万引きしてる大学生を見た

今日大学の書店で、たまたまなんだけど男子大学生が教科書を万引きしてるのを見た。
こういう経験は初めてで、もし自分がそういうのに出くわしたら正義感のままに『この人、万引きしてました‼️』と声を張り上げられるもんだと思っていたけど、それができなかった。
今後は正しい気持ちのまま生きようという自戒の気持ちと、人に話したい気持ちと、
あといつか自分がめちゃくちゃ有名になって、自分の文章を読んでくれるひとが増えて、その万引きした子の目にとまってほしいという願い(厳しい)でこの文章を書いています。

大学はテスト期間に染まっている。
学内のいたるところで勉強をしている学生がいる。『カンニング禁止』の文字もいたるところで見られる。
誰かにとって留年の危機で、誰かにとって卒業がかかってて、すでに諦めてる人を除いたらみんなにとって大事な時期だとわかる。

私が本屋で見つけた男の子は、ある単行本が重ねられた、店の一角にいた。
それは某教授の著書だった。その教授の授業は『楽単』として有名で、わたしも何回か授業を受けたから知っていた。言い換えればナメられている人だった。
テストさえ出れば単位がもらえる、しかも教科書を持ち込むことができる。逆に言えば、教科書で調べないと単位はとれない。(内容がコアすぎるのと、みんな授業をサボってるから)
首から斜めにかけたポシェットのファスナーを開けた彼は、手にとった一冊をポシェットの中に入れてファスナーを閉めた。万引きだと一目見て感じたけど、店を出るまで断定はできないので何もできなかった。
彼は急ぎ足で店を出て目の前の校舎に走って行った。わたしは追いかけることも声をかけることも出来なかった。

そのことが頭を離れなくて、わたしは何時間かたってからまたその書店に行った。
アルバイトのお姉さんではなく、見るからに責任者っぽい、やさしそうなおじさんに声をかけて、自分が万引きを目撃したことを話した。
本当は自分が見た情報や、監視カメラついてるなら見たほうがいいですよ、盗難防止のブザー鳴るやつ入り口につけたほうがいいですよ、うちの大学カンニング厳しいし万引きなんてもっとまずいですから、など言うつもりだった。でも店員のおじさんはわたしの『万引きを見たんですけど、、』の一言にそれはそれは悲しそうな顔をして、それを見たわたしは次に何を言ったら良いのかわからなくなった。自分が愛着とか誇りをもって働いてる店でそんなこと起こったらそりゃ悲しいよな。

悲しむ人を見ていろいろ想像して自分まで悲しくなる、というのは私自身の昔からの性格で、悲しんでも仕方ないのでここまでにするけど、
とはいえおじさんの対応はすごく丁寧だった。
名刺をくれて、上に報告することや、今後の再発防止のために学生に『いらっしゃいませ』と声がけしたりすることを約束してくれた。そして、あなたが直接注意できなかったことを責めないでくださいとも言ってくれた。
つくづく大学生というのは、学ぶ環境も、そのための大人も、与えられてばかりの立場なんだなと思った。

多分、男の子が万引きしたのは1000円弱くらいの本で、大学生は1時間くらいはバイトをしないとこの額は稼げない。
男の子はめちゃくちゃ家が貧しくて頑張ってやりくりしてるのかもしれないし、たった1時間のテストのためだけに本を一冊買うというのは無駄と思ってるのかもしれない。
とはいえ万引きは犯罪だし、もしそれがばれたら1時間働く以上のことが禊として必要とされるだろうし、それはバカなことだと思う。それを伝えられる大人になりたい。

散々言ったけど、自分もゆーて正しく大学生でいられたわけでは全くない。今日のことは自分を省みるいい機会にはなった。万引きを見て自分はなんもできなくて嫌な一日だったけど、将来的にはプラスになる何かが身についてたらいいなと思う。

もうすぐ季節が変わる。私にも、万引きをしていた子にも、本屋の優しいおじさんにも平等に春が来る。
頑張った人が報われる世の中ではないし、そもそも頑張らなくて良いとは思うけど、自分は少なくとも、誰かの頑張りとか優しさとかに気付ける人間になりたいと思った。

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