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THE G•H•O•S•T

幽霊との遭遇


春の桜が咲き誇る都内の寮で、田村康(ターヤン)は新たな生活を始めた。この春、彼は会社に新卒で入社したばかりのサラリーマンだ。職種は自動車の事故防止システムの開発に携わる新米だ。若干不安ながらも新しい環境に胸を膨らませ、楽しみながら日々を過ごしていた。
ある日の夕暮れ時、仕事から疲れた彼は寮に帰宅した。部屋のドアを開けると、そこには透明な存在がぼんやりと浮かんでいた。驚いたターヤンがよく見ると、それは女性のような姿だった。
「な、なんだこれは…?」戸惑いながらも、彼はその透けた姿に向かって声をかけた。「誰かいるのか?」
すると、姿を現した女性が微笑んで彼に近づいてきた。彼女はアリサと名乗り、自分が幽霊の存在であることを告げた。
「アリサ… 幽霊?」ターヤンは戸惑いと興味を抱えていた。「なぜここにいるんですか?」
アリサはほとんどの記憶を失っていると言いながらも、自分が幽体の存在であることを理解していた。そして、なぜかこの寮に居ついている理由も分からないと言った。
「記憶を失っている…?それは大変だね」ターヤンは同情的に言葉をかけた。「でも、君はなぜここにいるのか、それが分からないのは不思議だよね。」
アリサは謎めいた微笑を浮かべてターヤンを見つめた。「でも、ここにいるのは分かるの。私は自分が幽霊であることを理解しているの。」
しばらくの間、ターヤンとアリサは不思議な共同生活を始めることになった。彼女が幽霊の存在だということを知ったものの、ターヤンは驚くべき平静さで彼女と接していた。彼はアリサのことを怖がることなく、彼女の不思議な存在を受け入れていた。
アリサは徐々に記憶を取り戻し始めた。しかし同時に、彼女の体はどんどんと薄れていくような気がした。
彼女はなんとなくターヤンに惹かれていることに気づいたが、自分が幽体の存在であるため、その気持ちに葛藤していた。自分がなぜこう感じるのか、理解できないでいた。
そして、どんどんと同棲生活が進むにつれ、アリサの心の中に芽生えた違和感が次第に大きくなっていった。彼女は自分の気持ちに整理をつけられず、戸惑いと不安が募っていく。
「なんなんだろう…この感情は…」彼女はひとりつぶやいた。
そして、思念体のアリサの心の中で、自然の摂理が彼女の存在を許さないような気がしてきた。それは、彼女が人間として生きることを望んでいるからだ。
アリサの目から涙が溢れ出た。自分の気持ちに戸惑いながらも、その涙の意味すらわからなかった。
彼女の運命や存在にまつわる謎が深まる中、彼女とターヤンの交流はどんどんと深まっていくのだった。


幽霊との日々


ターヤンとアリサは、不思議な共同生活を始めてから数日が経過していた。彼らはお互いに異なる存在であるにもかかわらず、それが当たり前のように過ごしていた。
朝の光が差し込む部屋で、ターヤンはアリサと一緒に朝食をとる。アリサはまだ幽体の存在のため、食べることはできないが、ターヤンが作った料理を一緒に楽しむことができる。
「おいしいね、ターヤン。ありがとう」アリサは微笑んでターヤンに感謝の言葉をかけた。
「いいよ、アリサ。君が喜んでくれるなら、僕も嬉しいよ」ターヤンは優しく笑顔で返答した。
朝食の後、ターヤンは会社に出勤するために家を出る。アリサは彼の帰りを楽しみにしながら、部屋でひとり時間を過ごす。
彼女は自分の記憶を取り戻すために、部屋の中を歩き回り、昔の日記を読み返したり、写真を眺めたりすることが多かった。しかし、なかなか重要なキーワードを思い出すことはできなかった。
ターヤンが帰宅すると、アリサは彼に笑顔で迎える。彼女の姿は徐々に濃くなり、透けて見えることも減ってきた。
彼らは夜になると一緒に過ごすことが多い。アリサはターヤンと一緒にテレビを見たり、おしゃべりしたりすることが好きだった。幽体の存在である彼女にとって、ターヤンとの交流が貴重な楽しみだった。
「ターヤン、何か考えごとしてるの?」アリサはターヤンが物思いにふけっているのを見つけた。
「あ、いや、なんでもないよ。ただ、会社のこととか考えていたんだ」ターヤンは笑って言い訳した。
アリサは微笑んでターヤンの手を握った。「ターヤン、ありがとう。私に会ってくれて。幽霊の私を受け入れてくれて」
「当たり前だよ、アリサ。君が幽霊だろうと、人間だろうと、君は君だし、大切な存在なんだから」ターヤンは優しく彼女の手を握り返した。
日々を共に過ごすうちに、ターヤンとアリサの距離は次第に縮まっていった。彼女はなんとなくターヤンに惹かれていることに気づいていたが、彼女自身が幽体の存在であるため、その気持ちに戸惑っていた。
しかし、二人の関係は友情以上のものに変わりつつあった。だんだんと同性生活が進んでいくにつれ、彼女の心の中に芽生えた感情がますます大きくなっていく。しかし、それがどんな気持ちなのか、アリサは理解できなかった。
彼女の内なる葛藤が募る中、次第に彼女の体はどんどんと薄れていくように感じられた。自然の摂理が彼女の存在を許さないような気がしてきた。それでも、彼女は自分の気持ちを素直に受け入れることができず、涙が溢れることがあった。
ターヤンもアリサの変化に気づき始めていたが、彼も彼女の気持ちがどんなものなのか理解することは難しかった。それでも、彼は彼女を支え、彼女の葛藤に寄り添っていく決意をしていた。


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