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今を変えないほうが辛かったから

2021年5月、週末にしか使わない車を手放した。1人1台、車を所有する県に住んでいるから、なぜ手放したの!とびっくりされる。不便、すごく不便だけど、その軸では考えていない。

大学2年生になったばかりの春、両親に頼んで買ってもらった車。北は山形から南は三重県へ、いろんなところへ。一度、煙を吹かれたことがあったけれど、それ以外はわたしが望んた場所どこでも連れていってくれた。

よく見かける軽自動車。走行距離10万キロぐらいだったから、ブレーキを踏むと声を上げていたちょっと古めの車。「世界一かわいい車」と名付けて、とても気に入っていた小さく丸っこい茶色のボディ。

いつからか、車を所有していることが当たり前になっていた。だいすきだったのに、とても愛していたのに。今ここにあるものを、当たり前だと思う自分が嫌だった。感謝できない自分が嫌いだった。

手放そう、と思った。車検のタイミングがちょうどそこにやってきていて。車検を通してしまったら、2年間は手放したくなくなる。実利的な思考は、内発的な意思を鈍らせる。

車検を通したばかりで、手放すのがもったいないから海外にいかない、なんて言わせない。絶対に、言わせないからねって胸の前でクロスするように誓った。

すぎてみればあっというまの4年間。レッカーに引かれていく車の顔がこちら側に向けられていて、役目は果たせたかね、と遊び心をちらつかせながら、同時に寂しそうに見えた車の目。部屋から見送ったあとに号泣した。

ほんとうに愛していた。ほんとうに愛していたものを、自分から手放すなんて、なんて自分は馬鹿なんだろうと思う。

でもそれ以上に、今の生活を続けていくことが怖かった。今の生活が変わることを願っていた。周囲を変えることで、自分も変わらざるを得ない環境に追い込んだ。

ほどなくして、4度目の退職願望が湧いた。それはとても強烈な。4度目だから、見過ごすまいと。今回こそは本気でやめなきゃいけないと。

学生のころから、思っていたこと。いつか独立して自分の名前でお仕事がしたい。明日海外にいきたいと思ったら旅立てる身でいたい。自分がもっとも関心のある分野で、得意分野で自分の価値を発揮したい。

会社員をしてみて、年数を重ねるだけじゃスキルが身につかないことを知った。行動しないと、何も変わらない。ちゃんと収入が見込める状態で独立したほうが絶対いい、けど、フリーランスに、今からなろう。そう思った。

人生を本気で変えたい。ずっと気になっていたクリエイティブなスキルが学べるスクールに、なかば勢いで申し込んだ。同時に、退職後のお金を考えはじめた。実家に戻ろうかな......って。

この家を手放せば、固定費が5万円は浮く。ipadが買える。旅行にだって行きやすくなる。お金を貯めるために実家に戻ることを検討したけど、妄想は止まらない。

でも、またどうして愛していたものを手放すんだろう。

住み慣れた1DKの部屋、26㎡くらい。出窓があって、図書館から借りていた本を立てられる。窓から緑の、まるで絵画のような色が全面に広がっていて。新緑の季節は、窓をあけて鳥の声を聞くのが癒やしの家。

この部屋で眠って、食事をして、仕事をして、ヨガをして。身軽でいたいから、あまりモノを所有してなかったけど、たくさんのコトがあった。

来客用の机と椅子がなかった初期は、友人を呼んで床ご飯をした。インドみたいなね。断食合宿も開催した。オイルを飲みすぎて夜中に悶えて倒れていたのもいい思い出。

痩せた。当時は全然食べてなかったから、より痩せた。断食、もういっかいやりたいな。今は重いから。身体も心も全部デトックスしたい。

車を手放して、クロスバイクを手にいれた。部屋を手放したら、移動を手に入れる。あわよくば旅も。海外も。

遠くへ、遠くへいけ。

手放したぶん、ちゃんと手に入れる人生を、ちゃんと歩んで。もう一度約束してほしい。

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