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ベトナム縦断記。その3(ハノイ大聖堂〜タンロン水上人形劇場)〜流暢アメリカ人と片言ベトナム人

ハノイ大聖堂は1886年に開かれたカトリック教会で、正しくは聖ヨセフ大聖堂(St Joseph Cathedral)という。フランス統治時代に建てられたもので、コロニアル建築と呼ばれる歴史的建造物群の代表格だ。

雑多としたアパート街の中にいきなりあらわれた建物は、細やかな彫刻で彩られている。あたりを見渡すと、じっと手を合わせ祈りを捧げている人がいた。僕から見れば100年以上前の”遺物”だが、”生きた建築”として誰かの心を支えているのだろう。賑やかな通りの中にあって、静寂に少し重みを感じた。夜はライトアップが綺麗だと聞いていたが、少し日没まで時間があったようで暗い外観が、重みに拍車をかける。

大聖堂から徒歩圏内に、ホアンキム湖という小さな湖がある。ベトナムの古い神話にも登場する湖で、周辺は現地人・観光客で盛り上がっていた。続いて足を運んだのは、タンロン水上人形劇場。
その昔、田園地域で始まったとされる娯楽で、人形を水中に隠した棒で操り、音楽と共に物語を演じる古典芸能である。ベトナム各地に人形劇専用の劇場があるが、その中でも特に歴史のあるタンロン劇場に出かけた。

人気のためチケットが取れないこともあるというが、なんとかその日の最終公演の席を押さえることができた。せっかくなので一番いいグレードの席を買う。値段は約1000円、手ごろすぎる。
夕食を食べてから劇場に入る。演目の音声ガイドが聞ける機械が貸し出されていたので、日本語のものを購入し席についた。
幅10mほど水が貼られた舞台の両側に、伝統的なものだろうか。見たことのない弦楽器が並んでいた。

やはり人気の観光スポットということもあり、多くの人々で場内は賑わう。端の席に腰掛けていた僕の前を、次々と観光客らしき人が横切っていく。

ーExcuse me.

なんて声をいくつか聞き流していると、NBAでスラムダンクを決めまくっていそうな体格のいい男性が前を通った。

ーすみませんね

確かにそう聞こえた。繰り返すが、バスケットボールスターのような風貌だ。滑らかな日本語が聞こえてくるはずがない。
隣に腰掛けた男性は続ける。

ーいや〜人多いっすね

驚いたぼくの反応を楽しんでいるようだ。後から聞いたのだが、普段は日本に住んでいるアメリカ人だという。来日して6年目だそうだ。ハノイには2日前から来ているらしい。それにしても流暢な日本語だ。片言ではない。
思いがけない出会いもあるな、なんて思いながら、ハノイのおすすめスポットを聞くと、

ーピザ屋がうまかったっす。日本人がやってるんですけどね

ベトナムらしさゼロじゃないか。ベタな場所を期待していた僕に、彼はインスタグラムに投稿したという写真を見せてくれた。
具材たっぷりで食欲をそそるピザの写真には、
#めっちゃ美味しい
#チーズの伸びがすごい
と、日本語だけが添えられていた。

アメリカ人の衝撃で、人形劇のことはあまり覚えていない。
独特の動きをしながら、水を活かした演出でなかなか見応えはあった。
唯一はっきり覚えているのは、音声ガイドの日本語が現地人による片言のもので、正直何を言っているのかあまりわからなかったことくらいだろうか…。



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