股関節・肘関節形成不全
股関節形成不全, Canine Hip Dysplasia, CHD, HD / 肘関節形成不全, Elbow Dysplasia, CED, ED
股関節および肘関節の形成不全は、成長期の骨が形成異常をきたす遺伝性の病気で、大型犬、超大型犬に多くみられます。股関節形成不全がレトリバーやジャーマンシェパードなど多くの犬種で問題となっていることはよく知られています。
アイリッシュ・ウルフハウンドでは、股関節形成不全よりも肘関節形成不全のほうが発症率が高くなっています。いずれも軽度の場合は気がつかないことも多いため、とくに繁殖犬では繁殖前にきちんとした検査・診断を受けることが大切です。
基本的には命に関わる病気ではありませんが、重度になるほど痛みや変形も大きくなり、犬にとって負担の大きい辛い病気です。
股関節形成不全(CHD)
股関節は、骨盤の寛骨臼(受け皿)と、それにはまり込む球状の大腿骨頭からなっています。先天的に寛骨臼のくぼみが浅かったり、骨頭と寛骨臼の間の靭帯が緩かったりすると、骨同士がぶつかって炎症が起こり、痛みを感じるようになります。これが股関節形成不全です。程度によって症状は様々です。
股関節形成不全は遺伝性疾患であることがよく知られていますが、環境にも大きく左右されることがわかっています。とくに成長期の肥満や、カルシウムの与えすぎなどには注意が必要です。
ドイツ・サイトハウンド・クラブ(DWZRV)がまとめた、1994年から1999年までの6年間の計776頭の検査結果では、股関節形成不全と診断されたのは5.4%でした。アメリカのOFAのデータでは、1974年から2014年の間に診断を受けた1917頭のうち、4.5%が形成不全と診断されています。検査を受けていない個体が多いため正確な数値ではありませんが、少なくとも5%程度以上のウルフハウンドが股関節形成不全を発症していると考えられます。
症状
股関節に痛みがあると、散歩を嫌がる、ジャンプや早足を嫌がる、走る時にうさぎ跳びになる、すぐに座り込んでしまう、といった行動が現れます。お尻を左右に振りながら歩く歩き方(モンロー・ウォークと言います)も股関節形成不全による典型的な症状です。ひどい場合には、股関節が出っ張り、また腿の筋肉も発達しないため、後ろから見たお尻のシルエットが箱型から逆三角形に見えるようになります。
診断
股関節形成不全の疑いがあれば獣医師の診察を受け、必要ならレントゲンを撮ってもらいましょう。ただし、少なくとも生後4ヶ月を過ぎないと診断をすることはできず、確実な診断ができるのは生後7~8ヶ月以降になります。
股関節形成不全の診断のためのレントゲン撮影は、通常麻酔なしでできます。かかりつけの獣医病院でレントゲン写真を撮ってもらい、JAHD(日本動物遺伝病ネットワーク)やOFA(Orthopedic Foundation for Animals、アメリカ)などの検査機関に送ると、形成不全の程度を細かく正確に診断してもらえます。
なお2006年より、JAHDの診断結果がJKCの血統書に記載できるようになりました。
原因
遺伝病ですが、それに加えて成長期の環境によって悪化することがわかっています。ある研究によれば、成長期に好きなだけ食べさせた犬と、食事の量を制限した犬では、股関節形成不全の発生率にはっきりとした差がでています。成長期の肥満が原因のひとつなのです。また、偏った食事や、過剰なカルシウム(ドッグフードにカルシウムを足すなど)といったことも原因となることがあります。
ウルフハウンドは「ゆっくり成長させることが大事」と言われます。成長期に太らせてしまうと、必要以上に急に体重が増え、股関節だけでなく関節全体を痛める原因となります。早く大きくすることより、「ゆっくり育てること」が、健康な関節をつくる第一歩となります。
予防
遺伝病であるため、仔犬を選ぶ時には、親犬や血縁の犬に股関節形成不全が発生していないことを確かめてから、健康な子犬を入手することです。
成長期に太り過ぎにならないよう注意します。生後3〜4ヵ月頃にはお腹がぽっこりふくれた赤ちゃん体型から、少年期の体型へと変わります。それ以降はどちらかというと痩せ気味の体型を維持します。成長期が終わる1歳半過ぎまで気をつけましょう。
カルシウムの摂り過ぎが骨の正常な成長を阻害することも知られています。ドッグフードは大型犬用のものを選び、カルシウムを加えたりしないようにしましょう。(手作り食の場合は、カルシウム不足になりがちなため、カルシウムの添加が必要ですが、この場合も与え過ぎには十分注意してください)
成長期の激しい運動のしすぎも関節の負担になり、症状を悪化させます。成犬の大型犬との激しい遊びなども同様です。十分な運動は必要ですが、激しい運動のしすぎ、滑りやすい床や固い床面での激しい動きなど、関節に負担となるようなことは極力避けるようにします。
股関節は、誕生時にはほとんど形がありません(関節がない)。その後成長とともに、徐々に受け皿(寛骨臼)とそこにはまり込む球(大腿骨頭)が形成されていきます。順調に成長していても、成長過程で一時的に筋肉や靭帯、骨の成長がアンバランスになることはあります。その時に負荷が大きい(体重過多や激しい運動など)、形成途中の関節に異常が生じる可能性が高くなるのです。
治療
軽症であったり痛みが少ない場合には、体重や運動量を制限して関節への負担を軽減し、ある程度進行を抑えることができます。この場合、補助的にグルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントを与えると、人間と同様に効果があることがわかっています。
痛みが強い場合や、関節の変形が重度の場合は、手術が必要になります。大型犬では股関節を人工関節に置き換える、股関節全置換術なども行われていますが、現在使用されている人工関節は超大型犬の体重には耐えられないことがあります。万一股関節に問題が出てしまったら、大学病院の整形外科や、股関節形成不全を多く扱っている専門医に相談することをお勧めします。
肘関節形成不全(CED)
肘関節形成不全は、肘突起癒合不全、内側鈎状突起癒合不全、肘の離断性骨軟骨症(OCD)の総称です。肘関節を構成する上腕骨と前腕骨(橈骨および尺骨)のいずれかの骨の成長に異常が起こることによって肘関節が正常に形成されなかったり、肘関節にOCDを発症し、炎症や痛みが起きる病気です。両前足の肘に形成不全が起きる場合と、片側だけの場合があります。
アメリカのOFAのデータによると、1974年から2014年の間にOFAで診断を受けた783頭のウルフハウンドのうち、12.6%の犬が肘関節形成不全と診断されました。発症率は114犬種中では28位で、かなり多いと言えます。
遺伝性疾患であり、今後この病気が増えないように、繁殖の際には必ず検査・診断を受けるなどの注意が必要です。
症状
跛行(脚をかばう)、歩く際に前脚の動きがおかしい(ばたつく)、肘が外側に出ている、長時間立っていられず座ったり伏せたりすることが多い、運動を嫌がる、寝ている状態から起きたときに動きがおかしい(固まる)、肘が腫れているように見えるといった症状がみられます。しかし軽度な場合には、ほとんど症状を示さないこともあります。
診断・予防
上記の股関節形成不全の場合と同様です。
治療
完全に発症前の状態に戻すことはできません。
軽症の場合や痛みが少ない場合には、体重や運動量を制限して負担を軽くすることで、ある程度進行を抑えることができます。
必要に応じて、関節の炎症を抑えるための抗炎症薬などを投与します。補助的にグルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントを使用するのも効果的でしょう。
痛みが強い場合や、関節の変形が重度の場合は、手術が必要になります。
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