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羽生結弦選手単独東京ドーム公演「GIFT」感想⑧【SEIMEI~水平線】

SEIMEI

春ちゃんが去った後のリンクに響き渡ったのは、
あの空を裂くような笛の音。
ドン!と重低音を鳴らす打楽器。
会場中が大きな歓声に包まれました。
「SEIMEI」です。

生演奏、最高でした。
以前あった「羽生結弦コンサート」をまた思い出しました。
羽生結弦コンサートで一番感動したのがSEIMEIだったんです。
打楽器の調べが大好きで。
身体に伝わってくる振動を感じられるのが最高です。
打楽器まで生演奏じゃなかったかもしれませんが、
今回のドームは音響が良かったので、音の響きを十分に感じることができました。
私はあのリズムで、ロックを聴いているかのように身体を動かしたくなってしまいます。
そんな風にしてSEIMEIを聴いている人はいないので我慢しましたが…笑。
SEIMEIの音楽にノッてしまいたくなるんですよね。

音に合わせて照明が光るところがとてもかっこよくて。
それを楽しんでいたら、スクリーンに今回のGIFTのメイキングシーンのような映像が流れだしました。

音楽や照明だけでも満足だというのに。
これ以上観客を楽しませてどうする?どこを見ればいい?どこに集中すればいい?
という嬉しい悲鳴があがりそうでした。

このメイキングシーンで一番気になったのは、
「阿修羅ちゃん」の衣装を着て陸上でダンスをしている羽生選手の姿です。
セットされてないサラサラな髪のままでリハーサルをしている羽生選手がとてもかっこよかったです。
いつかどこかで全貌を見られる日が来るんでしょうか…。


一番盛り上がるところ、SEIMEIのステップシークエンスの所で羽生選手本人が登場しました。

平昌五輪で金メダルを取った時の衣装です。
ピョン堕ちにはたまらない演出です。

そういえば、バラ1も平昌の時の衣装でした。
平昌の時のSPとFS、両方揃って見せてもらえたということになります。
本当に貴重な姿を見せてもらえたんだなと思います。


SEIMEIのステップシークエンスといえば、平昌五輪の時、自分に勝てたという喜びのあまり笑いながら滑ったという話を聞いたことがあります。

このまま滑りきれば金メダルに確実に近づける、という、栄光へのステップ。

いつも、プログラムの中の主人公になりきって演じるのに、その時だけは「羽生結弦」に戻って滑った、と聞きました。

GIFTで見たSEIMEIも、思いきり「羽生結弦」として滑っていたように私には見えました。
たくさんの観客に見守られながら、大好きなスケートを滑る喜びで溢れていたように思いました。

上から見ていて、SEIMEIの存在感をものすごく感じました。
広く大きなリンクの中を縦横無尽に動き回り、感情のままにスケートを滑る羽生選手。
しかもプログラムはあの「伝説の」SEIMEIです。
皆が見たい、皆が大好きなプログラムです。
観客の盛り上がりは最高潮に達していたと思います。

曲が終わった瞬間、私は立ち上がりました。
ほぼ全員がスタオベしていたと思います。
拍手喝采、大興奮。
フラッグを一心に振って、皆口々に
「ありがとう!」と叫んでいました。

と、ここでまた皆の涙腺を崩壊させる曲がかかります。
Back Numberの「水平線」です。

水平線

これも、「僕のこと」と同様でShare Practiceで羽生選手が流していた曲です。
もうファンの中ではすっかりおなじみの曲です。
某TV局が、アマチュア時代の羽生選手を紹介する際にこの曲をBGMとして使用していました。
もう彼のテーマソングみたいな扱いです。

そんな「水平線」をGIFTの最後の最後に持ってくるあたり、よっぽどこの曲を大切に思っているのでしょうね。

羽生選手が歌っているのが見えたので、私も一緒になって歌ってました。
またここで、過去に行ったことのあるロックバンドのライブのことを思い出していました。
確かそのロックバンドのエンディングも、皆で大合唱しながら別れを惜しむとうのがお決まりでした。

まさか羽生選手のアイスショーで、こんな終わり方を体験できるとは…。
ロックバンドのライブと大差ない楽しみ方ができるとは、思っていなかったです。

オーケストラの皆さんやMIKIKO先生にお礼を述べた後、
羽生選手の話し方に、徐々に感情がのってくるのが分かりました。
GIFTを作るにあたりたくさん辛いことがあったこと、報われないと思った不安な気持ちを赤裸々に吐露していきます。

「誰の心に残らないことも
目に焼き付くことのない日々も…」

うつむいた羽生選手は、しっかりと顔を上げて、叫びました。

「でもやっぱスケート好きでよかったです!」


ぐんぐんとスピードをあげて、「水平線」を舞う羽生選手。

スケートへの真っすぐな愛が、
強く強く、伝わってきました。

ドームの2階席にいた私の元まで。
最後列の方にまで。
ライビュ会場や、配信を見ている人々の元まで…。

一時は嫌いになってしまいそうになったと語っていたスケートへの気持ちが、
ここまで戻ってきてくれて、本当に良かったなと思いました。
ファンにとっては、彼が幸せそうに滑ってくれていたら、それで良いのです。

推しの幸せはファンの幸せですから。

幸せそうに滑る彼の姿、それこそが、この日たくさん受け取った彼からの贈り物のひとつでした。


「ちょっとだけ静かにしてくださいね」
と茶目っ気たっぷりに、3万5千人をいとも簡単に黙らせた羽生選手、
マイクをはずして
「ありがとうございました!!!」と
ドーム中に響き渡る声で、叫んでくれました。

マイクを通さないその声は、確かに私の鼓膜にも届きました。


それに対して、私たちも
「ありがとうー!!!」
と、その日最大級の熱と音量で返しました。

羽生選手は深々とお辞儀し、去っていきました。

武部さん作曲の「GIFT」が再び流れ出し、
新村さんの、ショーの終わりを告げるアナウンスが入りました。


終わった後、全身の力が抜けたようになって、なかなか立ち上がれなかったことを思い出します。

さっきまでそこに羽生選手がいたのに、今はもういない。

夢の国へと帰ってしまった。

GIFTの世界に浸かりすぎて、心が空っぽになっていました。

徐々に意識が現実に戻ってきた私は、まだぼんやりとしながら思いました。

「ああこれが、私にとっての終わりであり、始まりだ」と。

羽生選手が私たちの前に現れてくれるその日を指折り数えながら
現実の日々を生きる日々が始まった、と思いました。

夢はいつか覚めないといけない。
夢はいつか終わらないといけない。
永遠のものなんて、ないのだから。


その時の私はまだ、羽生選手からの大きすぎる贈り物たちに気づくことはできず、
ただただ茫然となって家路に着いたことを思い出します。


夢の終わりの家路とは寂しいものです。
しかし、友人が隣にいてくれたので、ずっとGIFTについて話しながら帰宅できたのは本当にありがたかった。
同じ思いを同じ熱量で語り合える友人の存在に救われました。

友人と別れて最寄り駅に着く頃には、確かに
「また明日からも頑張ろう」と思いました。

また次に羽生選手のスケートを見られるその日まで、頑張っていこうと。

夢の時間は長くは続かないけれど、
その一瞬の大切な時間のために、いくらでも現実を耐えられる。
羽生選手からの次の贈り物を心待ちにして。

大丈夫、大丈夫。

私には、「GIFT」という最高のひと刻の記憶があるのですから。



もう少しだけ続きます。

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