お菓子の思い出



それは、40年ほど前の事。
幼い私が祖母の家で遊んでいると、いとこがお客様用の丸い菓子箱開けました。中をのぞいた私は、一瞬でそのビスケットに心を奪われました。
動物の形をした一口サイズのビスケットの上には、パステルカラーの「何か」がぽってりとのっていました。
勝手に食べると怒られるので
「かわいい♡」と眺めていましたが、洗濯物を干していた祖母のお許しが出たので、いとこ達とテーブルを囲みました。うっとりとした気持ちで、ビスケットを手に取り「ピンク色のクリームだから、きっといちご味かなぁ♡」と思いを巡らしながら噛み締めました。
しかし、かわいいらしいビスケットのお味は、私の期待していたものとは違い、物凄くがっかりしました。なんとか飲み込みましたが、「もっと食べていいよ」と祖母に勧められても頑なに首を振り、断りました。

それから、月日は流れ、自分のお給料で美容室に行ける様になった頃の事。
おしゃれな雑誌にあの日食べたビスケットと同じ様にパステルカラーの「何か」で彩られたお菓子を見つけました。あの頃分からなかった「何か」は「アイシング」と言うそうで、砂糖が変身したものだと理解しました。
妙齢のお嬢さんを対象にしたおしゃれな雑誌ですので、その姿は、気高く繊細で幼き日に口にしたあのビスケットと同じものと言ってはいけない様な佇まいでした。
頭の中で、「片田舎の商店でおばぁちゃんが買い求めたビスケットと、繊細なお姿のこれは別物」とわかっていても、『もう騙されないからね、、、』と雑誌を見つめた記憶があります。

毎年クリスマスが近くなるとよみがえる、このどうでもいい記憶に、今年新しいページが加わりました。

私の娘も、ケーキ屋さんに行くたびに、あの繊細なお姿のビスケットに目を奪われるようになりました。うっとりとした瞳で、恐る恐る指でそっと触れては「欲しい✨」と言う視線を投げかける娘。でも、決して手に取らない私。
でも、そんなある日、娘と一緒にお出掛けしたおばぁちゃん(実母)が買って帰りました。娘はビスケットの入った紙袋をしっかりと握りしめ、ご満悦な顔で早く食べたいとソワソワしています。

テーブルについて、お皿にのった見目麗しいビスケットを手に取り、どこから食べようか10秒ほど思案し、そっと口にした娘。しかし、娘は一口かじると無言で大人達を見比べ始めました。そして、口の中のビスケットを飲み込みました。すると、意を決したように向かいに座っていたおばぁちんに残りのビスケットを手渡し、小走りで手を洗いに行ってしまったのでした。

そんな娘を見ながら大人2人は、残ったビスケットをつまみ「これでもう欲しいとは言わないね」と笑ったのでした。

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