撮るらしい。
まず、そのためには血液検査をしてその検査をしても大丈夫かを調べることになった。

はっきり言って私は注射とかダメだ。
年を取れば年を取るほどダメになってきている。
先日も歯医者で麻酔注射を直前で拒否し、舌打ちされそうな位気まずいムードになった。

注射がだめな人 
と看護婦さんにお知らせすると、それなりに対応してくれる人がほとんどで今回も横になって注射をすることになった。

右に造影CTの薬剤を入れるためのシリコン程柔らかい針を入れ、左には採血の注射。
針を入れる度にぎゅーっとなって、看護婦さんに気を使われる。

血液検査の結果を待つ間、処置室の中でおしゃべりしている看護婦さんたちが
ぎゅーっとなってたね、あははは
っと言っていた。大丈夫私は全然気にしない。年を重ねてそういうとこだけ図太くなってきた。
だったら注射位澄ました顔して打ちたいのにさ。

病院で一時間待った。
子どもがいない、やる事のない時間って最高
このままずっとここにいさせて
と思ったけど、いよいよ造影CTだ。

有村架純似の若い技師さんが
てきぱき用意していく。
私も迷惑かけないように、言われるとおりに手をあげたり息を吸ったり吐いたりした。
さぁ、血管に薬剤を入れます!
という時テストでちょっと薬剤が入った瞬間

やば、痛い。

痛がる私に看護士さんも有村架純も慌てる。
痛い?液漏れなどもないけど、え!痛い?

痛いのは変なの?うまくいってないってことなのか?
と私の不安が爆上がり。

何度か同じやりとりをしたが、
仕事のできる有村架純が
撮ります!
薬剤入って痛い時は大声で叫んでくださいと隣の操作部屋に行ってしまった。

大丈夫大丈夫
やれば終わる、がまんがまん。
あ、やば、こわい。
この先のことが全く分からない
どうしようパニック
逃げたい。無理。

すみませーん!!
怖いんですけど、どうしたらいいですか?
パニックになって涙がポロポロ流れていく。
手は上げているので、拭けない。

看護士さんも有村架純も
造影CTはじめて?こわいよね、やめてもいいんだよ
と子どもに言うように慰めてくれる。

私はとにかく涙がすぐ出るし、止められないという特徴があり しばらく泣いた。
看護師さんは手をポンポンしながら付き添ってくれた。

有村架純は薬剤を普通は30秒で入れるのですが、50秒にします。
薬剤入れる間は私達はそばにいます。
大丈夫ですよ。

と信頼できる大きな眼で話してくれた。

ちょっと落ち着いた私は大丈夫です。お願いしますと伝え再度挑戦した。
薬剤が入る時痛かったけど全然耐えられる痛さだった。
痛みに対する恐怖心が未知のもので、耐えられなくなった時すぐに助けて貰える安心感は大きかった。

終わった後はこんな簡単な事に泣いた自分が恥ずかしくて恥ずかしくて
すみませんすみませんとCT室を後にした。

また処置室で注射のぎゅー以上に笑われるかもしれないな、と思いながらぐったりした自分を感じた。

おじいさんおばあさんはものすごくナチュラルに採血とかされているけど、凄すぎる。
私にも看護士さんと世間話しながら注射される日がいつか来るのだろうか
それともずっと怖いーと反対側を向いてぎゅーっと固くなる自分でい続けるのだろうか。

検査結果は何の問題もありませんでした。
すい臓も大丈夫。昨年度コロナで健康診断を受けられなかったので、少し安心した。

でも、昨日程ではないけれどまだ痛む脇腹の原因は分からない。きっと、まだ調べた方が良いのだろう。

とにかくもう病院で痛いの怖いとか言わない人になりたい。何か方法はあるのかな。

ただ、人が苦手なことに対面した時

そういう事もあるよねって心から言うわ

と常々思っているけど今回も心底そう思った。

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