『フィクショナル香港IBM』2024.5.1~6終演に寄せての笠浦の個人的な御礼

劇団としてのコメントはXに述べさせていただいた通りです。
関わっていただいたすべての方々、とくにご来場いただきましたみなさんに、心から、深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
 
ここでは、(脚本公開の必要性にせまられて)笠浦のnoteをせっかく作ったので、個人的な終演に寄せての御礼を書きたいと思います。
 
鎌田順也さんの話です。
最初に言うと、私はただ鎌田さんの作品を観ていただけで、人としては特につながりはありません。お人柄もほとんど存じ上げません。
 
私がはじめてナカゴーを観たのは2012年、王子小劇場でやっていた『黛さん、現る!』です。
黛さんは非常にあっさり現れ、檀れいが暴れまわり、終盤は長尺の暴力が支配します。まぎれもない傑作でした。
私は20歳で、こんなにとがり切った笑いで劇場が揺れるほど爆笑できる東京のお客さんたちはキマってるな!と思ったものです。私も腹ちぎれるほど笑いましたけど、なんだかそのことが、演劇分かってる都会人の一員という感じがして、帰り道嬉しかったです。
どのへんの席で観ていたかとか、舞台セットの感じとか、今でもありありと思い出せます。
 
時は過ぎ、鎌田さんはナカゴーとともに、ほりぶんという劇団をやるようになり、そして北とぴあでたびたび公演されるようになりました。ほりぶんというのは、もともと北とぴあのすぐ近くにあったスーパーの名前です。今は閉店してしまいました。
同じころ私は北とぴあのお向かいの王子小劇場でバイトをはじめ、とても観に行きやすくなりました。
 
北区文化振興財団というのがバックアップされているそうで、公共のちゃんとしたところが手を結ぶにしてはあまりにも破天荒な作風だと思いましたが、「センスいいじゃん北区!!!」と勝手に誇らしい気持ちにでいました。
14階のカナリアホールでやっていた『ノットアナザーティーンムービー』とか『牛久沼』とか、本当にやばくて、面白すぎて逆に面白くないのではないか?とまで思える、これが面白いのであれば他の全部が面白くないことになるのでは?と混乱する、ハチャメチャな演劇でした。
 
さらに時は過ぎ、一昨年2022年には、MITAKA "Next" Selection 23rdというのにほりぶんが選ばれ、同じ機会にやみ・あがりシアターも選んでいただき、「あのほりぶんと一緒!えらくなったもんだ!!」となりました。
『一度しか』は最高でした。せっかくのご一緒の機会でしたが、声はかけられませんでした。コロナ禍でもあり、接近するのも躊躇しましたし、なにより何を話していいか分かりませんでした。
 
去年2023年のGWにはナカゴー特別劇場『もはや、もはやさん』『ひゅうちゃんほうろう』の2作が北とぴあカナリアホールとペガサスホールで同時上演されました。
 
同年7月の半ばごろに、職場(王子小劇場)の電話に出ると、鎌田さんでした。その電話自体は普通の事務連絡で、30秒くらいで終わりました。とくに名乗りもしませんでしたが、鎌田さんとおしゃべりできたのが嬉しくて、「今日鎌田さんとしゃべった」と周囲に自慢しました。今思えば、普通この程度のことをしゃべった、とは言わないと思いますが。
 
8月のはじめに、公式の発表から、鎌田さんの訃報を知りました。
 
さらに数か月後、劇団として2024年のGWに北とぴあを使わないかというお話をいただき、たいへんありがたい話とは思いつつ、お返事するのにかなり時間をいただいて悩んでしまいました。
北とぴあでGWに鎌田さんの作品が観られるのは毎年の定番だったし、今年だってもちろんその予定でした。
 
悩んだ挙句、お話をお受けしました。 
今回の稽古期間、小屋入り中と、北とぴあで過ごすなかで、躯体に思
い出が匂いのようにしみついているように感じました。
本当ならばこのGWに、ここにあったはずの演劇についての想像が、私の後頭部に手のひらのように張り付いて、叩かれたり撫でられたりしました。
 
私は鎌田さんの作品で人生が変わった、とかはありません。そういう人生訓とは無縁の作品で、そこが一番かっこいいところです。
作劇として影響を受けた点もゼロだと思います。どの部分についても、マネできるようなものではありません。唯一無二で、本物の天才でした。
鎌田さんの作品を観ている時間はものすごく無駄な時間で、学びも教訓もないすばらしい時間でした。
 
鎌田さんと身近な人の悲しみにくらべれば、私の抱えるものなんて、本当にわずかでしょうし、悲しいと口に出すのもおこがましいような思いで、ましてや作品をささげるなんてことはとんでもないことです。
 
ただ、観客の一人としてお礼を申し上げるにとどめさせていただきます。
鎌田さん、たくさんの面白い、忘れがたい演劇をみせていただき、本当にありがとうございました。

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