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アイリッシュ・ウルフハウンドの寿命

アイリッシュ・ウルフハウンドの平均寿命は、各種の調査から6.5〜7歳くらいであることがわかっています※。オスよりもメスのほうが長生きする傾向がありますが、いろいろな犬種のなかでも平均寿命が短い部類に入ります。

この犬種の飼い主にとって、「二桁」の年齢に達することは一つの目標であり、憧れです。しかし残念ながら、10歳のお祝いをすることはなかなか適わないのが現実です。統計データでみると、10歳に達するウルフハウンドは10頭に1頭、全体の約1割。11歳、12歳と年齢が上がるにつれてその比率は急速に下がり、11歳では20頭に1頭(5%)、12歳は50頭に1頭(2%以下)になります。ウルフハウンドの最長寿記録は、Killykeen Kildevinという1972年アイルランド生まれのメスの16歳6カ月ですが、これは飛び抜けて長生きした例で、15歳、16歳に達した例は他にはないようです。14歳代まで生きた例もごくわずかです。上の写真はお出かけを楽しむ14歳の女の子ジャスミンです。元気で長生き、理想のシニアですね。

さて、どうしてウルフハウンドの寿命は短いのでしょう。体の大きさは、要因のひとつです。犬として不自然なまでに大型化したため、心肺機能や消化器、関節など、体にかかる負担がアンバランスに大きなものになっているからです。また、癌などの病気が多いために平均寿命が短くなっている面もあります。獣医療は年々進歩しているのに、ウルフハウンドの平均寿命は昔よりも短くなっていると言う人もいます。昔はなかった病気も増えています。過去30年あまり、多くのブリーダーが心臓病や骨肉腫、門脈シャントなどの遺伝性疾患を減らそうと努力を続けてきましたが、それでも平均寿命は伸びていません。

ウルフハウンドの平均寿命を伸ばすことは果たして可能なのでしょうか?

理想的な環境で、たっぷり運動し、健康なごはんを食べ、必要な医療を受け、愛情たっぷりに育てられても、それだけでは寿命を延ばすことはできません。当然ながら獣医療ができることにも限界があります。飼い主のがんばりには限界があります。犬種全体を考えた時、可能性はやはり繁殖の方針にあります。

心臓病や骨肉腫といった病気を減らす目標に向かって繁殖計画を組んでも、寿命はあまり伸びてきませんでした。しかし、寿命を縮める病気の多くが遺伝するように、どうやら「長寿」も遺伝するらしいのです。人間の場合、長生きで有名な村や地域が、世界のあちこちにみられます。その原因はライフスタイルや食文化などで説明されることが多いようですが、遺伝的素因も関与しているようです※。同じようにウルフハウンドでも、長生きで知られる血統(家系)が世界のあちことに少数ながら存在しています。

ごく一部の血統だけでなく、犬種全体の寿命を延ばすにはどうしたらよいのでしょうか。それは、個々の病気を減らそうとするのではなく、長寿という目標に沿った繁殖計画を立てることだと、気がついたブリーダーがいました※。より健全な犬はより長生きするはず。であるなら、より長生きする犬を作れば自然とより健全になる。そんな逆転の発想でした。そして実際に、その繁殖方針のもとで、数世代のうちに少しずつ確実に繁殖犬の寿命が伸びることがわかってきました。

アイリッシュ・ウルフハウンドはheartbreak houndーー魅力的な反面、病気が多く寿命が短かい、飼い主に深い傷心heartbreakを与える犬種。寿命の短さが一番の欠点。愛好家の間で、そんな風に言われることもあるウルフハウンド。しかし、寿命が短い犬種だから仕方ない、と諦めてしまうのは早計なようです。遠くない将来ふつうに「二桁」の年齢まで生きる犬種になっているかもしれない。そんな期待をもつこともできるかもしれません。それにはブリーダーの努力が鍵です。アイリッシュ・ウルフハウンドの良さはそのままに、より長生きで、より健全な犬種を目指して努力を重ねるブリーダーが増えることが望まれます。そしてそのためには、努力を惜しまないブリーダーをさまざまな形で支え、応援し、目的意識を共有するブリーダーをもっと増やすことが不可欠です。飼い主が長寿のためにできることは、自分の犬を大切に育てることだけでなく、こんなところにもあるのです。

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※ 参考:アメリカの調査(1998)、ヨーロッパの調査についてのまとめ"The State of the Irish Wolfhound"(2006)
※ 例えば、「10人に1人が100歳以上、イタリア「長寿村」の秘密 研究」2016年9月6日 AFP BB NEWS
※ 長寿を目指す繁殖は、デンマークのWolfhouse犬舎のPernile Monberg氏が提唱し、実践しています。


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