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次期季節予測システムJMA/MRI-CPS3のSSTバイアス

はじめに

気象庁の季節予報に用いられる季節予測システムは、令和4年2月10日(木)にJMA/MRI-CPS2からJMA/MRI-CPS3へとシステムが更新されます。

これに伴い、6か月アンサンブル数値予報モデル再予報GPV(1.25度全球域)と、系統誤差補正に用いられるJRA-3Q長期再解析データが気象業務支援センターからオフライン提供されました。そこで今回はこれらのデータを用いて、CPS3の海面水温(SST)のバイアスの図を描いてみたのでご紹介します。

バイアス自体は平成27年度季節予報研修テキストに「実際に予測結果を予測資料として利用する際には予測された値から平均バイアスを除いて利用するため、本項の平均バイアスが予測精度に対し直接影響するものではない」とあるように、実際の季節予報業務で直接関係するものではないですが、大気海洋結合モデルの性能を見る上で重要な指標の一つです。

データの描画には注意しておりますが、誤りがあっても責任を負いかねます。また、私は気象庁関係者ではありませんし、当然ながら気象庁の公式見解ではないことを、あらかじめお断りしておきます。正式な特性の評価については、公式に問い合わせたわけではないですが、前回モデル更新時と同じであれば、来年度の季節予報研修テキストで解説がなされると思われます。

更新履歴

  • 2021年2月7日午前 初版公開

  • 2021年2月7日23時 加筆・修正

手法

  1. 再予報GPVに含まれる各初期値(1年につき24初期日が30年分)について、日別のSSTから月別のSSTを計算した後、全5メンバのアンサンブル平均を求めます。

  2. 各初期値について、予報月ごとにJRA-3Qの解析値との差をとり、平均誤差を計算します。

  3. 同じ初期日の30年分の平均誤差を平均することで、系統誤差(バイアス)を求めます。同時にモデルの予測したSSTも30年分平均し、予測の気候場も求めます。

  4. 3か月予報の運用を想定し、同じ月の2初期値を平均した10メンバー分について、翌月からの3か月平均SSTとそのバイアスを求めます。ここでは予報対象期間を4季節分、12-2月(DJF)・3-5月(MAM)・6-8月(JJA)・9-11月(SON)について示します。

結果・考察

図1-4に4季節のSSTバイアスの図を示します。平成27年度季節予報研修テキスト(以下、研修テキスト)の第1.4.1図と比較すると、基本的なSSTバイアスはCPS2と傾向は同じようです。

太平洋赤道域の中部から東部の冷舌域の低温バイアス

全ての季節について共通して言えることは、太平洋赤道域の中部から東部の冷舌域が低温バイアスになっています(いわゆるラニーニャ的なバイアス)。バイアスの大きさはCPS2と比べて同程度か、あるいは(特にDJFについて)やや悪化しているように見えます。

冷舌域に低温バイアスが見られることはCMIP5CMIP6に参加する気候モデルで典型的に見られることが知られています(例えば、Zhou et al. 2020)。CMIP5に参加した気象研のMRI-CGCM3(Yukimoto et al. 2012)にも類似した低温バイアスが見られます。なお、CMIP6に参加した後継となるMRI-ESM2.0では、バイアスが低減しているようです(Yukimoto et al. 2019)。

低温バイアスの原因としては、研修テキスト1.4.3節で言及されているように、「太平洋赤道域の西部から中部にかけての東向き風応力に負(西向き)のバイアス」があることで、赤道湧昇が強く低温になっているものと思われます。

黒潮続流域やメキシコ湾流域の低温バイアス

JJA(図3)では、黒潮続流域やメキシコ湾流域で低温バイアスになっています。CPS2(研修テキスト第1.4.1図)と比べると、バイアスは小さくなり改善しているように見えます。

このバイアスも多くの気候モデルに典型的に見られるものであり、海洋モデルの中規模渦を解像しない水平格子間隔(〜1°)から、中規模渦をある程度表現する"渦許容"の水平格子間隔(〜0.25°)へと変更することで、バイアスが緩和することが知られています(Shaffrey et al. 2009, Sakamoto et al. 2012)。今回のCPS2からCPS3の変更で、海洋モデルの水平格子間隔が1.0°x0.5-0.3°から0.25°となったことは、このバイアスの低減と整合的です。

海洋東岸の高温バイアス

また、JJA(図3)についてカリフォルニア沖、ペルー沖、ナミビア沖など海洋東岸で高温バイアスが見られます。バイアスの大きさはCPS2と同程度で、カリフォルニア沖はやや悪化しているように見えます。

これらの地域では下層に層積雲が発生しますが、モデルが層積雲を表現できず、短波が入射過剰になりSSTの高温バイアスが生じたものと考えられます。なお、CPS2ではKawai (2013)の層積雲スキームがすでに組み込まれており(JMA 2019)、CPS3では同じ層積雲スキームに改良を加えたものが用いられています(Chiba and Kawai 2021)。

南大洋の高温バイアス

DJF(図4)では、南大洋付近でSSTの顕著な高温バイアスが見られます。この高温バイアスはCPS2でも見られており、「現実と比べて過少な下層雲量に起因する過大な地表面下向き短波放射が一因」であると考えられます。

これについては、過冷却水雲の扱いを改善したことで短波放射のバイアスが改善するそうですが(Chiba and Komori 2020)、これに伴いSSTのバイアスが改善したかどうかはこの図からは判断出来ません。

図1 CPS3の12-2月の予測SST(等値線)とそのバイアス(色塗り)
図2 CPS3の3-5月の予測SST(等値線)とそのバイアス(色塗り)
図3 CPS3の6-8月の予測SST(等値線)とそのバイアス(色塗り)
図4 CPS3の9-11月の予測SST(等値線)とそのバイアス(色塗り)

まとめ

この記事では、気象庁の次期季節予測システムCPS3の再予報データを用いてSSTバイアスを描画し、季節予報研修テキストに記述されたCPS2のバイアスと比較を行いました。CPS3はCPS2と同様、熱帯太平洋の冷舌域、黒潮続流域・メキシコ湾流域、カリフォルニア沖・ペルー沖・ナミビア沖、南大洋といった領域にバイアスが見られていました。バイアスの大きさは同程度のところが多く、冷舌域ではやや悪化しましたが、黒潮続流域などで改善が見られました。

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