アニメ『境界戦機』の個人的な感想…もとい一期に対する愚痴 

リアルで色々ありすぎてすっかりこちらのやる気がなくなってる間に二期が始まってしまった『境界戦機』。一時期とはいえ一期の感想を長々とやってた身としてはこちらに一区切りをつけないとどうにもバツが悪いので二期を見る前にやってしまおうと思う。
一期全体の総括のような内容になり、今までの記事と重複したりはたまた違うことを言ってるかもしれないがご容赦頂きたい。

1.見ていて納得しかねるストーリー

いきなりだが、このアニメはストーリーに致命的な欠陥を抱えている。具体的に言えばご都合主義…『主役サイド』に都合が良すぎる展開が多すぎるのだ。
『主人公』ではなく『主役サイド』と言ったのは主人公である椎葉アモウよりも彼が身を置くことになる(自称)レジスタンス組織八咫烏(ヤタガラス、以後はカタカナ表記で記す)がご都合主義の恩恵を受けているからだ。

このアニメは『外国によって占領された日本を舞台に日本奪還を目指し戦う』というストーリーになっているのだが、肝心の主役サイドのヤタガラスが本編で何をしていたのかというと『基本的に山籠りしてる』『偶々見つけた難民を助ける』『武器提供者のパシりをやる』…という有り様でその目的も『日本復興』と言ったかと思えば『日本人を守る』と言い出したりイマイチハッキリしない。
ついでに言えば自分達で作戦を立てるでもなく他の依頼人や情報提供があって初めて行動する受け身体質でもある。
なので視聴者は具体的な目標もなく外部から持ち込まれた案件を適当に処理しながら行き当たりばったりで動くヤタガラスを見せられ続けることになる。

これだけでも十分に見ていてストレスを感じてしまうが、そうしたヤタガラスの体たらくが肯定的に捉えられているように描写されており更なる違和感をもたらしているのだ。
それが最も顕著に表れているのが第8話であろう。この話では戦火に巻き込まれて山に逃げてきた日本人家族をヤタガラスが助けるのだが、その日本人家族は終始ヤタガラスに対して感謝し恩義を抱いているように描写されている。
作中で組織としての活動を何一つ出来ていないヤタガラスに対してである。流石に無理があるだろうと言いたくもなる。
もし最初は何もしていないヤタガラスに懐疑的であったりしたのが実際の行動で多小なりとも態度を軟化させるとかならまだマシだったと思えなくもないが、主役サイドが全肯定されないと気が済まない人間がスタッフの中にいるのかもしれない。

2.魅力に乏しいキャラクター

話の出来が悪くてもキャラが良ければまだ見所もある…なんて甘い認識はこのアニメでは通用しない。メインキャラから敵方、モブに至るまでこのアニメの登場人物は問題を抱えているのだ。

まず主役であるはず『椎葉アモウ』だが、主人公にあるまじきというレベルで自主性が欠落しており、自分から何かすることよりも誰かしらの指図により動かされているような描写ばかりが目立つ。それでも当初は話の中心とされていたがヤタガラスに本格的に入ってからはドンドンモブキャラのような扱いを受けることに。
次にアモウと同じロボットパイロットである『手塚ガシン』だが、クールっぽいキャラ付けの裏で発言の悉くが裏目に出る、些細な所でも格好のつかない描写がされてしまうというアモウの引き立て役のようなぞんざいな扱いを受けている。
一応後半では彼が話のメインになる回もあるにはあるが、そこでもスタンスが二転三転して定まらない始末。
そんなガシンだが三人目のロボットパイロット『紫々部シオン』よりかはマシだろう。
このアニメのヒロインであるはずのシオンなのだが登場は遅く中盤からでその後もろくに描写がされないという有り様で、『設定しか用意されてない』感がバリバリなのだ。よくこの程度の扱いのキャラのフィギュア(プラモ)を出そうと思えたものだ。

そんな体たらくの主役三人の作品的な立場を余計に危うくしてるのが相棒ポジションのAIキャラ『アイレス』である。
アモウには『ガイ』、ガシンには『ケイ』、シオンには『ナユタ』という具合にアイレス達が付いているのだが、このアイレスの能力がよく見ると物凄く高く設定されているのだ。
ハッキングによる情報操作は序の口で都市インフラから個人端末にまで同時にアクセスしたり敵軍の使っている索敵システムに欺瞞情報を送ったりと何でもありのハイスペックで、これならパイロットどころかロボットも必要ないんじゃないかと頭によぎってしまう。

そんなアモウら、アイレス達もヤタガラスという組織の中ではあくまで前線で戦う(あえて悪い言い方をするなら)下っ端ポジションでしかない。
彼らの上に部隊長の『熊井ゴウケン』や組織の代表の『宇堂キリュウ』がいるのだが、彼ら含めアモウらより年上のヤタガラス隊員は危険な仕事はロボットに乗ってるアモウら任せであり自分達は比較的安全な仕事をやっている傾向があるように見えてしまっている。
単に人手の必要な所の作業をしているまでだと言われたらそれまでなのだが、後述する設定を加味するといい気分はしないというのが正直なところだ。

ならば敵役であるキャラはどうかと言われれば、こちらも誉められたものではない。
既視感の塊のような北米軍のブラッド。
比較的キャラ立ちしているが突拍子のない振る舞いが目立つユーラシア軍のアレクセイ。
露骨に格下のような描写がされておりスタッフの見下し根性が透けて見えてしまうオセアニア軍と自由アジア軍。
占領軍とは関係ないらしい一期のラスボスロボのゴースト。
どいつもこいつもどっかで見たことがあるような、見飽きた感すらあるようなキャラばかりでゲンナリさせられる。

3.要素ばかり多くて整合性の取れてない世界観、設定

「どこかで見たことがあるような」と思ってしまうのはキャラだけではなく、このアニメの設定などはモロにそうなのである。
『分割統治された(その設定を活かせてない)舞台』『(深い意味もなく)虐げられる被占領地域の住民』などはその典型例と言える。かと思えば作中描写ではコンビニが堂々と店を構えおにぎり100円セールを実施していたり、虐げられているはずの日本人が酒屋や呉服屋らしき自分の店を構えていたりと設定と齟齬があるものを散見される。

ロボット描写にしてもそうで10m近い体高のロボというのは『太陽の牙ダグラム』などで既に存在しており監督がインタビューで「ロボのサイズを小さくしてくれと言った甲斐があった」と自慢気に出来るようなものではなく、それの武装も手持ちで扱うのがメインというモビルスーツの描写と似たり寄ったり。
もっと言えばシルエットやカラーリングはガンダムシリーズはじめ既存作で見かけたようなものばかりであると目新しさに欠けている。
それなのにAIによる操作がされてるという描写からは読み取れない要素があったりするから質が悪い。

他にも複数の敵勢力が相争う情勢などこのアニメでは話に必要なものは何か考えられていないせいで、取捨選択がされないまま過剰な設定の盛り込みをして描写が追い付かずかえって画面はスカスカ、ということになってしまっているのだ。

4.ネガティブな構図に向き合わない不誠実さ

これまで話した内容でも相当なのだが、このアニメで個人的に一番許しがたいと思うのが『自分達が何を描いてるのかに無頓着としか思えないスタッフの態度』である。

というのもこのアニメにおいて日本が外国勢力により占領される切っ掛けというのが『少子化や経済政策の失敗などの問題が重なり破綻寸前に陥った』というものであり、詰まるところ日本人自身の落ち度によるものなのだが実際のストーリーではこのことを省みることなく『善玉日本と悪玉外国軍』の構図を一貫させている。
これだけでもかなり腹立たしいがそれに加えて日本が没落する前に生まれているキリュウらが日本没落の前後に生まれたアモウらをロボットに乗せて戦わせるという『上の世代が自身の失態の清算をすることなく下の世代に負債を押し付けている』という構図まで存在しており、あたかもそれが正しいものであるかのように描写されてしまっているのだ、それが全然出来てないにも関わらずである。
上記の構図のどちらか一つだけならまだよいが二つ同時な上にそうなっていることにスタッフが気付いておらず『日本解放に向けてひたむきに頑張る人達の奮闘を描く全うな物語』をやっていると信じきっている姿に対して、大袈裟に言えば自分は強い憤りを感じている。

組織や共同体の利益しか目に入らず個人を蔑ろにする全体主義的な思考への反発を自覚出来たという点では、このアニメを見たことは無益ではなかったと思いたい。

それ以前に不自然さと退屈さが耐え難い作品ではあったが。


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