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終わりは、始まりの始まり【プロローグ八戸感想】

12月5日、羽生結弦選手のワンマンショー「プロローグ八戸」をライブビューイングにて見てきましたので、その時の感想を書きたいと思います。


(※羽生選手の言葉を多く引用してます。全て自分の記憶と、CS放送の内容から拾ったものです。ネタバレしかありません)


【6分間練習~SEIMEI】


「天と地と」がBGMで流れる中での6分間練習から手に汗握る光景でした。
今回も、まるで試合のような緊張感。

「SEIMEI、ノーミスするぞ。今が一番上手いというところを証明するぞ」

という羽生選手の強い気持ちが映画館の大画面を通して伝わってくるので、自然とこちら側もノーミスを願ってしまう。
横浜初日を現地会場で見ていた時と同じく、胸の前で両手を握りしめただ祈っていました。

会場、映画館、TV前からの熱い視線が注がれる中、ここで期待通りノーミスで滑り切ってしまうのが羽生結弦。
ここぞというところで結果を出してくる。

横浜でライブビューイングやTV放送があった日はミスが出てしまったので、そのリベンジにもなったのではないでしょうか。
八戸初日、二日目も滑っていて、そこからのこの最終日の演技ということを考えると、体力的に消耗しているはずの状態であの演技は本当に凄いなと思います。
これぞ「プロフェッショナル」という姿を示してくれました。

この熱演のお陰で、映画館においても最初から大盛り上がり。
SEIMEIのステップでは手拍子が起きていました。

【Change】


中村滉己さんの三味線の演奏。
羽生選手以外の唯一の出演者。若いのにとても舞台度胸があって、堂々とした演奏は見事としか言いようがありません。

そして始まるChange。
長いハイドロ。
羽生選手のハイドロはいつもプログラムの終盤、盛り上がりのところに使われることが多いように感じますが、Changeでは序盤にハイドロの見せ場があります。ここがいつもかっこいいなと思ってしまいます。

そして、横浜で見た時よりも明らかに内容が変化していました。
振りが違うとか、そういうことではなく。
この一か月間でブラッシュアップされたのでしょうか。
ダンスの動きのキレが違っていました。

ギュッと止まるところは止まる。ジャンプはふんわり宙に浮いているよう。そういった緩急のつけ方が上手くて、目を奪われました。

しかし、動きのキレが良ければ良いほど、「こんなに序盤に飛ばして大丈夫?」と要らぬ心配をしてしまいます。

そんなことを思っていたらMCで
「僕はこんな感じの人間です。全部のプログラムで全力尽くしちゃうので」と言っていて、思わず笑ってしまいました。
分かっていても手を抜くことができない。そういうところが魅力的だし、「らしさ」を感じます。

そしてここで、ライビュ会場とTV視聴者に向けてバッチリとカメラ目線で「ありがとうございます」と言ってくれたのも、私としては嬉しかったポイントです。

【質問、リクエストコーナー】


スケートはかなり体力を使う、という話の流れから、
新村さんの「あんなにすごいSEIMEIやChange滑った後にこうやってお話してくださってありがとうございます」との言葉を受けて、
「いや、これもトレーニングなんで」と返す羽生選手に震えました。

アイスショーのこのトークですらトレーニングと捉えてるなんて!
個人的にすごく驚いた言葉です。
一流アスリートのマインドは、やはり私のような凡人には思いもつかないものですね…。
参りました。

この日のバングルリクエストは「悲愴」と「Otonal」を滑ってくれました。
悲愴は八戸の地で生まれたということもあり、羽生選手自らが滑りたいということで、特別に2曲滑ってくれました。
(公式YouTubeで募ったリクエストからは「Sing Sing Sing」も滑ってくれました。)

ここで「悲愴」を滑る前に、震災を想起させるプログラムだということを丁寧に説明した後、

「色んな思いを馳せて、本当に何でもいいんで。
別にそんな辛くもならなくていいですし。
綺麗だなって思ってもらえれば僕はそれで嬉しいんで。どうか見てやってください。」

と言ってくれて、被災者だけではなく、私のような何も被害にあってない人に向けてへの気遣いを感じました。

震災を表現する何かしらのプログラムを見る時に感情的になるのは烏滸がましいのかな、という遠慮は少なからず抱いてきました。

そんな思いの人がいることもきっと分かってくれているから、彼はこんな細やかな気遣いができるんじゃないかと思います。


「では、2011年~2012年シーズンショートプラグラム、エチュードインDシャープマイナー、悲愴です」
と、プログラムを紹介してくれた声がとても素敵でした。


【震災の映像】


震災の映像が流れる前に、羽生選手自身がマイクを取って
映像についてのお話をしてくれました。

「この映像を選んだのは僕自身です」
「自分にとっても心の傷を抉りながら、毎日苦しみながら選んだ映像たちです」
そこで震災の時の体験を静かに、少し涙をこらえながら語る羽生選手。

「それぞれが3.11という記憶を、傷を持っていると思います。
その傷を少しでも見つめなおして、たまにはあっためてあげてください。」

「傷は、痛みは、それが在ったことの証だと僕は思います。」

「これからもまたこの痛みたちと共に皆さんと前を向いて進んでいけるように」

ここまでの羽生選手の話を聞いて、涙が止まりませんでした。

あぁ、やはりプロローグ横浜で震災の映像を流した後にあった賛否両論のことを、知っているんだなと。

実際に被災された方からの批判もあったようです。

それも全部、「自分が映像を選んだ」と説明することによって、全ての責任は自分にあると言っている。

そのうえで、それでも、自分の出来る事をやっていきたい、と。

noteに書いた横浜公演の自分の感想を思い出していました。
私の感想は概ね間違ってなかった。
やっぱり、羽生選手は覚悟を持ってこの映像を流したんだ。

「傷はあの日が在ったことの証」
震災10年目によせたメッセージと同じことを羽生選手は観客の前で言っていました。

失くしたものが戻ってくる訳ではないけれど。
忘れないで、時々でいいから思い出して。その傷をあっためてあげて。
という羽生選手のメッセージが、痛い程伝わってきました。


【旧ロミジュリ~】


演技が終わった後に、右腕の一指し指を一本天に突きあげていました。
これは、伝説のニースの時の終わり方と一緒です。

「自分が一番だぞ!」とドヤってる訳ではなく、支えてくれた人たちへ感謝を込めた人差し指なんだと、彼の著書で読んだことがあります。

このジェスチャーが出るということは、自分の演技に満足しているという表れなのでしょうか。

演者が納得した演技が見られる。
観客としても、それはとても幸せなことです。

17歳の頃のロミオも若々しくてその時にしか出せない美しさがある演技でしたが、27歳のロミオはジャンプもスピンもステップも全てにおいて洗練されていて進化していました。
うっとりと見惚れてしまう時間でした。

【いつか終わる夢】



この日のライブビューイングでは羽生選手に寄った映像が多く、これはこれでとても楽しめました。
手や足の動きがどうなのか、羽生選手がどんな表情で滑っているのかがより詳しく分かりました。

プロジェクションマッピングはやはり上から見た映像の方が堪能できるなと思ったし、横浜初日の初見の感動に勝るものはなかったです。

でも、羽生選手本人が言っていたように、
上から見ても近くから見ても楽しめる、見た場所からそれぞれの楽しみ方ができる作品だなと思いました。

ライビュで見た時の印象は、

「思ったよりも感情をこめて滑っていたんだな」

です。
遠目からでは分からなかった繊細な動きひとつひとつが素晴らしかったし、ふと悩まし気な表情になったり柔和な笑みを浮かべる羽生選手の顔がよく見えることによって、この「いつか終わる夢」の多面性のある物語を味わうことができました。


もうこのプロローグで「いつか終わる夢」は終わりなのでしょうか。
もしそうならすごく寂しいです。

初めて見た時からすぐに大好きになったプログラムなので、いつかまた見たいと強く思います。


【サザンカ~春よ来い】



「春よ来い」で私の席の周りの皆さんが泣いているのがよく分かりました。
やっぱりこのプログラムには強力な癒しの力があるようです。

リンクの中央でスピンをする羽生選手から本当に風が巻き起こっているような光景が本当に素敵で、ため息が出ました。

いつか終わる夢と同じく羽生選手の表情がよく分かるカメラアングルで、とても良かったです。


【サプライズ発表】


アンコールのパリ散、「私は最強」の周回の挨拶の後、羽生選手がマイクを取りました。

こみ上げてくる涙を隠すように、爆笑する羽生選手。
その姿がかえって、見ている私の涙を誘います。

「生まれてきて幸せですし、
生きてきて幸せだなってまた改めて思いましたありがとうございました、へへへっ」

照れ隠しなのか最後の方は一気に喋る羽生選手。
もうこの辺は涙で霞んで羽生選手の姿が見えなくなってました。

関係各所全ての名前を挙げて感謝を述べるところも、羽生選手はずっと変わらないですね。
今までも、試合やショーの場でコメントを求められた時に、たくさんの関係者の名前を出してお礼を言う羽生選手を何度も見てきました。

丁寧に、全方向に気遣いができるところに、尊敬の念を覚えます。

「正直、アマチュア終わったらこんな景色二度と見られないんだろうなと思っていました。
すごい怖かったです。

(中略)
皆さんが僕なんかの演技をこうやって待ってくださって、ほんとに、これ以上ないくらい報われています」

穏やかに、でも声を震わせながら素直な気持ちを話してくれます。

そんなに自分の心を赤裸々に語ってしまっていいの?と思うくらいに、
いつも羽生選手は正直です。

でも、そんなところが彼らしさなのだろうし、
たくさんの人が魅了されてしまう所以なのでしょう。


「終わりは、始まりの始まりだと思うんで

これからまだ見ぬ本編に向かってどうぞご期待ください」

「またね」

と優しい声で仰るので、ライビュ会場からもため息が出てました。

あぁ、終わってしまったな、もう帰らなくちゃ。
次に羽生選手の姿を見られるのはいつだろう。
今度こそ砂漠期が訪れるのかな。寂しいな。

などど思いながら、
いつものように
「以上をもちまして終了します…」という
新村さんのナレーションが流れるのを待っていました。

映画館では、席を立ち始める人もチラホラ。

でも、あれ?なかなかナレーションが流れない。
現地の方たちもまだ青く灯したバングルを振っている。


…と思ったら、9歳のゆづ君の「ロシアより愛をこめて」の映像が流れ始め、
既に退場したと思っていた羽生選手がリンクの中央でビールマンスピンを披露している!

何事?と思っていると、
なにやらまた別の映像が流れ始めました。


「2023.2.26」

えっ?

「東京ドーム」

ええっ!?


「GIFT」

えええっっっ!!?



まさかの、新しいアイスショー発表。
思わず隣の友人と手を取り合ってしまいました。

映画館の皆さん、それまでお行儀よくマナーよくされてましたが、
突然の発表に驚きすぎて、悲鳴が飛び交ってました。
もちろん私も、思わず声が出てしまいました。

まさか東京ドームとは!
あの日本最高峰とも言える場所でアイスショーとは!

想像の斜め上を行く方だと常々思ってきましたが、いやはや、驚きました。


素晴らしかったプロローグ八戸の余韻もそこそこに、まず真っ先に調べたのは、2月26日の自分の予定でした(笑)。

【まとめ】


東京ドーム公演というとんでもないサプライズが来たお陰で、つい忘れそうになっていた八戸公演のラストについて。

後から思い返すととても重要なメッセージを伝えてくれていたことに気づきました。

八戸公演の終わり。サプライズ発表がある前に、羽生選手は「ロシアより愛をこめて」の9歳のゆづ君がしたように、天に向かって両手を突き上げていました。

それは「天と地と」の終わりのポーズと同じです。

9歳のゆづ君がしていたポーズをこの「プロローグ」の締めにやったことは、きっと意味があることなんだと思っています。


平昌五輪後、事あるごとに9歳の頃の自分と対話してきた羽生選手。

思うような成績が出ない時、自信の塊のようだった過去の自分を取り戻せれば完璧な羽生結弦になれる、と語っていたことがありました。

4Aのことも、「あいつが跳べと言っている」と常に意識していたように思います。

成功させるために跳び方を模索し、紆余曲折ありながらも、北京では基本に立ち返り、小さい頃やっていた時と同じフォームで9歳の自分と一緒に4Aを跳んだと言っていました。

その内なる9歳の自分と27歳の自分を、なぜショーの最後の最後に重ね合わせたのか。


私の考えですが、

9歳の自分とは夢、自信、純粋なスケートへの愛の象徴。

子どもから大人へと成長していく過程でたくさんの嬉しいことや辛いことを経験して、夢が叶わなかったり、自信喪失したり、スケートが辞めたくなる時もあった。
世の中の不条理も味わった。

でも、それが大人になるということ。


これからも、内なる9歳の自分を大切に心に秘めつつ、
まだ見ぬ未来に向かって一歩踏み出していきたい。

昔を忘れてしまうのではなくて、切り捨てるのでもなくて、
昔在った自分を大切にしながら。

そんな気持ちが、あのラストのポーズにこめられてるんじゃないでしょうか。

震災のことと一緒です。
過去があるから今があり、未来がある。
痛みも全て昔在ったことの証。

羽生選手は自分のスケート人生を語りつつ、このことを私たちに訴えたかったのではないか?


全て私の勝手な想像に過ぎません。
羽生選手の意図は、まったく違うものだったかもしれません。

でもこれが、私がプロローグを見て感じたことです。


私が行ったライビュ会場では、手拍子したり拍手したり皆さんとても盛り上がっていました。
平日だというのに満席の会場で、全員が羽生選手のスケートを見て喜んでいました。

皆で羽生選手の過去を振り返り、笑ったり涙したりしながら、本人のスケートも交えて、新プロまで見せてもらえて、共に喜び合う。

本当に楽しくて、かけがえのない時間でした。

心にいつまでも残るアイスショー。
だからいつまでも続いてほしいと願ってしまうけれど。

「プロローグを、終わりにします」
とご本人からの終結宣言が出ていたので、後ろ髪を引かれつつも、私も共に前を向こうと思います。



これからは物語の本編。

羽生選手が言っていた通り、
「終わりは、始まりの始まり」。

「プロローグ」の終わりは、
「GIFT」の始まりの始まりでした。


もうプロローグでたくさん贈り物をしてもらいましたが、
羽生選手がせっかく
「どうかどうか、贈り物を受け取りに来てください」
と言ってくれたので。

全力で受け取りに行きたいと思います。
チケット争奪戦に勝たなければなりませんが…。


東京ドームいっぱいに埋まった観客を見て、

羽生選手がまた「幸せ」を感じてくれると、いいですね。

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