キョカセン雑語り 作中描写で見えてくる本作の『思想』(2話以降の言及もあります)

『境界戦機』はジャンルとしてはロボットものである筈なのだが、その実ロボットの活躍以上に作品そのものがある『思想』に基づいて描かれていることが気になった。


それは『極度の弱者贔屓』と『自分がした善行は必ず良い報いが与えられて、自分がした過ちは許してもらえる』というものである。


先に『思想』とは言ったもののそれは『ナショナリズム』とか『民族主義』という既存の枠組みをあてるには些か稚拙で練り込みが甘いものだ。『境界戦機』の中の『思想』は『社会に働きかけるものではない』ように自分には見えるからだ。

主人公の椎葉アモウは山奥で見つけたアメイン…ケンブを組み立てる為にオセアニアの支配圏で放棄されているアメインからパーツを失敬するようなことをしており、第2話では明らかに人の手が入っている畑からトマトを盗み食いするような真似におよんでいた。
しかしそのことを作中で罰を受けるような描写はなく、相手の寛大さに許される姿が描かれすらしている。
これだけではない。
アモウと共にパーツの盗難行為を行って捕まっていたグループの仲間達すら、テロリストの疑いをかけられたのを取り消されたばかりか保護観察処分というあまりに軽い処分で済んでいるのだ。
作中日本では治外法権が採用されオセアニア軍の立場が日本人よりも遥かに上であるはずなのにこの描写はあり得ないとしか言えないが、先ほど挙げた『思想』に照らし合わせれば「主人公という弱者が負い目を感じるような取り返しのつかない事態にはさせない」ということなのかもしれない。

次に主人公が身を置くレジスタンス組織『八咫烏(ヤタガラス、以後こちらで呼ぶ)』は市井に協力者がいるものの本隊は『高度な情報戦』とやらで所在を隠しながら山に籠り、経済圏の軍隊の運用する主力アメインを上回る性能のアメイン…メイレスシリーズを所持していながら自主的に日本奪回の為の行動はとらず、もっぱら気まぐれかつ受け身の姿勢をとり続けている。
ヤタガラスが活動している自由アジア貿易協商(以後自由アジア)では統治代官があからさまな悪事に手を染めているような有り様であり、これを暴き解放してみせたりすればヤタガラスの正統性をアピール出来そうなものだがそれすらしない。

こんな様子では他の日本人から愛想を尽かされそうなものであるが、そういう描写がないを見るに作り手の『思想』がリアリティーラインをねじ曲げているようにしか見えない。
「ヤタガラスは弱者を助かる為に頑張っているからそんな人達が何をしても見放されることはない」と考えていそうだ。

話の流れのリアルさを捨ててまで『思想』を形にすることを優先させているのはそれが視聴者に受け入れられると考えているからと推測するが、もしこの推測が本当ならトンでもない思い違いとしか言えない。

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