移住者が神社を再建するまで⑥

「”三峯山”が繋げる縁の多さ」

毎日のように狼関連のワードで検索をかけていた私は、ある時「二ホンオオカミを探す会」のブログへ流れついた。
秩父の山域で「オオカミのような動物」を見かける事例が多いという。
三峯神社奥の院へ向かう途中に出会った「白い大きな犬」が頭を過り、この体験談をメールしてみることにした。
思ったより早い返信を受けて、早速代表の方を現場へ案内することに。
奇しくも現場検証のその日は、去年私が白い大きな犬を見た日と同日であった。
目撃現場にトレイルカメラを設置し、その流れで他の現場へも同行する。
その活動を通じて暫く交流を持っていた会から数か月後、三峯神社で「フォーラム ニホンオオカミ2014」を開催する連絡がきた。
「オオカミらしきもの」の目撃を、体験談として語る発表者として私も呼ばれることになる。
季節はいつの間にか秋だった。

フォーラム当日、同じ体験をした大学の友人と狼好きの後輩と私の3人は秩父へやってきた。
西武秩父駅で合流した、車を出してくれるというKさんは「飛龍山で狼の遠吠えを聞いた」という体験者だ。
初めましての挨拶もそこそこに、4人は晩秋の三峯山を目指す。
凡そ1,000mを境に空気が変わると、そこから先では余計な事を言わないように気を付けている。
というのも、対応が苦手な職員の話をしたら翌日は初めて笑顔で接されたり、免許を取ったと言えば記念品が免許ケース、
「大学では気の合う後輩がひとりだけできる」という妄想を語れば、「狼」が縁でSNS上で仲良くなった遠方の友人が、偶然翌年には同じ大学へ入って後輩になるなど(今でも交流は続いている)
聞かれている気がしているからだ。関係者はその場に誰もいないというのに。(この時同行していた狼好きの後輩というのが、その人物である。)
そんな経験から、殊三峯では特に発言には気を付ける癖がついたが、他の社寺でも気にするようにしている。
逆に、前向きな発言は進んでするようにしているが。

社に到着すると、三峯山は大層な人出だった。
冷たい空気と階段下まで並ぶ参拝の列に、まるで初詣に来た気分だと話したのを覚えている。
年末年始に独特の、静かな熱気のようなものがこの日の空気によく似ていた。
フォーラムの会場は宿坊の旧館で、入ったのは初めてだ。三峯の宿坊には宮沢賢治も泊まったことがある。
今日の宿泊も旧館だった。
フォーラムは体験談の発表の他、動物学的見地からの考察や専門家の説明等が行われる。
休憩の合間、参加者のひとりに声をかけられた。私の発表が「動物としての狼」より「御眷属としての狼」の話に寄っていたことが気になったという。
この人が実話怪談作家の籠三蔵氏であった。
話をした当時は数年来の付き合いになると想像していなかったのだが、数々のフィールドワークを共にすることとなるこの人物が、私の苦手だった「怪談」を克服させてくれたと言えよう。(何故か知り合いに怪談関係者が増えていく)

三峯山から戻った私は、就職活動に悩んでいた。
困ったことに、普通に働くというビジョンが全くないので、何をしていいかも分からない。
図書館棟の上階から校門を見下ろしては、「現実に追いつかれないうちに伝承で燃え切ってしまいたい」等と盟友に語るばかりで、休日も山へ入ってばかりいた。現実逃避である。
勿論、親には心配され「こんな時くらい山を止めて就活をしろ」と怒られた。尤もだ。
この時よく滝行でお世話になっていた高尾山薬王院のお坊さんや、三峯神社の知り合いに相談したのだが、
「ここはいつでも待ってるから、若いうちに外を見てきた方がいい。」と全く同じ言葉を言われてしまった。
それでも山に向かった、まだ肌寒い春先だったと思う。
三峯神社のフォーラムで車を出してくれたKさんとは、登山好きということで仲良くなってその後も交流があった。
一緒に登山へ行った道中、進路に迷っていることを話した時「飛龍山へ狼を探しに行った時、仕事で同行してくれた丹波山村の若者が人手が少ないと言っていたので、何か仕事を紹介してもらえるかも。」と丹波山村を紹介してくれたのだ。
他に突き進む道も分からない私は、すぐさま丹波山村を訪れる。
人伝に役場まで繋がり、是非移住してほしいという話になったが、私はまだ「地域おこし協力隊」というものを知らなかった。
何か聞きなれない便利な制度があり、それを利用して仕事ができる。ということだけを理解して、面接を受けることに。
「雲取山のPRをしたいので、山関係をお願いしたい。」と言われて、丹波山のエリアについて調べ始めた。

なるほど、丹波山は雲取山の麓でもあるのか。埼玉県秩父市とは尾根を挟んで隣同士だ。
知らない土地に来たかと思ったが、温泉にも来たことがあったし、雲取山は何度も登っていた。

地図上の尾根を指で辿っていく。

そしてやっと気づいた 「七ツ石神社は丹波山にある」ということを。


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