天気の子を観た感想

天気の子がテレビ放映されるのを機にこの映画の感想を書く。2019年当時、「君の名は。」が良作だったからということで天気の子も映画館で視聴したのだが天気の子は個人的に映像美は別として、お話としてはそこまで好きにはなれなかったので特にリピートする気は今の所無く、したがって当時観た感想を思い出しながら書く。ネタバレを含むのと、もしかしたら記憶違いの箇所があるかもしれないのでご留意願いたい。


この作品は基本的に若干暗めで話が進んでいく。
家出した為にお金の無い主人公に対する世間の厳しい風、困窮から一度は水商売に手を出そうとしたヒロイン、ヒロインとその弟との貧しいながらも円満な生活を引き裂く行政機関、力の乱用によって消えてしまうヒロインと、前作の「君の名は。」に比べて鬱屈とした展開が続く。そしてヒロインを諦めないと雨が止まないという、世界とヒロインを天秤に掛ける事態になる。そして最終的に主人公はヒロインを取り、日本はその大半が沈没してしまう。
作品の構造としては主人公が世間(警察)からの妨害を振り切ってヒロインを取り戻すという流れだ。
視聴者としては主人公を応援すべき流れなのだろうがこの主人公に共感できない。世界よりヒロインを取ったことが気に食わないというのではない。むしろ「世界を救うとかよく分からないけど見知った仲間たちの為に戦う」なんてセリフはよく見かけるし大事な1人のために世界を敵に回す悪役は王道の1つとすら言える。共感できない理由は主人公の具体的な立ち回りににある。
最終的にヒロインを取ったのは良いとして問題はそこに殆ど葛藤が無いことだ。主人公を助けてくれたのがヒロインのみならばともかく、実際には居場所と仕事を与えてくれた男性やそこで働く従業員の女性も主人公を助けている。人数は少ないながらもそういった人達を丸ごと巻き込むのだからそれなりの葛藤はあって然るべきでは無いだろうか。また、銃を衝動的に発砲する点もいただけない。拾った銃を発砲した事をきっかけに主人公は警察に追われることになるのだがヒロインを助けたかったからとはいえ発砲が必要というほど危険な状況だったとは言えないし、警察を敵として据えるためのイベントなのが透けて見え現実に引き戻されてしまった。
主人公の家出の理由が明かされないまま話が進むため、家に帰りたく無いと駄々をこねるワガママな人物に映ることも共感のしにくさに拍車をかけている。横暴な態度や冷徹に映る対応を取る部分もあったとはいえ敵対する相手が普通に職務を全うしているだけの行政機関であればこのように視聴者としてヒロインに助かって欲しいと感じる一方で主人公に共感できず大手を振って応援する気にならないというジレンマに苛まれるのだ。

個人的にはよりキャラを活かすことができたのではないかと感じる部分もある。例えばヒロインの弟は幼いながらもモテモテで頭が良い。物語の終盤で弟は姉を探すため、主人公を助けるために警察に保護されていたのを機転と人脈を駆使して脱出するのだがその末にする活躍は警察にタックルを1度かますだけである。正直脱出で期待させた割にあっさりした出番に感じた。自分なら主人公が警察に銃を構えて威嚇したシーンで弟を登場させ、「姉の事を頼む」とでも言って主人公から銃をひったくり建物から逃亡させる。子供だから逮捕されないという狡猾さを表現しつつ、主人公に銃を撃たせないこと、警察の人手を分散させるための囮をするという役割だ。弟をより重要なキーマンとして活躍させることができる。
他には主人公に仕事と居場所を与えた男性だ。彼は最愛の妻を亡くしていた事が物語後半で明らかになる。ハッピーエンドを迎えられなかった場合の主人公とヒロインのような、男女で愛し合った先達としての側面を有していたと考えられる。てっきりそうした側面を活かした何らかの演出があると思ったのだが特に何も無かった。彼は建物屋上の社に行けばヒロインが帰ってくるなどといったオカルトは信じておらず消極的ながらも警察に協力するが、警察の対応を子供相手に乱暴だと感じたために途中から主人公側に寝返る。自分としては単に警察に憤慨したから寝返るよりも、オカルトは信じないまでも屋上の社に行けばヒロインが帰ってくると信じている主人公に対してそれで気が済むならと協力する形の方が展開として熱い。

総括すると、個人的に天気の子は映像美はいつも通り素晴らしい水準にあったが一方で脚本の面でモヤモヤが残ったり、よりよい話の展開の仕方があったのでは無いかと感じたりする作品だった。

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