推していたアイドルがAV女優になったことを、ラブホで実感した

高校時代にmixiで繋がった友達と、こうして朝まで飲み歩いたのは久しぶりだった。

友達はお好み焼きを焼くのが上手い。ひっくり返すのを失敗したためしがない。
こうしてみるとお好み焼きというのは、終電で帰ったときに最寄り駅のホームに落ちている『アレ』そのものである。(ごめんなさい)

お好み焼きを食べた後の私たちは臭い。でも、わざわざ気にすることではない。

酒を飲もうとハシゴした。
どの店に入っても、店員には服装のこと(この日はPUNYUSの目玉焼きパーカーを着ていた)や、私たち二人がどうやって知り合ったかなど、同じことばかり聞かれるけど、私は楽しい。

お酒を飲むにあたり大事なのは、目の前の店員ではなくて隣にいる友達なのかもしれないと、私は思った。
友達がいたから、楽しかった。


私たちは共通の趣味があり、mixiで知り合った。もう8年も前の話だ。
そのころ地方に住んでいた私は、SNSで出会った都会の子とその後会うことになるなんて、想像のつかない話だった。ましてここまで仲良くなるとは。

大学に入ったころ、同じ舞台を観に行きたいことが発覚し、彼女と会うことになった。初めて会ったのは学芸大学前駅近くのマックだった(多分)

1度出会うと、そこから見る見るうちに仲良くなった。家に泊まりに来たり、いっしょにもつ鍋を食べたり動物園に行ったり、舞台やアイドルのライブに行ったり、大学生活のなかで一番頻繁に遊ぶ友達になった。同じ大学じゃないのに。

そしてわたしたちは、一人の女の子と出会ったのである。

地底アイドル(地下アイドルにも及ばない、数人の集客しかないアイドルのこと。カバー曲が多かったりする)と呼ばれるアイドルたちの対バンで出会ったAというソロアイドルは、初めて会った時からすごかった。ぱっちりした目に可愛い話し方。そして神対応。

決して誰かを見下したり、バカにしたりしているわけではないんだけれど、どうしてこの子はここにいるんだろうと素直に疑問に思った。
こんなにもかわいいんだから、見つかるところに見つかったらすぐに売れる。知識のなかった私にもそう思わせてくれる、いわゆる逸材だった。

彼女はアイドルとしての素養は最高だった反面、外的要因・環境に恵まれない子だった。
悪徳ともいえるような事務所で、賃金や時間を搾取されているにもかかわらず、守ってくれる大人がそこには居なかった。
毎日ライブをすることで疲弊する姿も、少しめんどくさそうな説教じみた客に困り顔をする姿も目にした。それでも笑顔を絶やさない彼女は真のアイドルだったと思う。

いい場所に身を置くことさえできれば、きっと彼女はトップアイドルになれる。そんな私の期待もむなしく、Aは忽然と姿を消した。
一日も休まず出ていたライブだったのに、一度体調不良で出演をキャンセルしてから、その後二度と出ることはなかった。
人から聞いた話だが、彼女は本当に限界だったらしい。身も心もボロボロになったAに、これ以上アイドルを続けることはできなかったのだ。

私と友達はAに会えないことを思いながらも、あえて口には出さずに、たまに会っては二人で遊んでいた。
数か月たったある日突然、AはAV女優として、私たちの前に現れた。

デビュー記念のサイン会に、私と友達は行った。
デビューしたばかりにも関わらず、多くの人がそこにはいた。やはり持っていた素質が素晴らしかったので、業界でも異例なほど、彼女は猛プッシュされていたらしい。案の定たくさんの人がそれに気づき、そのデビューを祝おうとかけつけていた。

私は久しぶりに会ったAと、当り障りのない会話ができた。
少しやせてさらに可愛くなっていて、それでもあの頃と何ら変わりない彼女のかわいい声をきけて、すごく嬉しかった。

DVD購入特典のチェキ撮影のとき、Aのマネージャーと思しき男性が、『女の子だからもう一枚撮っていいよ~』と陽気に言ってくれた。
あの頃一人でファンに向き合っていたAはもういない。守ってくれる大人がすぐそばにいるのだと安心した。

こうやって嬉しかったり安心したりしているあいだに、Aはますますファンを増やし、何個も作品を出していた。
それなのに私にはずっと、AがAV女優になったという実感が、どうしてもなかったのだ。
彼女が愛される姿が、あまりにイメージ通りだったからかもしれない。AV女優という違う姿になっても、それをあまり感じさせないくらい、彼女が変わらないでいてくれたからかもしれない。

AVという業界は怖いものだと思っていたけれど、Aが夢を叶えられる場所なら。そして心から楽しいと思える場所なら、それは素敵なことなんだろうな。そう思った。



何軒もはしごしてすっかり泥酔した私と友達は、ホテルに入った。私たちは飲み歩いた後よく二人でラブホに泊まる。
決して変な意味ではなくて、ただ安いし行きやすいからである。

ラブホに到着してテレビをつけた。面白半分で眺めていたAVのチャンネルに、たまたまAの作品があった。
それはAが注目されるきっかけになった、デビュー作だった。

ピンクの衣装でブリブリなアイドルソングを歌っていた彼女が、画面越しに、一糸まとわぬ姿になった。
どこからともなく某有名男優が登場し、二人が絡み合い始めた。

そういえばお好み焼き臭いんだった。わたしはその場を後にし、浴室へ向かった。



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