プロローグ感想⑨【夢見る憧憬~いつか終わる夢】

ソチ五輪で金メダルを取り、4回転ループを世界で初めて成功させ、そして平昌五輪で二連覇をした映像などが流れました。

羽生結弦の栄光の数々。
飛ぶ鳥落とす絶対王者。

震災を経て、周囲の期待に応えることで皆を笑顔にできると知った青年は、ついにスケート界の頂点と言える場所まで辿り着きました。

ここで、映像で振り返ってきた時間旅行が、プロローグ冒頭のところまで追いつきます。

一度頂点に達した羽生選手が、これからどんな道を辿っていくのか…。


羽生結弦公式youtubeチャンネルで先行公開されていた、「夢見る憧憬」が映像で流れます。

優しくセンチメンタルな音楽にのせて滑る羽生選手。
リンクの上の氷をかき集めて強く握りしめる羽生選手の表情はとても幼く、まるで少年の頃に戻ったかのようです。

握った氷は「夢」の象徴だと私は思いました。
その「夢」は羽生選手の手の中から零れ落ちていきます。

「夢」を追いかけて滑る羽生選手。
高難度ジャンプやY字バランスなどを織り交ぜながら、華麗な演技を魅せてくれます。

途中から白いマントを羽織り、先程リンクの上に落ちていった「夢」が再び羽生選手の手の中に戻ります。
やがて輝き出した「夢」を、天へと放ちました。


映像が終わると、「夢見る憧憬」と同じマントを羽織った羽生選手が、観客の前に姿を現しました。
そこで初めて、「夢見る憧憬」とこれから始まる演技は繋がっている作品なんだと分かりました。

マントをはためかせながら羽生選手がリンク中央に立つと、その音楽が鳴り出しました。

曲は、「いつか終わる夢」。

植松信夫さん作曲、FF10のゲーム音楽です。

最初分からなかったのですが、FF10の曲だと気づいた途端にゾワゾワと鳥肌が立ちました。

FFシリーズのゲーム音楽は昔からとても好きで、今でもよく聴いています。
もちろんFF10もプレイして、クリア済み。名作でした。
でもまさか、FF10の曲で羽生選手が滑ってくれるだなんて!


プロジェクションマッピングを使った新プロ「いつか終わる夢」…


なんというか、あまりに私好みの作品すぎて、この気持ちをうまく書ききれるか自信がありません。

まず、衣装。新衣装です。
青ともつかず水色ともつかず。紫色っぽくもある。
青系ではありますが複雑な色をしています。
澄んだ海の色?
それと、これは私がFF10をプレイしたことがあるから思うのかもしれませんが、ゲームの主人公ティーダの装備品である剣の色にも似てる、と思いました。(フラタニティという名前の剣です)
衣装の袖口や後ろの丈が長くて、天女の衣のようにも見えました。

そして、プロジェクションマッピング。本当に見事でした。
リンクの上が水中になったり、氷樹に囲まれた雪原になったり。幾何学模様が出てきたり。
変幻自在の世界の中で、羽生選手の動きに合わせて光が舞い、風が起こります。


幻想的な光景に、私はすっかり心を奪われてしまいました。

上の階から見たリンクは、ひとつの生き物のように躍動し、羽生選手はその中で舞う精霊みたいでした。
「精霊」という言葉が合っているか分かりませんが…
そのくらい、神秘的なオーラを纏っていたのです。

そう、先程の赤黒衣装の「Change」や「レツクレ」を滑っていた人とは、まるで別の存在でした。


何の違和感もなかったけど、演技の中でジャンプが一つもなかった。
シングルスケーターの演技としては珍しいのではないでしょうか。

後のインタビューで知った事ですが、クールダウンの動きを演技に取り入れていたそうですね。
クールダウンまで芸術的な羽生選手だからこそ、生まれたプログラムなんだと思います。
氷の上とはとても思えない、滑らかな羽生選手のスケーティングを存分に味わうことができました。

特に圧巻だったのは、羽生選手が片足だけでスーッと一直線にリンクを横切るところです。
人型の光がリンクに映し出され、その中をふらつきもせず片足で滑っていく羽生選手。
一蹴りだけであんな距離を滑れるものでしょうか…。凄すぎる。


「いつか終わる夢」、非常に植松信夫さんらしい曲です。
美しく切ない主旋律に、「コーン」「コーン」と時折効果音が入ります。
ここが「らしい」部分だと私は思っています。
植松信夫さんのゲーム音楽には、曲の世界観を表す効果音がよく入ります。そこが魅力の一つでもあります。

この「コーン」に羽生選手の完璧な音ハメの振りがつく。
よく見ると羽生選手の手も足元も全て、鳴っている音全てに合わせている。

羽生選手がこの曲をよく聴きこんでいて、大事に滑っているということが伝わってきました。
植松信夫さんの曲のファンだった私としては、そういうところも感動ポイントでした。

もともと好きで聴いていた曲を羽生選手が作品として滑ってくれるだなんて…。
驚きと感激が一気に押し寄せる、極上の時間でした。


ゲーム音楽の特徴は、エンドレスなことです。
そのシーンごとにエンドレスで流れ続けるBGMとして構築され、作曲されているからです。

だからこの「いつか終わる夢」も、このまま無限にループして、
羽生選手の滑りをずっと見ていたい。
終わらないでほしい。

割と真剣にそう思っていました。

だから、曲が段々小さくなっていく形で鳴り止んだ時、私は立ち上がることも忘れて、拍手もやっとの状態でした。
夢から覚めていない、覚めたくない状態。


人間て、感動しすぎると拍手することもできないんですね。
何かに縛られたように身体が動かなかったです。

そんな状態の中、はっきりと、「私はこの作品が大好きだ」と思いました。心の中で断言してました。

その気持ちは今でも変わりません。
多分、このプロローグで披露されたプログラムの中で、一番、好きです。

続きます。


「夢見る憧憬」と「いつか終わる夢」についてはまだまだ書き足りないことでいっぱいなのですが、とても長くなりそうな予感がするので、別記事にて書きたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?