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羽生結弦選手単独東京ドーム公演「GIFT」感想②【ホプレガ~バラ1】

Hope & Legacy



羽生選手の独白のような物語が続きます。

「夢」をみつけた「僕」は、「太陽」に憧れます。
「太陽」はその力で草や花や人々に力を分け与えられるからです。

一方で「月」は、よく見ると傷だらけなことに気づきます。
でも「月」は言うのです。
「これが僕だから」と。


「火の鳥」でモーゼの十戒のように真ん中が割れた舞台装置は、リンクと大型ビジョンを繋ぐような役割を持っているようでした。
スケートボードで滑る台のような傾斜が付いているその装置が、リンクとスクリーンの間にあることによって、リンクの端からスクリーンの端まで一続きに長くなり、奥行きも高さも出ます。
足元のリンク上に映し出された月が段々と上に昇っていき、舞台装置を経由してスクリーン上の高いところまで昇っていくという表現ができるのです。
なんというスケールの大きさだろう。

プロローグでリンク上のプロジェクションマッピングの凄さを体験しましたが、ドームの舞台表現は更に進化しています。
羽生選手の足元だけでなく背景まで映像で表現しているところが凄いと思いました。

ホープアンドレガシーの音楽が流れました。
先程スクリーンに昇ってきた大きな大きな「月」をバックに、ホプレガの衣装を身にまとった羽生選手がリンクの上で滑り始めました。

映像は色んな風景を映し出します。
その傷たちさえ美しく見える「月」。
水平線から立ち昇ってくる「太陽」。
数々の美しい自然の風景。
星空のようにも、蛍のようにも見えるたくさんの光。

ホプレガの世界観そのままの景色を背景に滑る羽生選手のスケートの美しさといったら、この世のものとは思えませんでした。

本当に大自然の中で滑っているよう。

こんな表現があるんだ。
そうか、アイスショーで今まで足りなかったものは「背景」なんだ。と思いました。

リンク上での映像のみならず、背景にも表現を入れることによって、より深みを増す芸術。

こんな世界があるんだ…、と
初めて見る舞台に、心が奪われっぱなしでした。

大自然の中でホプレガを舞ってほしい、と思っていたけど、
現実的には無理な話だと思います。
天然の氷は危なそうだし…。

けど、こうやって、人が造った技術で、実現不可能なことでも可能にできるんだと。
人間の力ってすごい。
本当にすごい…。


また再び背景に「月」が映し出されて、ホプレガが静かに終わりました。

あの夏へ



スクリーン中央に羽生選手の加工されたアップの顔が映し出されました。
目を閉じた羽生選手。
物語の中で何か悲しいことが起こってしまい、大切なものが周りから無くなってしまったと語る「僕」。

羽生選手から涙がこぼれ落ちました。

その涙が羽生選手の頬を伝い、そのままリンクへと落ちるという映像表現に感心して、思わず唸ってしまいました。

リンクに涙が落ちる。
羽生選手は、人知れず練習中にリンクで泣いたことがあったかもしれません。
羽生選手の体験を反映したかどうかは不明ですが、「リンクに涙が落ちる」という表現は、より切なさ、苦しさが観客に伝わったのではないかと思います。


苦悩の言葉が紡がれます。
この苦悩している声の表現が流石すぎて、開いた口が塞がりませんでした。

恐怖、戸惑い、怯え、焦り…色んな負の感情が、羽生選手の少し掠れたような声によって伝わります。
やっぱり声優もできるんじゃないかな?と現地でも思っていました。


そこへ、空から光が差し、「僕」の大切なものを照らしてくれました。

白いフードを被ったダンサーの方々がリンクの周りにあるミニステージにいつの間にか立っています。
このGIFTでは羽生選手一人で全て演じるのかと思っていたので、大人数のダンサーさんの存在に気づいた時は驚きました。


ここで曲がかかり、新プログラムのお披露目です。

私は現地では気づくことができませんでしたが、曲は「千と千尋の神隠し」の「あの夏へ」という曲だったということです。

ピアノのみのシンプルな曲と共に現れた羽生選手。
白く長い裾が腰にたくさんついている衣装で、見るのは初めてでした。

衣装の綺麗さに目を奪われました。
羽生選手の身のこなしに合わせてヒラヒラなびく衣装が美しかったです。

そして、周りのダンサーも一糸乱れぬ動作でリンクに華を添えています。
真上から見ているので全体を見ることが出来ているのですが、なにせ見どころがありすぎて。
リンク上の羽生選手は絶対見たいし、ダンサーの動きも見たいし、映像も見たいし…と、目が二つでは足りませんでした。

青白い光で埋め尽くされた舞台。
清らかな白の力に、心が洗われるような時間でした。


バラード第一番



大切なものを取り戻した「僕」は、なにかに励まされながら向かい風を進んでいきます。
少し心が強くなったのか、その歩みは力強いようです。

励ましてくれるのは、「風」。
「風」に導かれ、「僕」が困難に立ち向かっていく様子が語られます。

「風」が霧を晴らしてくれて、無数の光の粒が何かを形作っていきます。
ダーン、とピアノの重厚な音が鳴り響きました。
その音だけで分かりました。
バラード第一番です。

光の粒たちがバラ1の衣装を身にまとった羽生選手の姿になった時、観客から「おおーっ!」と歓声があがりました。

スクリーンの中の羽生選手が舞い始めます。
しばらくするとまた舞台装置が動いて本物の羽生選手がリンクに登場し、バラ1を滑ってくれました。

バラ1を生で見るのは初めてでした。
ピアノの旋律にピタリと合う動き、手指のしなやかさ…
テレビで何百回と見た演技だけど、現地で肉眼で見られる喜びはやはり格別です。

そう。これが、これが見たかったの。

スピン、ステップのスピード感、ジャンプの着氷音、スケーティングの氷の削れる音まで全て音楽と一つになった羽生選手のスケートが、リンクから遠い私の席にもダイレクトに伝わってきます。

たとえそこが小さな会場であっても、ドームのような広い会場であっても、彼が滑ればどこでも羽生選手の世界を作れるのだと思いました。

羽生選手が目の前に(実際はかなりの距離があるけれど)存在して、息をして、スケートを滑っているという現実。
その現実を肌で感じる場の空気。
特別であり、現地でしか味わえないものであり、一瞬で消える儚いもの。

その空気の記憶を失くしたくないのですが、
この記事を書いている今現在はもうその空気は失われているし(当たり前ですが)、私の記憶から徐々に消えていっている。

ほんの1秒でもいいから長く記憶にとどめておきたくて、覚えているうちに必死になって拾い集めてここに書いています。

平昌のSPでバラ1を滑り終えた時の顔がとても好きです。
完璧に演じた後の満足な表情、「やってやったぞ!」という自信満々なドヤ顔。

そして、このGIFTバラ1のフィニッシュポーズの顔と平昌の時の顔が、私には重なって見えました。
王子様のように品よく滑るのに、終わった後は激しい(?)表情をしていて、その顔のギャップが大好きなのです。

それにしても、ここまでノーミスの演技が続いているけど、考えてみたら既に4曲も滑っている。

あまりに自然な流れすぎて現地では気が付かなかったけど、疲れた顔もせず観客を心配させないように演技するって、どれだけ大変なことだろう…。


続きます。



【参考記事】

(↑※こちら、参考にさせていただきましたが、載っている曲順が間違っています。
正しくは2曲目ホープアンドレガシー、3曲目あの夏へです。)

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