![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141462873/rectangle_large_type_2_1b1b496273891971a10484d76a5dc78f.png?width=1200)
【オリジナル短編小説】『あなたは何をお持ちですか?』
![](https://assets.st-note.com/img/1716362300981-8H2zIJIix0.png?width=1200)
《あらすじ》
目覚めるとそこは病室で、病室を出るとカフェのカウンターが広がる異空間だった。自分は何者なのか? 自分が自分であることの証明は難しい。
ここはどこだ?
………。病室だ。夜の病室。
……なんで私はこんなところに…?
ていうか…私は誰?
何かを捜すように。
ベッドから起き上がって、病室のドアを開けると…
カフェのカウンターが目の前に広がっていた。カウンターの内側には、20代前半ぐらいの茶髪の男。ベストを着ている。マスター? いや、その前に…これは夢?
困惑している私に気づいた茶髪の男は私にこう言った。
マスター?「あなたは何をお持ちですか?」
【何も持ってない】
私の手には何もないので、とりあえずそう答えると…
マスター?「ああ、そういうことではなく…。何か得意なことや好きなこと・ものはありますか?という意味です」
自分が何者かも判らないのだ。そんなこと、判るはずがない。私は…
【ない】
と言う。
マスター?「そうですか…。“ここ”は、ご自身の得意なことや好きなこと・ものが“お代”になるのです。例えば、編み物が得意なこと・好きなことでしたら、簡単なものでいいので、作っていただいたり…好きなキャラクターの推しポイントを語っていただくのもOKです。“ここ”を出るためには、“ここ”で“飲食する必要がある”のですが…“お代”がないとは…困りましたね…」
茶髪の男は右手を顎に当てて少し考えた後、こう言った。
マスター?「それでは、しばらく僕の仕事を手伝っていただきましょう。あなたは“忘れている”ようだ。僕の横に居れば、“思い出す”かもしれません」
茶髪の男は、カウンターの内側へ、私を招く。彼の言う通りにすれば、このわけの解らない状況も解るかな? 私はカウンターの内側に入り、彼の横に立つ。
しばらくして。30代ぐらいの男性が“ここ”にやったきた。その男性も私と同じように困惑している。茶髪の男…マスターは、私に訊いたことや説明したことを、男性にも言う。
男性「ああ、それだったら、僕、料理が得意と言うか好きで、とくにサンドイッチが大好きなんですよ。サンドイッチの専門店をやっているぐらいで…。食材があればサンドイッチ作りますけど…」
マスター「食材でしたら、僕の後ろの扉の向こうにあります。キッチンもそちらに。ご自由にお使いください」
男性「いいんですか? ありがとうございます!」
マスター「では、ご注文は?」
男性「ここのサンドイッチを食べてみたいです」
マスター「かしこまりました」
男性とマスターは後ろのドアに入っていった。私は一人カウンターに立つ。手伝ってと言っていたけど、私はここに立っているだけでいいのか。
男性とマスターがそれぞれ作ったサンドイッチを持って出てきた。男性はたまごサンド。マスターはハムサンド。マスターはハムサンドを男性に。男性はたまごサンドをマスターと私に。3人でサンドイッチを頬張る。
男性「んん!! 美味しい!!」
マスター「美味しい…!! 家庭的な暖かさを感じる味ですね…」
確かに男性のたまごサンドはとても美味い。でも、なんだろう…。この見た目と味…どこかで…。
男性は笑顔で“ここ”を出ていった。
次に“ここ”へやってきたのは、小学生くらいの男の子。その子にもマスターは私に訊いたことや説明したことを言う。
男の子「だったら、俺、学校で作ったやつが、学校で賞貰ったぜ!!」
そう言って、男の子はスマホをズボンのポケットから取り出し、写真を見せた。
粘土で作ったと思われるゲームとかに出てきそうなドラゴンが写っていた。この子、器用な子だな…。
マスター「細かいところまで作り込んでいますね。すごいです」
男の子「へへ。工作得意だからな」
マスター「ですが…あなた、学校の先生や生徒や他の人にバレないところで…一人の同級生をいじめ、死に追いやりましたね」
男の子「なっ…んで…知って…」
マスターの顔から穏やかさが消え、冷たく鋭い目が男の子に向けられる。男の子は青ざめ狼狽えている。
マスター「得意なことや好きなこと・ものがあっても、誰かに迷惑をかけたり、傷つけたり、殺したり、同情などできない悪い者は、“ここ”から出られません」
男性にも女性にも見える黒いスーツの人が突然現れて、男の子を抱え、そのまま消えてしまった…。
次に“ここ”へやってきたのは……黒い影だった。性別も年齢も判らない。黒い影の人。なのに、マスターは不思議にも思わない素振りで、先程までと同じように、私に訊いたことと説明したことを言う。
影はSNSでいいねがたくさん貰えてることを自慢げに言う。
マスター「そうですね。でも…あなたの写真の撮り方…映える撮り方として、映えを意識する人皆がしている撮り方ですね。編集・加工もされているようですが、こちらも同様のことが言える。つまり、あなたらしさが無い」
映え…。
『これで映えバッチリ。いいねいっぱい』
ザザザッと頭に言葉が浮かぶ。
マスター「あなたに対してのいいねと言うよりは、写っているものがそもそも良いから…といった感じのように思います。“それだけ”なら、お店の宣伝となってよいのですが……あなた、映えのためにたくさん買って、撮るだけ撮って、食べずに捨てていますね」
『撮れたからいいや。こんなに食べれないし、いーらない』
ザザザッ。また頭に言葉が浮かぶ。
マスター「さらに。あなたは、サンドイッチ専門店でご好意で貰った試作品のサンドイッチを、自分で作ったものとしてSNSに投稿しましたね」
『これ、試作品なんだけど、よかったらこれもどうぞ。ご来店ご購入ありがとね!』
あの男性のサンドイッチに憶えがあったのは……。
『このサンドイッチ、本当にあなたが作ったものですか? 有名なサンドイッチ専門店のものと、パンの感じがそっくりなんですけど…。』
マスター「そして、嘘がバレて、あなたのSNSは炎上…。大好きないいねも貰えなくなり、逆恨みでサンドイッチ専門店に誹謗中傷の貼り紙を貼って嫌がらせをした」
マスターの横に立っていたはずの私は、いつの間にか影が立っていたところに立って、マスターと向き合っていた。
マスター「“思い出した”ようですね。では、僕のことも思い出しましたか?」
マスター「あなたが小さい頃に、親の愛を独占したくて、事故に見せかけて殺した弟ですよ」
にっこりと冷たい目で笑う彼…。
ああ…ああ…。
弟「あの男の子の顛末を見ていたあなたには、“ここ”を出られないことも、この質問をする意味も無いことも、お解りでしょうが…。あえて訊きますね」
弟「あなたは何をお持ちですか?」