PAGESのこと

 Sexy Zone LIVE TOUR 2019 PAGESが終わった。すてきだった、楽しかった、と、一言で終わらせられない、たくさんの気持ちが詰まったコンサートだった。
 アイドルに関わるすべてのものについて、いままで私は、目の前に出されたものを勘繰らずにただ受容することが最善だ、と、思っていた。アイドルの内面や人柄が好き、なんて言っちゃいけないし、アイドルが私たちに見せてくれているすべてが、作られ、計算され尽くしたものなのだから、その精密さにうっとりすることがファンとして自分にできることのすべてだ、と、思っていた。たとえば「○○くんはきっと○○だろう」といった憶測を含むことは、絶対に口にしないように留意していた。身近にいる家族や友人に関してだって、理解できていることなんてひと握りもきっとないのに、ましてやアイドルに関して、いいことも悪いことも含めて、見えない部分について憶測を重ねて分かったふりをしたくなかった。
 『PAGES』というアルバムのタイトルが発表されたとき、なんだか集大成っぽい名前だ、という印象を持った。積み重ねてきたページを1枚ずつ捲るような、それこそアルバム然としたものであるような。『PAGES』が『Photo Album Gather Emotion Sexy Zone』の頭文字を取って付けられたタイトルであること、考案者が勝利くんであることが明かされたとき、私はその意味について考えることを放棄していた。新しいアルバムが発売されるのはおめでたいこと。このタイミングで新しいアルバムが発売されることの思惟は考えないようにして、松島くんがいないという、目に見える事実だけを思った。それでも歩みを止めないSexy Zoneのことを、だからこそらしくて大好きだ、とも思った。けれど、どうしようもなく寂しかった。4人のジャケット、松島くんの声のしない楽曲、松島くんのいないコンサート。過労やストレスが原因とされているパニック障害の、ストレスの部分にファンが、自分が、起因している可能性についても考えた。応援していることが、ファンレターを送ることが、もしかしたら重荷になるかもしれない。がんばらなくてはいけない、という、圧力になってしまうかもしれない。それでも、自分勝手な憶測で松島くんを応援しないことを選択したとして、私は生きていられない。コンサートに誘ってくれた友人には感謝しかなく、私が行くのを躊躇っていたことも受け入れてもらえた上でコンサートに同行させてもらった。松島くんのいないコンサートを楽しむことができるか、そして、楽しんでいいのか。寂しい気持ちを抱えながらコンサートに行くことはもったいなくてかなしい。そもそも、松島くんにいちどでも「ファンを寂しい気持ちにさせた」という実績を作ってほしくなかった。松島くんがいないことで私はとても寂しいけれど、それを松島くんのせいにしたくなかった。松島くんがいなくても楽しかった、松島くんがいなかったから楽しくなかった、どちらの感想も持ちたくなかった。とにかく私はSexy Zoneのみんなが好きだから大丈夫、と、結論づけて、なんとなく折り合いを付けた。
 『PAGES』は、とてもすてきなアルバムだ。ひとつひとつの楽曲に緩急があり、その緩急がなめらかで、とても耳馴染みが良い。なにより、5人のSexy Zoneの歩みがあってこそのアルバムのような気がした。アルバムをある程度自分たちでディレクションできるようになるまで、また、この楽曲たちを手に入れるまでにかかった年月について考えた。『ぎゅっと』以降、自然にすこぶるやさしそうな麻や綿の服を着る機会が多くなっていたSexy Zoneが、その路線も丁寧に残しつつ、環境破壊の権化のようなギラギラの衣装が似合いそうな楽曲や、王道アイドルなカワイイ衣装が似合いそうな楽曲もアルバムに入れてくれたことがうれしい。それに『PAGES』には、松島くんのやさしい歌声がぴったりな楽曲がたくさん収録されている。『CRY』や『make me bright』なんて、松島くんの声で聴いたらベソベソ泣いちゃうだろう。すべての楽曲を松島くんの声ありきで聴くことはもう、叶わないのかもしれないけれど、これからのコンサートできっと適切なタイミングで歌ってくれるのだ、彼らならば。
 Sexy Zoneは今回のツアーで、見えないところにある物語に気づくことを求めた。それはメンバーカラーに光る、くまのついたペンライトひとつ見ても明らかだった。一曲目に、おそらくいちばんのキラーチューンである『カラクリだらけのテンダネス』をぶち込んできた時点で、Sexy Zoneから「このコンサートを楽しまない選択肢なんてない」ということを提示された気がした。それは、絶対に楽しませるぞ、という気概でもあった。会場じゅうを走りまわる4人はやっぱりどうしようもないくらいキラキラしていて、好きからは逃れられなかった。『Wonder Love』で脳を破壊されたりもしたけれど、ずっと楽しかった。『ゼンゼンカンケイナイ』のグチャグチャさも、悪ふざけに全振りしたときのSexy Zoneが大好きだから口角が痛くなるまで笑った。そして、最後の『CRY』で、はじめて泣くことができた。4人だって松島くんがいなくて寂しかったことが分かった。むしろ、私たちよりずっと松島くんといっしょにいるメンバーが私たちより寂しくないわけがなかった。それは直接口に出して言われたことではないけれど、たしかにそうだった。いままで、走ってずんずん前に進んでいくSexy Zoneの背中を、小走りでなんとか見失わないようについて行っていたように思う。Sexy Zoneは勝手に売れて、勝手にトップアイドルになる、そう思っていたからだ。『PAGES』ではじめて、かなしい、寂しい、そう思っていいよ、と、振り返って手を取って歩いてくれた気がした。松島くんがいなくて寂しくてどうしたらいいか分からなくなっているひとも、松島くんがいないコンサートでも目一杯楽しみたいひとも、コンサートに来られなかったひとも、そして松島くん自身も、4人は誰ひとり取りこぼさなかった。Sexy Zoneが5人になってはじめて、いっしょにがんばらせてもらえる機会をもらった気がした。
 シャッターを押していたのは松島くんだった。写っていなかっただけで、4人とずっといっしょにいた。ファンにはいままでの松島くんの、Sexy Zoneの歩みが、提示されなくても見えていた。だから大丈夫、と、言われた気がした。Sexy Zoneにとっての「てっぺんを獲る」ことは、おそらく、より多くのひとの揺るぎない「いちばんになる」ことだ。『カラクリだらけのテンダネス』からSexy Zoneを好きになったひとも、『PAGES』からSexy Zoneを好きになったひとも、今回がはじめてのSexy Zoneのコンサートだったひとも、松島くんが戻ってくるのを楽しみに待っていてほしい。もっともっとすごくなるから。
 5人揃ったSexy Zoneは無敵なのだから。