映画を撮ろう。

どうにも今晩は気分が落ち着かない、少しだけ胸がざわざわする。きっと胸のうちに様々な心配事が折り重なってとげとげしているからだろうと思う。近頃は書き物をしていなかった。

何を書こうか考えて、そういえば今やっている活動のことをきちんと公表していなかったなと思い出す。


というわけで、自主製作映画を撮っています。芸術の道と恋の道とを同時に前にした、二十歳の画家志望の男の子の話です。映画といっても、ほんの五分くらい。あまり小さく短い、人生の中のほんの断片のような映像になる予定です。3月ごろにYoutubeで公開します。


去年の五月思いついて、ゆっくり考えるとこから始めた。いろいろ困難はあったはずなのだけど、それを気にするということは特になかった。自信があったとかそういうわけじゃなく、ただただ、自然に映画を撮りたいと思って、そのささやかな衝動がそのまま運河のように進行して、およそ十カ月ほど経った先週、京都の某所で最初の撮影をした。ちょうど大寒波の日で、雪こそ降らなかったものの、なかなかひどい目にあった。

そんな流れだから、映像そのものも、とても静かなものになると思う。けれども、ただ静かなだけでもない。見た目の表情の微かな変化の奥に秘められた、狂おしい感情のうねりを、想像できるだけの余地と余白のある映像にしたいと思っている。それには音楽の力も借りるし、映像の色味も変える必要がある。何より、役者の顔に、目の奥のゆらぎに、クローズアップする必要がある。そういう演出の要素を考えているうちに、僕は「そういうもの」が表現したかったのだと気づいた。小説に描いてきた人間の深いところにある心情や、演劇に見てきたなまの人間の持つ立体感を合わせた、一人の人間の体験と決意の断片を。

現実の人間の生は長すぎて、どれだけ意味的な強さがあってもそれを余さず伝えられない。だから表現する者はそれを適切に切り取り・編集して提出する必要がある。少なくとも僕は自分の体験の断片を、自らの一部分を作品としてこれまで出してきた。それがある意味では自分にとって必要だったのだろうし、それによって自分のことを誰かにわかってもらいたかったのだと思う。そこはおそらく、今もそういうところはあるだろう。ただ、去年ぐらいからか、そうした自意識の過剰が少しだけやわらいで、地下水のようにただ創るという想いが湧き上がってくるのを感じるようになった。もっと言うなら、このカタチのない湧水的な想いを、独立した登場人物の心情というカタチで定量化しておきたくなった。わかりやすく言えば、誰かに見せるということから、作品とした表現しておくことに、重点が移った。

いろいろと自分や他人の感情や思考を観察しているうち、その中でいちばんどうしようもないのが人のうちからこみあがってくる衝動というものであることに気が付いた。まあ当たり前のことなのだけれど、「好き」という感情に理由はないし、「好きじゃない」という感情にはもっと理由がない。それはその人という個人の内から湧き上がってきて、その人本人にもどうしようもないものだ。否定しようにも、一度そのように思ってしまった以上、どんなに理屈をこねてもそれをを誤魔化すことはできない。理性は容易く感情に敗北する。

例えば、去年劇団コロッケロッカーの卒業公演でやった「あいたいいたい」は、病気を理由に自分の前から姿を消した女の子にただ「あいたい」と願う男の子の話だった。本当にただそれだけの話だった。けれど僕と役者たちはそのためだけに二ヶ月近く稽古にはげんだ。役者たちはほんの短い戯曲の中に深く深く共に潜ってくれた。本番中、少なくともその二十五分ほどのあいだは、小さな舞台の上に実際に「あいたい」と願う男の子の人生が確かにそこに在ったと思う。それは本当に僕がやりたかった芝居だった。

その時「あいたいいたい」で主人公の男の子をやってくれたガトーが、今回の映画でも主役をやってくれている。ヒロインには同じく卒業公演からコロケロに加わり現在はコロケロ副団長を務めるうえちょいにお願いした。そのほかにもスタッフや音楽、特別な小道具の制作を各分野の人に頼んでいて、ありがたいことに僕自身がその完成を楽しみにしているような状態だ。

これだけ書いておきながら実際に映画撮影に関しては素人の付け焼刃でしかないのだけれど、それはそれ、そんな自分がどれだけのものを撮れるのか、試してみるのも悪くない。どうせ失敗しても失うものは(少ない給料から自腹で出している予算以外には)何もない。なんだったら作品が完成しそこに感情が宿りさえすれば、Youtubeの再生回数が47回でストップしたって別に構わない。ただ、それでは参加してくれている人に申し訳が立たないので、そこはある程度責任をもちたいし、そういう意味でいろんな人に見てもらいたいと思う。これからSNSを中心に宣伝活動もしていくつもりだ。けれど、ともあれまずは、このような形でもって正式に制作告知とさせていただきたいと思う。

乞うご期待。


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