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【稲作農家の大規模化…カイゼン】

出典:BASF社:minorasuさまのホームページ

近年、「担い手」と呼ばれる意欲ある農家へ、水田の集約・大規模化が進んでいます。規模が大きくなれば、機械化体系の効果がでやすいはずですが、1枚の田が小さく分散している地域では、必ずしも大規模化のメリットを得られません。本記事では、最規模化の優良事例から、成功のポイントを読み解きます。

優良事例から読み解く! 借地による大規模化の成功ポイント

目次

近隣の高齢農家から、田を引き受けてほしい、と声がかかり、段々と規模が大きくなっている方が多いののではないでしょうか。

規模が大きくなればなるほど、大型農機やスマート農業の導入効果がでやすくなるはずですが、統計をみると、生産費の低減は10~15ha付近で踊り場を迎えます。

さらなる生産性の向上には経営上の戦略が必要で、この記事の後半では、minorasuのインタビュー記事から、そのカギを読み解きます。

稲作農家の農地拡大!そのメリット・デメリット

全国的に農家の高齢化によって農業の担い手が不足している状況を受け、政府は分散した農地を集約し大規模化することを推進しています。

意欲ある農家は、これをチャンスと捉え、経営規模を拡大して大規模経営にシフトする事例が見られます。この章では、農家が大規模化するメリットと課題について解説します。

農地拡大のメリット

農地拡大の最大のメリットは、機械化の効果が大きく、生産費を低減できることです。

農林水産省の統計で、10a当たりの米の生産費を作付規模別に見ると、種苗費や肥料、農薬などの費用は規模が大きくなって変りません。

規模が大きくなると、支払地代が高くなりますが、人件費、農機や設備、自動車などの償却費を始めとする固定的な費用の負担が減っていきます。大型農機をいれ、少ない工数で大きな面積の作業ができていることがうかがえます。

しかし、15ha前後で一旦、生産費低減の踊り場があることに気づくのではないでしょうか。次の項でその理由を探ります。

農地拡大の課題

大規模化による生産費低減に踊り場がある1つの理由は、農地自体が担い手に集約されても、ほ場1枚1枚の統合が進みにくいことがあります。

田植えを例にとると、規模が大きくなるほど、6条以上の田植機の保有割合が増え、1台で担える面積も非常に大きくなっています。

ところが、田の1枚当たりの平均面積は、10ha以上の区分からほぼ横ばいで、結果、田植えにかかる作業時間も、10ha~50ha未満はほぼ同じレベルになっています。ほ場区画の統合が難しい地形が多い地域では、より大規模化の効果がでにくくなります。


また、異常気象や自然災害が起きたときのリスクが大きい点にも注意が必要です。異常気象や自然災害で大きな被害に遭ったとき、経営規模が大きい分、資金面への影響は大きくなります。

早晩性の異なる品種を導入したり、複合経営で、米麦大豆以外の作物を導入するなど、経営上のリスク回避が求められます。

大規模化の優良事例から学ぶ成功のポイント

大規模化に成功した稲作農家の事例から、大規模化成功のポイントを読み解きます。

1haの米農家が農地280haの複合経営へ成長

愛知県名古屋市で大規模経営を行う「有限会社アグリ:サポート」は、もともとは1haの小規模な稲作農家でしたが、現在は280haもの広大な農地で水稲と野菜類を栽培しています。

農産事業のほか、冷凍野菜に加工する加工事業や、農作業や農地整備などを請け負うオペレーター事業など、多角的な経営を行っています。

ココがポイント!

  • 地主は「ステークホルダー」相場より高い賃借料を設定して信頼を得る

  • 付加価値が高い「減減栽培」と品種の絞り込みで利益を出す

  • 自社工場で冷凍・加工! 農産物の垂直統合にチャレンジ

アグリ:サポートは、国の減反政策が進む中、今の経営者立松さんの父親が、米だけの小規模な農業に切実な危機感を持ち、1999年に設立した会社です。設立当初から、経営規模の拡大を目指し、農地を拡げ、販路開拓や直接取引に取り組み始めました。

地主は「ステークホルダー」相場より高い賃借料を設定して信頼を得る

後継者不足で継続が困難な近隣の農地を借りて規模拡大を進めましたが、そこで大切にしたことが「地主はステークホルダー」ということです。

地主は土地改良費用や固定資産税を払うと、相場の賃料では利益でません。そこで同社では、地主の利益が出るよう、相場よりかなり高い賃借料を設定しました。

アグリ:サポートの地主を大切にする姿勢は地主の好意を育み、実際に高い賃借料は優先的に農地を借りられる状況を生みました。これが20年で1haから280haに農地を拡大できた大きなポイントです。

付加価値が高い「減減栽培」と品種の絞り込みで利益を出す

同社は、持続可能な農業が盛んにいわれるようになる前から、減農薬だけでなく化学肥料も減らす「減減栽培」に取り組んできました。

「減減栽培」のメリットは、食の安全と持続可能な社会に貢献するという付加価値で差別化を図れることですが、それだけではありません。

「減減栽培」を実現するには、必要最低限の肥料の量を見極めなければなりません。2代目にあたる立松さんは、就農前は大手自動車部品メーカーに勤務していました。培われたのはモノづくりの「ムダ・ムリを無くして改善を続ける」という在り方です。

立松さんは、ムダ・ムリを減らすために、まず、土壌・肥料と作物の相性を徹底して検証していきました。その結果を基に、品種を絞り込み、その品種ごとに本当に必要な肥料だけを計画的に購入することで、作業を効率化し、生産費低減を実現しています。

自社工場で冷凍・加工! 農産物の垂直統合にチャレンジ

設立当初から、販路開拓や実需者との直接契約に取り組んできたアグリ:サポートですが、現在は農産物ビジネスの垂直統合を根ざしています。

既に、葉菜類を冷凍・加工できる自社工場を持ち、学校給食向けに販売しています。米についても、仲卸業者に卸すのではなく、生産から炊飯、デリバリーまでを一気通貫するビジネスを計画中です。


▼インタビューの詳細は、こちらの記事をご覧ください。


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