てんかんと神経系の病気

primary epilepsy

てんかんは脳の神経細胞の過剰な活動が、意識障害や全身の痙攣を伴う発作を繰り返し引き起こす神経疾患です。原発性(突発性)のものと、脳腫瘍など他の様々な病気に併発して副次的に起こるもの(症候性)があります。

原発性(突発性)てんかん
カサルらの2006年の論文によると、てんかん症状を示した796頭のウルフハウンドのうち、146頭(18.3%)が原発性でした※1。アイリッシュ・ウルフハウンドの原発性てんかんは遺伝性(常染色体劣性遺伝)であると考えられており、原因遺伝子を解明する研究が進められています。

ウルフハウンドのてんかんは、癌や心臓病ほど罹患数は多くありませんが、1990年代から増加傾向にあり注意が喚起されてきました。IWCAでは現在も長期の実態調査を継続中です※2。現状では遺伝子検査はできないため、ブリーダーは繁殖犬の血統を精査し、てんかんの発症率を低下させる責務があります。

症状
犬の原発性のてんかんで多いのは、意識がなくなり、体が硬直したり痙攣する全般発作です。発作は突然起こりますが、前兆がわかる場合もあります。発作の前兆がみられたら安全な場所に犬を誘導します。発作中は犬がケガをしたりしないよう、周囲に危ないものがあれば取り除いてください。発作中の犬は無意識のまま周囲の物を噛むこともあります。なるべく声をかけたり触ったりせずに、発作が収まるまで見守るようにします。多くの場合発作は数分で収まります。発作時の状況や様子、発作の継続時間などをメモしておくとよいでしょう。

アメリカでのウルフハウンドの調査によれば、発症例は生後6カ月から9歳までの幅広い年齢にわたり、全体の約7割が3歳頃までに最初の発作を起こしています。オスではメスの約2倍の発症率になりますが、1歳半以下の若年での発症例に限ってみると性差はありません。また、全般発作を起こしたうち約2割の犬が、短期間に何度も発作を繰り返す群発発作を起こしています。

てんかん発作を起こしたアイリッシュ・ウルフハウンドの動画。ここでは飼い主は発作の前兆に気がつき、倒れても安全な場所に誘導しています。


治療

治療は薬による発作の抑制が中心となりますが、人のてんかんに比べて薬の選択肢が少なく、治療が困難な場合が多いようです。アイリッシュ・ウルフハウンドは体の大きさもあり、重度の発作が続くと生活の質(QOL)を維持することが難しくなります。そのため、罹患犬の半数以上で安楽死が選択されています。その結果、てんかんの罹患犬の平均寿命は、犬種の平均寿命より約2年短くなるとされています。

※1  Margret L Casal, Richard M Munuve, M Anne Janis, Petra Werner, Paula S Henthorn. "Epilepsy in Irish Wolfhounds" Journal of Veterinary Internal Medicine, Jan-Feb 2006; 20(1): 131-5.
※2  Irish Wolfhound Seizure Study (Irish Wolfhound Club of America) 

〈参考〉
  The Irish Wolfhound Foundation: Seizure Information and Resources (2008)    

その他の神経系の病気

てんかんに似た症状の神経系の疾患でアイリッシュ・ウルフハウンドに起こるものには、生後すぐに発症するびっくり病(驚愕症)や、重症筋無力症があります。

びっくり病  
Startle disease

生後5〜7日で発症します。出生時の低体重のほか、筋肉のこわばり・痙攣・呼吸困難などの症状がみられます。リラックスした状態や睡眠時には症状は出ません。治療法がなく、QOLの低さから生後1カ月以内に安楽死となることが多いと言われています。ただし、成長できた場合、1歳過ぎになって症状が緩和するケースもあるようです。 

遺伝性の疾患で、アイリッシュ・ウルフハウンドの2%、50頭に1頭が遺伝子キャリアとされています。DNA検査が可能なので、繁殖前に検査をするとよいでしょう※3。

※3  DNA検査ができる機関:Laboklin(イギリス)、MyDogDNA(フィンランド) 

重症筋無力症 
Myasthenia gravis

通常は成犬になってから発症します。ウルフハウンドでの症例は多くはありませんが、若干の報告があります。発症の原因は、自己免疫異常がもっとも多くみられます。症状は、運動後の体のこわばり・震え・衰弱(休息すると回復する)です。頭部や喉の筋肉にも症状が及ぶと、ヨダレを垂らしたり、食べ物が飲み込めなくなり吐き戻すようになります(巨大食道症)。そのために誤嚥性肺炎を起こしやすくなるので注意が必要です。適切な投薬とケアをすれば予後は概して良好で、症状が消える場合こともあります。



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