骨肉腫

osteosarcoma, osteogenic sarcoma

骨肉腫は、骨に発生する腫瘍の8割を占めるとされています。平均発症年齢は7歳ですが、もっと若い犬で発症することもあります。個体差はありますが、進行するにつれて相当な激痛が起こります。きわめて攻撃性が高く転移しやすい悪性腫瘍で、診断後の平均的な余命は数ヶ月から半年前後です。

アメリカのウルフハウンドクラブの統計では、ウルフハウンドの死因の1位は悪性腫瘍で、そのなかでも骨肉腫がもっとも多く、骨肉腫は全死因の21%を占めています。アメリカ以外の国の統計でも、骨肉腫は死因の20〜30%程度と多く、ウルフハウンドでの発症率は様々な犬種のなかで最も高い部類になります。

原因

原因は不明ですが、大型犬に多発し、大きく長い骨に出やすいことから、微細な損傷が繰り返されることで細胞分裂の機会が増加し、変異を招くのではないか、と言われています。また、骨折の修復に用いられた金属や、骨髄炎なども発症率を増加させると言われています。

スコティッシュ・ディアハウンドなどいくつかの犬種では、遺伝性が確認されています。アイリッシュ・ウルフハウンドでも遺伝性があると推測されています。

症状

骨肉腫の75%は長骨、つまり四肢の骨に発生します。前肢の発生率は後肢の2倍で、前脚の手首付近と、上腕骨の肩関節側に多く発症します。後肢では大腿骨と下腿(脛骨)に多くみられます。また、少ないとはいえ頭部や肋骨、脊椎などの体軸骨格も侵されることがあります。

最初の症状は、跛行(脚をかばうこと)が多く、症状だけでは捻挫などのケガと区別することは困難です。

進行すると、癌化した骨細胞が正常な骨組織を壊しながら増殖するため、激痛を伴ないます。微細な骨折や圧迫によって足全体が腫れあがったり、巨大化してもろくなったしこりがはじけたり、時には病的に弱くなった骨がささいなことで折れてしまうこともあります。

また、非常に肺転移が多く、骨肉腫の診断がついた時点で、呼吸器症状がなくレントゲン上も問題がなかったとしても、肺にがん細胞の転移が起きていると考えられています。肺の転移巣が大きくなってくると、咳や呼吸困難などの呼吸器症状が起こります。

診断

痛みや外見的な症状、レントゲンなどで骨肉腫が疑われた場合は、患部の組織を採取して、病理検査によって診断をつけます。

治療

骨肉腫に対する治療は断脚などの外科手術と、抗癌剤を用いた化学療法がありますが、完治させることはできません。治療の中心は、がんの進行を遅らせること、そして何より、できるだけ痛みを抑制することになってきます。どのような治療がベストなのか、治療方針については、獣医師とよく話し合うことが大切です。

断脚:
検査で確認できなくても、骨肉腫の診断がついた時点でほぼ確実に肺転移は起きていると考えられます。この時点で行う断脚の目的は、がんの完治ではなく、激痛を取りのぞき、「生活の質(QOL)」を維持することにあります。十分体力のある犬であれば、断脚後回復し、3本脚で生活できるようになります。

断脚とともに抗癌剤を用いることで、体内に残った腫瘍細胞の増殖を抑え、生存期間を伸ばすことができます。しかし一般的には、断脚手術と抗癌剤治療をあわせて行っても、術後1年間生存できる割合は3〜5割程度です。

老齢などのために断脚手術に耐えるだけの体力・気力がない場合には、断脚手術はかえって生活の質を下げてしまうことも考えられます。また、断脚という負担の大きい手術を受けたあと短期間のうちに亡くなってしまう可能性もあります。犬の年齢や体力、性格など考慮し、獣医師と相談のうえでベストな治療を選択してください。

化学療法:
断脚をしない場合も、放射線治療や抗がん剤などにより、比較的犬の体への負担が少ない治療をする選択肢もあります。効果の程度はさまざまですが、うまくいけば痛みをかなり抑制し、生活の質を保ちながら数ヶ月を過ごせることもあります。しかし、骨肉腫の進行を止めることはできないため、徐々に患部の痛みが増し、鎮痛剤でも抑えられない激痛となることも多くあります。そのような場合には、安楽死を決断しなければならなくなります。飼い主にとっては非常に辛い決断になりますが、犬のことを第一に考え、獣医師と相談しながら決断してください。

放射線療法:
断脚、抗がん剤などの積極的な治療法を用いず、放射線による痛みの緩和を中心に、痛み止めなどの薬、各種のサプリメントを組み合わせる緩和療法によって、診断後比較的長くQOLを保ったまま生存できるケースもあります※。腫瘍の進行の遅さ、攻撃性の低さなどの所与の条件があることも考えられ、必ずしも効果が期待できるわけではありませんが、犬の体への負担の少ない方法として選択肢のひとつとなってきています。

ウルフハウンドのような超大型犬の場合、腫瘍の治療には多額の費用がかかります。経済的理由で治療の選択肢が狭まってしまうこともあるでしょう。いざというときに備えて準備をしておくか、あらかじめペット保険に加入することをお勧めします。

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※ そうした緩和放射線療法palliative radiation therapyが非常に効果的だった一例がこちらにまとめられています。→ Elliot's Journey  放射線治療以外に、西洋医学や東洋医学、民間療法をさまざまに組み合わせてケアをしています。診断後QOLを保ちつつ17カ月生きたケースは異例ともいえますが、この療法で診断後1年近く生存した例は複数報告されています。

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#アイリッシュ・ウルフハウンド #IWの病気

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